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国際スポーツ栄養学会 ISSNが「女性アスリートの栄養上の懸念」について見解

国際スポーツ栄養学会(International Society of Sports Nutrition;ISSN)はこのほど、「女性アスリートの栄養上の懸念」についてのポジションスタンド(見解)を「Journal of the International Society of Sports Nutrition(JISSN)」に掲載した。アスリートの栄養に関する性差、エネルギー要件、性ホルモンの影響と基質代謝、その他の特に考慮すべき事項、サプリメントといった項目が立てられている。要旨を抜粋して紹介する。

国際スポーツ栄養学会(ISSN)が「女性アスリートの栄養上の懸念」について見解

国際スポーツ栄養学会(ISSN)のポジションスタンドは、「JISSN」誌の編集者と研究委員会が、JISSN読者が興味をとくに抱くと判断したトピックに関する招待論文。包括的な文献レビューに基づき執筆されたものを、JISSNの編集者と研究委員会が承認し発表される。今回は女性アスリートの栄養に焦点が当てられた。

性差についてのオーバービュー

女性ホルモンとアスリートの月経異常

主な女性ホルモンはエストロゲンとプロゲステロンであり、どちらも代謝と栄養のニーズに対して作動的(agonistic)と拮抗的(antagonistic)に働く。両者の比率とレベルは、安静時と運動中のエネルギー基質として利用される主要栄養素の比率に影響を与える。

女性アスリートの代謝と栄養のニーズに対する女性ホルモンの潜在的な影響の深い理解のために、生殖年齢の女性アスリートが経験する可能性のあるさまざまなホルモン環境を認識しなければならない。ホルモン避妊薬を使用していないアスリートには、無月経、稀発月経が生じうる。月経異常が女性の健康との関連は明らかであり、重要な研究分野である。

ホルモン避妊薬、閉経期および閉経後

女性アスリートは、さまざまな理由からホルモン避妊薬を使用することが少なくない。ホルモン避妊薬にはエストロゲンとプロゲストゲンの誘導体が含まれており、その作用に留意が必要な場合がある。例えば体液バランスへの影響が生じる可能性があり、また外因性ホルモンは内因性ホルモンよりも、運動時のグルコース代謝に大きな影響を及ぼすというデータがある。

閉経期以降は、筋タンパク質合成の同化抵抗、インスリン抵抗性、腹部脂肪蓄積の増加、除脂肪体重の減少、骨密度の低下、および消費エネルギー量の減少が生じる。インスリン感受性、除脂肪体重、骨密度の維持をサポートするための栄養管理が、体組成や健康状態、およびパフォーマンスの向上につながる可能性がある。

エネルギー要件:摂取量と可用性

エネルギー可用性の低下(LEA)

エネルギーの利用可能性が低下した状態(low energy availability;LEA)は、スポーツにおける相対的なエネルギー不足(relative energy deficiency in sport;RED-S)の根本的な病因であり、摂取エネルギー量が運動による消費エネルギー量より少ない場合に発生する。そのような場合、体には運動以外の生理学的機能を適切に維持するために必要なエネルギーが残っていない。

アスリートはLEAリスクの高い集団だが、ソーシャルメディアのプレッシャー、コーチ/チームメイト/自分自身が発する体型の外観(見た目)に対するプレッシャー、および、体重が軽いほどパフォーマンスを発揮しやすいのではないかという信念がある場合に、LEAリスクはより高くなる。女性アスリートのLEAやRED-Sについては既に多くのレビュー論文が発表されている。

脂肪減少を促進する手段としてRED-Sを考慮する場合、女性よりも男性の方が影響が大であることが報告されている。これは、運動によるエネルギー調節ホルモンと食欲の変化の性差に起因すると考えられる。女性は、身体活動に応じてグレリン、インスリン、レプチンレベルが変化し、体脂肪の喪失を防ぎ生殖機能を維持するメカニズムを有している可能性がある。ところが、混合経口避妊薬(combined oral contraceptive;COC)を用いた場合、エネルギー欠乏に対する視床下部の反応が弱まる可能性も示唆されている。

LEAの予防と治療に関する推奨事項

  • 女性アスリートでまず考慮すべきことは、ホルモン状態にかかわりなく、トレーニングやパフォーマンスの要求に応じた目標と要件を満たすエネルギーの利用可能性(energy availability;EA)を維持すること。
  • 黄体期ではエネルギー必要量が増加するため、正常月経のアスリートは、この期の摂取エネルギー量を増やすことを検討すべき場合がある。
  • 混合経口避妊薬(COC)を使用すると、エネルギー可用性の低下(LEA)の初期兆候がマスクされ、LEAの発見が遅れてその影響を抑える機会が減少する。
  • 運動と食事摂取のタイミングに配慮することで、体タンパク同化が促進され、意図的なエネルギー不足としている場合にも、健康、パフォーマンスへの負の影響が抑制される可能性がある。
  • 体重と体組成の最適化のためにエネルギー不足の状態が望ましいこともあるが、女性アスリートでは、摂取エネルギー量の少ないことによる神経内分泌反応への影響が大きいことを理解する必要がある。

炭水化物とタンパク質についての推奨事項

論文はこれ以降、性ホルモンによるエネルギー基質代謝への影響、炭水化物やタンパク質などの代謝の性別による差異、サプリメントの影響などについて、考察が重ねられている。それらのうちいくつかのトピックについては、文献レビューに基づく推奨事項が箇条書きで記されている。その一部を紹介する。

炭水化物代謝における性差

  • 混合経口避妊薬(COC)を使用していない正常月経の女性では、グリコーゲンの利用可能性がパフォーマンスを制限する可能性がある競技またはトレーニングにおいて、常に、とくに卵胞期(グリコーゲン貯蔵量の減少)において、十分な炭水化物の摂取に焦点を当てながら、十分なエネルギー量を摂取することに注意する必要がある。全般的な健康状態だけでなく、運動時間や強度、環境要因(暑さ、寒さ、高度)も考慮すべき要素に含まれる。
  • COCを使用している女性は、外因性ホルモンに関連する高度な酸化ストレスを軽減するために、ピルサイクルのすべてで適切な炭水化物の利用可能性を確保する必要もある。

運動中

  • 入手可能なデータが限られているが、女性アスリートは月経周期/ホルモンの状態を確認し、その周期全体で消化器症状の問題が発生した時期や、炭水化物摂取量が消化管耐性に影響する上限(60g/時超)に近づいていないかを確認する必要がある。
  • 現実的には、グルコース動態/運動代謝に対する月経周期の影響を相殺するために、運動中に炭水化物を30~60g/時のペースで摂取することが考慮される。これにより、潜在的な消化器障害、免疫障害、体タンパク質の異化も抑制される。

運動後

  • 24時間内の複数回のセッションなどでは、パフォーマンス最適化のため、内因性グリコーゲン貯蔵量を補充することが最も重要となる。それによって、炭水化物の利用可能性を向上させ、トレーニングへの積極的な適応と健康を促進することが可能となる。
  • 入手可能なデータが限られているが、女性アスリートは長時間の運動後の筋グリコーゲンの回復に、少なくとも1.2g/kgの炭水化物を急速に摂取することに重点を置くべきであると推奨する。

タンパク質代謝における性差

  • 女性アスリートのタンパク質需要に対する内因性および外因性のホルモンの影響に関する研究はごくわずかである。
  • 閉経前の正常月経および避妊薬を使用している女性アスリートは、運動誘発性のアミノ酸の酸化的損失を補充するために、運動後できるだけ早く高品質のタンパク源を0.32~0.38g/kg摂取することを目指すべきである。それによって筋タンパク質のリモデリングが促される。
  • 閉経前後および閉経後のアスリートは、体タンパク質同化抵抗を抑制するために、できるだけ運動の終盤に高濃度の必須アミノ酸(約6~10g)を含むタンパク質食品、またはサプリメントをボーラス摂取することを目指す必要がある。
  • 正常月経の女性は月経のすべてのサイクルで、タンパク質摂取量を現在のスポーツ栄養ガイドラインの中程度から上限の範囲内に収める必要がある(1.8~2.2g/kg/日)。黄体期の正常月経アスリートは、プロゲステロンによるタンパク質異化の影響を抑制するために、摂取量を最大12%増やすことを検討する必要がある。閉経前後および閉経後の女性はスポーツにかかわりなく、この範囲の上限を目指す必要がある。長期(24時間超)の回復期間中の筋タンパク質の修復とリモデリングを最大化するためには、3時間ごとに適度なタンパク質(約0.3g/kg)を摂取すべきである。
  • 睡眠前のタンパク質摂取が、エネルギー量が不足していない女性アスリートにとって有益かどうかは不明だが、エネルギー利用可能性が低い状態にある女性アスリートでは、筋肉痛を軽減し回復を促進するために、睡眠前のタンパク質摂取がメリットとなる可能性がある。

文献情報

原題のタイトルは、「International society of sports nutrition position stand: nutritional concerns of the female athlete」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2023 Dec;20(1):2204066〕
原文はこちら(Informa UK)

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