熱中症警戒アラートが発出された時の人々の行動や対策などを3カ国60カ地点で調査
日本では毎年5月ごろから、気象庁や環境省が熱中症軽快アラートを発出し、市民に対策を呼び掛けているが、このアラートの発出により、人々の行動パターンは変化するのだろうか? 今回紹介する論文は、日本は含まれていないが世界3カ国、60地点で暑さ警報が発出された後24時間の人々の行動の変化を調査した報告だ。暑さ対策として最も一般的な手法は、成人、子どもともに屋内にとどまることだという。
暑さ警報はどの程度、役立てられている?
夏季を中心に発生する熱中症は、日本に限らず多くの国で救急搬送数の増加や死亡率の上昇などを招いている。それに対して、各国の行政府により、我が国の熱中症警戒アラートと同様の警報が発出されている。では、そのアラートが発出されたとき、人々はそれによってどの程度、行動を変えているのだろうか?
このような視点で行われた研究は、少ないながら既に存在する。ただし、それらの研究は、アラートが発出された時点での調査ではなく、一定期間を振り返って回答してもらっているといった点で信頼性や精緻性が十分でない。これに対して、近年のモバイル関連技術の進歩を活用することで、アラートが発出された直後の人々の行動パターンを調査することが可能になった。今回発表された研究は、そのような手法によって行われたもの。
暑さ警報発出日の行動を24時間以内に報告してもらうシステムを構築
この研究は、米国、カナダ、スロベニアで実施された。研究参加者は、ソーシャルメディアなどを通じてスノーボール方式で増やしていった。60地点の居住者285人(うち18歳以下が118人)が参加。
行政府から各地点の居住者向けにインターネットを通じて発出されるメッセージを常時把握し、そのメッセージに「高温」、「熱波」、「警戒」などの語句が含まれている場合に、研究参加者へその後の行動に関するアンケートに回答するようメールを送信するというプログラムを作成し、これを研究に用いた。メールを受信した研究参加者は、アラートの対象時間が終了してから24時間以内に、自分のとった行動の報告を求められた。12歳以下の場合、送信前に保護者に確認してもらった。
アンケートの質問項目には、暑熱感覚、口渇感、水分摂取量、摂取した水分の種類、身体活動量、睡眠時間、座位時間などが含まれていた。なお、3日連続でアラートが発出された場合は、アンケートへの回答を促すメールは送信しないこととした。これは、研究期間中に、連日のリクエストが負担になるとの声が上がったことに対応した処置であり、研究参加者が回答への興味を失ってしまう可能性を回避するため、この措置をとった。実際、10日間連続でアラートが発出されたことがあった。
アラート発出日の身体活動や睡眠時間、暑熱感覚、口渇感の年齢層による違い
2021~22年の6~9月に、調査地点の95%にあたる57カ所で、少なくとも1回のアラートが発出され、延べ件数は834件だった。これに対して1,295件の回答リクエストメールが送信され、97人から271件の回答が寄せられた。97人を年齢層で分けると、10歳以下(小児)が18人、11~18歳(思春期)が13人、19歳以上(成人)が66人。
結果についてまず、身体活動や座位行動、睡眠時間について年齢層別にみると、暑さ警報が発出された日の高強度身体活動は、成人より思春期(p=0.007)や小児(p=0.05)のほうが多くの時間をあてていたが、座位行動の時間の群間差は非有意だった。睡眠時間に関しては、小児および思春期ともに成人より有意に長かった(p<0.0001)。
暑熱感覚や口渇感については、年齢層による有意差は認められなかった。
口渇や暑熱に対する行動
成人の15%が口渇感に対してアルコール摂取し、思春期の2割は何も摂取せず
次に、口渇感が生じた時に摂取されたものをみると、全回答者の88%強が第一に「水」を選択していた。2番目に多く報告された選択肢は「ジュース」で、思春期では46%が選択し、小児も28%、成人では21%が選択していた。また、成人の15%がアラート発出中の口渇感に対してアルコールを摂取したと回答しており、著者らは「注目すべきこと」と述べている。
このほか、思春期の18%と成人の3%は、口渇感を感じた際に「何も飲まずに口渇感が自然になくなった」と回答していた。小児ではこれに該当する回答はみられなかった。
アラート発出後の行動
屋内退避:小児は屋内退避をあまりしない
続いて、アラートが発出されたあとの暑熱対策をみると、屋内にとどまることが、すべての年齢層でトップに挙げられた。その割合は成人では76%、思春期は69%、小児は28%であり、小児は思春期や成人に比べて、アラート発出後に屋内に移動したとする割合が有意に低かった(p=0.03)。
水分摂取:小児は水分をあまりとらない
2番目に多くとられていた行動は水分摂取であり、成人の58%、思春期の46%、小児の22%がこの行動をとった。成人と小児との間に有意差が認められた(p=0.02)。
身体活動の制限:思春期はこの対応を全くとらない
身体活動量を減らすという対応は、成人の36%と小児の17%から報告された。一方、思春期からこの行動をとったとの報告は全くなかった。
冷水シャワー・水浴:思春期ではこの対応がほかの年齢層より多い
冷水シャワーや冷水浴の利用は思春期の31%から報告され、年齢層別で最多だった。次いで成人が24%、小児は17%。
このほか、エアコンの使用は成人が41%で最多であり、次いで思春期が21%、小児が17%だった。せっかくのアラートが十分に活用されていない可能性がある
論文の結論には、「熱波襲来中の子どもと大人双方の暑熱感覚や対処行動を、ほぼリアルタイムで把握した本研究は、このような手法の有用性を実証したものとなった。観察された行動パターンから、アラートが発出中においても、熱中症回避のための現行の公衆衛生ガイドラインが無視されることが多く、とくに子どもは大人に比べて対処行動が少ないことが明らかになった。非成人は暑熱環境においても身体活動量をあまり減らしていない。この結果は、熱中症リスク抑制のための、より一層の啓発活動の必要性を浮き彫りにしている」と述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「24-h movement behaviour, thermal perception, thirst, and heat management strategies of children and adults during heat alerts: a pilot study」。〔Front Physiol. 2023 May 9;14:1179844〕
原文はこちら(Frontiers Media)
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