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暑熱環境での試合では、ハーフタイムに腕を冷水に浸すと後半のパフォーマンスが向上する

夏場の屋外競技では暑さ対策が必要で、競技時間が長いスポーツほど冷却戦略の重要性が高まる。しかし実際のところ、効果と実用性を兼ね備えた冷却戦略はいまだ確立されておらず、試行錯誤が続いている。こうしたなか、ハーフタイムが設定されている競技なら、その時間帯に腕を冷水に浸すという簡便な手法によって、後半のパフォーマンス低下を防ぐことができることを示唆するデータが報告された。広島大学大学院人間社会科学研究科の長谷川博氏らの研究によるもので、「Frontiers in Physiology」に論文が掲載された。

暑熱環境での試合では、ハーフタイムに腕を冷水に浸すと後半のパフォーマンスが向上する

ハーフタイムでの腕の冷水浸漬は有効か?

試合時間がある程度長い団体競技では、ハーフタイムが設けられていることが多い。暑熱環境下での試合では、このハーフタイムを冷却戦略としていかに使うかが課題となる。これまでの研究から、ハーフタイム中の全身冷水浸漬によって深部体温が低下し、後半の試合時間全体にわたってパフォーマンス低下が抑制されることが報告されている。ただし、全身冷水浸漬には大量の水と浴槽が必要であり、実際の試合での利用が現実的とは言い難い。また、ハーフタイム中の氷スラリー摂取が深部体温を低下させるとの報告もみられる。ただ、その効果の持続時間は10分程度であり、パフォーマンス低下の抑制効果は限定的だ。

一方、腕(手のひらと前腕)を冷水に浸すことが有効とする報告もある。腕は体積に対する表面積が大きく、かつ血管が比較的表在性に走行しており、動静脈吻合(arteriovenous anastomosis;AVA)という熱放散に効果的な特殊な血管も存在しているため、腕の冷水浸漬で効率よく深部体温を低下させることができる。さらに、この方法には特別な設備を必要としない。既に腕の冷水浸漬の有効性を報告した研究もあるが、実験プロトコルに実際の競技の条件が十分勘案されておらず、実用性が十分検討されていない。

これらを背景として長谷川氏らは、より実戦に即した条件設定で、腕の冷水浸漬の有効性を検討した。

無作為化クロスオーバー法により検討

研究デザインは無作為化クロスオーバー法で、11名の健康な男子サッカー選手全員に対して、腕の冷水浸漬を行う場合と行わない場合の二つの条件を試行し、パフォーマンス等を検討した。なお、過去の研究から、有意差の検討には9人以上の対象が必要と計算されていた。

室温33°C、相対湿度50%のチャンバー内で、自転車エルゴメーターにてウォームアップ後、前半(2分間の休憩を挟んで15分ずつ、計32分)、ハーフタイム15分、後半(前半と同じく32分)の運動を行ってもらった。運動プロトコルは、最大ペダリング5秒、能動的回復(無負荷で80rpm)25秒、受動的回復30秒を1セットとして、15分で15セットとした。運動プロトコル全体を通じて、最大750mLの水(チャンバーの室温と同じ33°C)を摂取可とし、参加者全員がすべて飲み切った。

冷水浸漬条件(COOL)では、ハーフタイムに15~17°Cの水を入れた二つの水槽に手のひらから肘までを付けた状態で休憩してもらった。冷水の温度は常時測定され、適宜、氷を追加して水温が維持された。エルゴメーターの移乗の時間を考慮すると、冷水浸漬時間はおよそ14分だった。一方、対照条件(CON)では、単に座位による休憩とした。

この研究は、暑熱順化の影響を避けるために冬季(平均気温7°C)に実施され、両条件の試行には7日以上あけたうえで、概日リズムを考慮して同じ時間帯に行った。また、試験の24時間前からカフェインとアルコールの摂取を禁止するとともに、両条件の試行が終了するまで、食事や運動などの生活習慣を変えないよう指示した。

ハーフタイム以降のパフォーマンス指標などに有意差

腕の冷水浸漬の効果は、ペダリングの最大および平均パワーでパフォーマンスへの影響を確認するとともに、直腸温や皮膚温、心拍数などの客観的な評価指標と、温熱感覚や熱快適性、自覚的運動強度(rating of perceived exertion;RPE)による主観的な評価指標により判定した。

平均パワーは後半全体で、最大パワーはラスト15分で差が生じる

ペダリングの最大パワーは、両条件ともに経時的に低下したが、後半のラスト15分(第4ブロック)では、CON条件の715±27Wに対してCOOL条件では741±46Wであり、有意差が認められた(p=0.049、効果量〈d〉=0.71)。

また平均パワーについては以下のように、CONでは後半32分(第3~4ブロック)で経時的に低下したのに対して、COOLでは低下が抑制されていた。第3ブロックはCONが574±22W、COOLが592±22W(p=0.020、d=0.8)、第4ブロックでは同順に561±22W、596±27W(p=0.003、d=1.38)。

体温、心拍数、皮膚血流量、および主観的評価指標にも有意な効果

直腸温は前半の第1~2ブロックにかけて経時的に上昇し、条件間の差は認められなかったが、ハーフタイムにはCOOL条件で0.54±0.17°C有意に低下して、第3~4ブロックはCON条件より低値で推移した。皮膚温に関しては、ハーフタイムから第3ブロックにかけて有意差が認められた。

心拍数は、ハーフタイムから第3ブロックにかけて、COOL条件のほうが低値で推移するという有意差が観察された。ハーフタイム中に測定した皮膚血流量は、COOL条件でより大きく減少した。

主観的な評価指標である温熱感覚、熱快適性、自覚的運動強度(RPE)は、いずれも前半(第1~2ブロック)は有意差がなく、ハーフタイム以降は運動負荷終了まで一貫して、COOL条件のほうが温熱感覚とRPEは有意に低く、熱快適性は有意に高かった。

より実践に即した条件での追試が求められる

以上を基に著者らは、「ハーフタイムに手と前腕を冷水に浸すと、試合の後半において運動パフォーマンスが向上すると結論づけられる。手と前腕の冷水浸漬は簡便であることから、実際的な冷却戦略として注目される」と述べている。

ただし、一般的な競技での運動負荷は自転車ではなくランニングであること、ハーフタイムには後半に向けた試合戦略の確認や再ウォームアップのため、すべての時間を冷水浸漬にあてられるわけではないことなど、本研究が実際の試合と全く同一の条件で行われたとは言えないため、より短時間で有効性を得られる、さらに実際的な冷却戦略の模索の必要性にも言及している。また、体温調節能には性差があることから、女性アスリートでの検討も求められるという。

文献情報

原題のタイトルは、「Cold water immersion of the hand and forearm during half-time improves intermittent exercise performance in the heat」。〔Front Physiol. 2023 Jun 8;14:1143447〕
原文はこちら(Frontiers Media)

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