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若者のメンタル不調はエネルギーバランスを乱し睡眠障害や肥満の要因に 10代の縦断研究レビュー

若年者の間で増加している、エネルギー出納の乱れとメンタルヘルスとの関連を縦断的に解析した研究報告のみを抽出したうえで考察を加えた、レビュー論文が報告された。両者の関連は双方向性と考えられるという。

若者のメンタル不調はエネルギーバランスを乱し睡眠障害や肥満の要因に 10代の縦断研究レビュー

メンタルヘルスとエネルギーバランス関連行動、体重の変化との因果関係を探る

思春期には、しばしば混沌とした心理社会的経験が伴う。一方で成長と発達において重要な時期であり、この時期の健康状態が成人後の健康にも長期的な影響を及ぼすことがある。

この時期には、保護者から自立する過程で食事や身体活動習慣が乱れやすい。例えば超加工食品や脂質ベースの食品、加糖飲料の大量摂取、食物繊維や果物、野菜の摂取不足、不十分な身体活動、および睡眠時間の短縮などが発生しやすい。これらの変化はエネルギーバランス関連行動(energy balance-related behavior;EBRB)と呼ばれ、世界中で肥満や過体重が増加している一因であると考えられている。また、思春期に特有の心理社会的経験がメンタルヘルス上の問題を生じさせ、そのことが非健康的なエネルギーバランス関連行動(EBRB)につながっているのではないかとする報告も少なくない。

メンタルヘルスは複雑な概念だが、一般的には主観的幸福感や自己効力感、自律性などで評価され、それらの低下は精神疾患のリスクと関連すると考えられる。思春期には学業成績、家族・友人・恋愛関係、ボディーイメージなどのメンタルヘルスに影響を及ぼし得るこの時期に独特の因子があり、感受性の高さと相まって不調が生じやすい。この時期にはほぼ50%の頻度でメンタル不調が現れるという報告もある。

このような関連性は多くの横断研究によって示されてきているが、横断研究からは因果関係を述べることができず、時間的前後関係を検証可能な縦断研究によって因果関係の推測が可能となる。そこで今回紹介する論文の著者らは、システマティックレビューにより縦断研究の報告のみをピックアップし、それに基づく考察を行った。

検討した疑問は以下の三つ。

  1. メンタルヘルスと体重や体組成との間に縦断的な関連は存在するか?
  2. メンタルヘルスとEBRBの間に縦断的な関連は存在するか?
  3. EBRBはメンタルヘルスと体重・体組成との関連を媒介するか?

システマティックレビューの手順について

この研究は、システマティックレビューとメタ解析のためのガイドライン(PRISMA)に準拠して行われた。解析対象とする報告の包括基準は、10~19歳の集団を対象としてメンタルヘルスとエネルギーバランス関連行動(EBRB)および体重や体組成との関連を縦断的に検討した研究。

MEDLINE(PubMed)、コクランライブラリー、EMBASE(Scopus)などの文献データベースに2022年12月までに収載された論文を対象とする検索と、ハンドサーチによる灰色文献等の検索を実施。1,216報がヒットし重複削除後の951報を、タイトルと要約に基づき2名の研究者が独立してスクリーニング。採否の意見の不一致は3人目の研究者の判断により解決した。62報を全文精査の対象として、最終的に16件の研究報告を適格と判定した。

抽出された報告の特徴

16件の研究は、米国と英国でそれぞれ5件が実施されており、そのほかにカナダが3件、スペイン、オーストラリア、台湾が各1件だった。すべての研究は2007~2021年の間に発表され、研究参加者は148~8,886人の範囲であって、合計4万8,866人。1件の研究のみ保護者も対象に含まれていたが、本研究の解析ではそのデータは除外し、10~19歳のデータのみを用いた。

すべての研究は長期的な追跡が行われており、8件は2時点、6件は3時点で調査され、他の2件はそれぞれ10時点および12時点で調査が行われていた。追跡期間は4カ月から12年の範囲だった。

16件の研究に基づく定性的な分析

解析に用いられていた評価指標が研究間で大きく異なるためメタ解析は施行せず、定性的な分析が行われた。

メンタルヘルスと体重や体組成との間に縦断的な関連は存在するか?

16件の研究のうち11件が、メンタルヘルスと体重や体組成との関連性を報告していた。それらの研究では、抑うつ、不安、精神的苦痛、知覚されたストレス変数によって評価されたメンタルの不調が、追跡期間中の体重増加と関連していることを示していた。

いくつかの研究では、その関係は性別によって異なることを報告していた。例えば、抑うつレベルの評価スコアと体脂肪量の変化との関係は、女子では有意であったが(p<0.05)、男子では非有意だったという報告が存在していた。また、2件の研究は、研究対象を初めから女子のみとしていた。

メンタルヘルスとEBRBの間に縦断的な関連は存在するか?

9件の研究が、メンタルヘルスとエネルギーバランス関連行動(EBRB)のアウトカムとの間に関連があると報告していた。例えば、抑うつ、心理的苦痛、否定的なボディーイメージが、不健康な食習慣や健康リスク行動と関連しているとの報告や、メンタルヘルスの評価指標が良好であることが、睡眠の質や睡眠時間の長さ、身体活動の増加と強く相関しているとの報告、不安症やうつ病などの精神疾患の存在が、その後の絶食、神経性食欲不振、神経性過食症などの摂食障害およびそれに関連る行動の予測因子であるといった報告がみられた。

また、EBRBがメンタルヘルスに影響を及ぼすと結論づけている研究も認められた。ある論文は、ベースライン時点での抑うつレベルにかかわらず、2年間にわたるテイクアウト食品の摂取量の増加が、追跡調査時点での抑うつ症状を有意に予測すると報告していた。

EBRBはメンタルヘルスと体重・体組成との関連を媒介するか?

メンタルヘルスと体重関連指標との関係の媒介分析を行っていた研究が、2件存在した。そのうちの一つはBMIの上昇と抑うつ症状との関連は睡眠障害によって媒介されており、抑うつ症状のレベルが高いほど睡眠障害が多くなり、BMIが高くなると報告していた。また、身体活動とスクリーンタイムが、メンタルヘルスと肥満リスクとの関係を媒介するとの報告もみられた。

別の研究では、身体活動などの健康的な行動が、過体重や肥満などの長期的な心理的ストレスの影響を抑制することを示していた。具体的には、高ストレスの女子であっても長期にわたって身体活動を維持していた場合は、非活動的な女子に比べて追跡時点のストレスレベルが低く、BMIの上昇が抑制されていたという。

今後は生物学的メカニズムを含めた相互関係の解析が必要

著者らは本研究を、思春期から若年青年のメンタルヘルス状態と体重関連指標の変化、およびその関連に対するエネルギーバランス関連行動(EBRB)の影響について、縦断研究の一次資料を基にレビューを行った初めての報告だとしている。評価指標のばらつきのためにメタ解析を施行し得なかったことなどの限界点はあるとしながらも、結論を以下のようにまとめている。

「メンタルヘルスの悪化が将来的な体重や体脂肪率の増加と関連していることが示され、また非健康的なEBRBとの関連も明らかになった。さらに、この関連は双方向であり、一部の研究では、健康的なEBRBがメンタルヘルスを改善し、体重増加を抑制する可能性を報告していた。このレビューの結果は、EBRBがメンタルヘルスの体重への長期的な影響を媒介していることを示唆している。今後は、これらの相互作用をEBRBとの関連のみでなく、生物学的メカニズムなどの他のメディエーターも考慮した研究が求められる」。

文献情報

原題のタイトルは、「Longitudinal relationship between adolescents' mental health, energy balance-related behavior, and anthropometric changes」。〔Obes Rev. 2023 Sep:24 Suppl 2:e13629〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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