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女性のパフォーマンス向上やボディメイクを目的とする薬物使用の懸念 オーストラリアのインタビュー調査結果

女性がパフォーマンスや体組成・体格改善のために薬物を用いることに関する懸念材料を定性的に調査した研究結果が、オーストラリアから報告された。女性特有の問題が浮かび上がったと述べられている。また、とくに懸念されることとして、無資格のアドバイザーの影響が指摘されるという。

女性のパフォーマンスやボディメイクのための薬物使用の懸念 インタビュー調査

パフォーマンスや体格・体組成を向上させる薬剤(PIED)の女性での使用実態は?

パフォーマンスの向上や、筋量・筋力増大を含む体組成・体格の改善(ボディメイク)のための薬剤(performance and image enhancing drug;PIED)を用いることは、もちろんドーピング行為であり、競技アスリートでは厳しく禁止されている。ただし、アンチ・ドーピング検査の対象に含まれない競技に参加している個人が、個人的にそれらの薬剤を使用することを明確に禁止することは困難なことも確かであり、PIEDの使用が広がっていると考えられている。例えば、本研究が行われたオーストラリアでは、主要なPIEDの一つである同化ステロイド(anabolic-androgenic steroids;AAS)の非医療目的での生涯使用率が、2019年調査において人口の0.8%であり、これは2016年の0.6%から有意に上昇し、過去1年間での使用率は0.2%だったという。

これまでのPIED使用実態調査は主として男性を対象に行われてきている。これは、筋量や筋力増大を図ろうとする人が男性に多いという一般的な理解が背景にあると考えられる。女性のPIEDの使用の実態はほとんど明らかにされていない。しかし、わずかに存在する研究報告からは、男性のステロイド(AAS)使用率が6.4%の集団で、女性では1.6%というデータがあり、女性でのPIED使用が皆無というわけではない。

げっ歯類を用いた研究では、外因性ステロイドによる筋量への影響は、雄のほうが強く現れる可能性が示唆されている。とはいえ、ヒトの女性においても、AASを使用している場合に筋力が強化されることがわかっている。一方で女性がAASを使用することにより、声が低くなり、髭の発育などの男性化や萎縮性膣炎、陰核肥大などの女性特有の副作用が現れることがある。

32人の対象のうち14人がPIEDの使用を報告

これらを背景として本論文の著者らは、女性のPIED使用に伴う懸念材料を整理するため、インタビュー形式の定性的研究を行った。

調査は半構造化インタビューとして実施された。対象は研究者の個人的なつながりを起点として、スノーボール方式で増やしていき、32人となった。内訳はコーチ10人、ジムオーナー2人、アンチ・ドーピング関係者7人、アスリート24人、その他の関係者1人であり、本人がアスリートであり他の立場を兼務している場合が含まれている。アスリートは主としてパワーリフティングなどのPIED使用率が高いことが想定されるスポーツを行っていた。全体として女性が20人、男性が12人だった。

インタビュアーはインタビュー調査の経験が豊富な1人の研究者がすべてを行った。新型コロナ感染症パンデミック中に実施されたため、すべてzoomによるオンラインで実施された。参加者の希望によりグループインタビューとした1件を除き、すべて1対1の個別インタビューとした。要した時間は15~90分の範囲だった。

32人のうち14人の参加者がPIEDの使用を報告した。使用が報告された薬剤は、男性ホルモンのテストステロン、同化ステロイド(AAS)のほかに、成長ホルモン、インスリン、甲状腺ホルモン、選択的アンドロゲン受容体モジュレーター(SARM)、その他だった。

女性のPIED使用に関する四つの懸念材料

音声を文字に起こした後の分析によって、女性のPIED使用に関連する懸念は、(1)アンチ・ドーピング検査の対象とされないスポーツへの参加、(2)コーチによるPIED使用の勧め、(3)PIED使用のモニタリングの必要性、および(4)PIED使用のダークサイドという、四つのテーマに統合された。ここでは、(1)、(2)および(4)のまとめの一部を紹介する。

アンチ・ドーピング検査の対象とされないスポーツへの参加

アスリートがアンチ・ドーピング規定を受け、抜き打ちの薬物検査が課せられる状況にある場合、女性の間でのPIED使用はそれほど大きな懸念材料ではないと認識されていた。一方、そのような規定に拘束されない立場の女性アスリートでは、PIED使用がより大きな懸念と理解されていた。

「パワーリフティングでは、信じられないほどPIEDがよく知られており、多くの人がそれを用いるべきであると主張していて、使用者は以前より増加している」(男性コーチ兼競技パワーリフター)、「ストロングマンの間でPIEDの利用は非常に一般的なことだ」(エリートレベルのストロングマン参加女性)、「2001年頃を思い出してほしい。当時、女性ボディビルダーは明らかにパフォーマンスを向上させる薬物を使用していた」(エリート女性ボディビルダー兼ストロングマン)。

コーチによるPIED使用の勧め

参加者に対して最も顕著な社会的影響を与える存在はコーチであり、コーチは女性のPIED利用を促進するように働いていることがわかった。

「複数のコーチが選手に対して『希望するレベルになりたいのなら、PIEDを使う必要がある』といった指導をしていることを知っている」(エリート男性ストロングマン)、「選手のPIEDのコストを負担しているコーチを知っている。そのコーチは、『自分のチームに入るなら強くしてあげられるしPIEDを用意する』と言っていた」(エリート女性パワーリフター兼ストロングマン)、「女性選手に同化ステロイドを支給し、それが何かを伝えていない男性コーチの存在を伝え聞いたことがある。彼らはその点の教育を受けていないために、自分たちの行為が女性アスリートに被害を及ぼしていることを認識していないのではないか?」(エリート女子パワーリフター)。

PIED使用のダークサイド

「PIEDが女性の体にどんな影響を与えるのか理解できていない人が少なくない。ある友人は声が低くなり、ざ瘡(ニキビ)が多発し、そして生理が止まってしまい、『自分の体に何が起こっているのかわからない』と言い始めた」(エリート女性パワーリフター兼ストロングマンー)、「私は毎朝毎晩、髭を剃らなければならない。こんなことばかりで、時々心配になる」(元女性ボディビルダー、現エリートパワーリフター)。

3項目の実際への教訓(practical implications)

これらの分析に基づき、論文には実際への教訓(practical implications)として、以下の3項目が掲げられている。

  • 健康およびフィットネス業界に従事する人は、筋力スポーツに参加する女性がPIEDの使用に関して危険にさらされる可能性があることを認識し、PIED使用の兆候を監視することを検討する必要がある。
  • 女性がPIEDを使用しようとする場合、使用前、使用中、使用後に健康状態の変化をモニタリングする必要がある。
  • パーソナルトレーナーやコーチは、PIEDが女性の健康にさまざまな影響を及ぼし得ることを認識する必要がある。

文献情報

原題のタイトルは、「Is the use of performance and image enhancing drugs (PIEDs) in women an issue of concern? The findings from a stakeholder consultation」。〔J Sci Med Sport. 2023 Nov;26(11):574-579〕
原文はこちら(Elsevier)

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