女性アスリートの暑熱馴化の効果に関するメタ解析と、その結果からの推奨事項
女性アスリートに特化した、暑熱馴化に関するシステマティックレビューとメタ解析の結果が論文報告された。体温調節やパフォーマンス向上における暑熱馴化の有効性が確認されたという。また、メタ解析の結果に基づく推奨事項も掲げられている。
暑熱馴化戦略についても、女性でのエビデンスは不足
ヒトを対象とする研究の多くが男性を被験者として行われてきており、女性のエビデンスが少ないことが長年指摘されてきている。臨床医学では是正がなされたが、スポーツ医学ではいまだ女性対象研究は全体の4~13%の範囲と報告されている。
アスリートの暑さ対策についてもこれが当てはまり、暑熱環境に対する生理学的反応やパフォーマンスへの影響の性差が十分検討されていない。今回紹介する論文の著者らは、これを背景として、これまでに報告された暑熱馴化に関する研究のうち、被験者に女性が含まれていて、研究結果が性別に報告されている論文をシステマティックレビューにより抽出し、そのデータを統合してメタ解析を行った。
研究の目的は、第一に暑熱馴化による安静時と運動時の体温(深部体温と皮膚温)および心拍数といった生理学的適応への影響、第二にパフォーマンスへの影響、第三にパフォーマンスの結果に関連する因子を検討すること。
システマティックレビューの手順について
文献検索には、SPORTDiscus、MEDLINE Complete、および Embaseという三つのデータベースを用い、2022年12月までに収載された論文を対象とした。
包括基準は、研究対象に18~50歳の健康な女性が含まれている暑熱馴化に関する無作為化比較試験の報告であり、査読システムのあるジャーナルに掲載された全文が公開されている英語で執筆された論文。除外基準は、座位行動の多い女性や疾患を有する女性対象の研究報告、脱水症状に関連してなされた研究の報告、結果が性別に記載されていないもの、未発表論文、総説、学位論文、学会発表など。
372件がヒットし重複削除後の229件を2名の研究者が独立してタイトルとアブストラクトに基づくスクリーニングを実施。選択された64件を全文精査の対象として、30件が適格と判断された。これらのうち、フルテキストを利用できない8件を除いた22件の報告をメタ解析の対象とした。
これらの作業は、PRISMA(システマティックレビューとメタ解析のための優先報告事項)に即して行われた。
女性アスリート対象研究からも暑熱馴化の効果が確認される
解析対象研究は1965~2022年に報告されており、合計女性参加者数は235人で、平均年齢24歳(範囲18~46)、1研究あたりの参加者は3~20人の範囲だった。競技レベルは、エリート/国際大会レベルが3研究(研究参加者数53人)、ハイレベル/国内大会レベルが2研究(同6人)、日常的にトレーニングを行っているレベルが4研究(37人)、レクリエーションレベルが2研究(14人)で、その他の19研究(125人)は競技レベルを特定できなかった。
暑熱馴化の環境はサウナ利用なども含めて温度が42±13℃(範囲25~104)、相対湿度は44±19%(同5~79)で行われていた。熱曝露の回数は9±4回(4~20)、1回の持続時間は102±45分(29~240分)だった。
暑熱馴化による生理学的適応
暑熱馴化によって、以下に記すように、安静時と運動時の体温(深部体温、皮膚温)、心拍数、発汗率の有意な変化が認められた。なお、血漿量は有意な影響が認められなかった(1±4%、効果量〈ES〉=-0.03、p=0.835)。
体温・皮膚温
安静時の深部体温は13件の研究で検討され、そのうち6件は非有意、7件が暑熱馴化後の有意な低下を報告していた。メタ解析の結果は、-0.15±0.15℃、ES=-0.45、p<0.001だった。安静時の皮膚温も同様に13件中7件が有意な低下を報告しており、メタ解析の結果は、-0.50±0.30℃、ES=-0.64、p<0.001だった。
運動時の深部体温については18件の研究で検討され、そのうち7件は非有意で11件が暑熱馴化後の有意な低下を報告していた。メタ解析の結果は、-0.41±0.24℃、ES=-0.81、p<0.001だった。
心拍数
心拍数については18件の研究で検討され、そのうち7件は非有意で11件が暑熱馴化後の有意な低下を報告していた。メタ解析の結果は、-14±9bpm、ES=-0.60、p<0.001だった。
発汗率
発汗率については15件の研究で検討され、そのうち8件は非有意であり、1件は暑熱馴化を行わない群のほうが、有意に発汗率が高いという結果を報告していた。暑熱馴化によって発汗率が向上したと報告していた研究は6件だった。
メタ解析の結果は、+30±40%、ES=0.53、p=0.001だった。
暑熱馴化のパフォーマンスへの影響と、その関連因子
暑熱馴化による暑熱環境でのパフォーマンステストへの影響は12件の研究で検討され、そのうち5件は非有意であり、7件がテスト結果の有意な向上を報告していた。メタ解析の結果は、39±34%、ES=1.00、p<0.001だった。
暑熱環境でのパフォーマンス向上と関連のある因子を検討するため、暑熱馴化のプロトコルを、持続期間、熱曝露回数、総熱曝露量、運動強度、総消費エネルギー量を3段階に層別化して解析。その結果、一部を除いて、どのような条件による介入でも、有意な効果が認められた。
推奨事項とキーポイント
論文中には上記のほかに、暑熱馴化プロトコル別に生理学的適応への影響の差異を検討した結果などが示され、それらの検討の総括として3項目からなる推奨事項が掲げられている。また、本研究のキーポイントを以下のようにまとめている。
- 暑熱馴化は女性の安静時および運動中の深部体温・皮膚温・心拍数の低下、発汗量の増加などの生理学的適応につながるが、血漿量は変化しない。
- 筋力や疲労困憊に至る時間などのパフォーマンステストの結果は、暑熱馴化により女性においても改善される。
- 生理学的適応に適した暑熱馴化の設定は、持続期間は451~900分および/または8~14日、運動強度は3.5kcal/分以上、総消費エネルギー量3,038kcal、総熱曝露量2万3,000℃分以上。
文献情報
原題のタイトルは、「Heat Adaptation for Females: A Systematic Review and Meta-Analysis of Physiological Adaptations and Exercise Performance in the Heat」。〔Sports Med. 2023 May 24〕
原文はこちら(Springer Nature)
シリーズ「熱中症を防ぐ」
熱中症・水分補給に関する記事
- 日本の蒸し暑さは死亡リスク 世界739都市を対象に湿度・気温と死亡の関連を調査 東京大学
- 重要性を増すアスリートの暑熱対策 チームスタッフ、イベント主催者はアスリート優先の対策を
- 子どもの体水分状態は不足しがち 暑くない季節でも習慣的な水分補給が必要
- すぐに視聴できる見逃し配信がスタート! リポビタンSports Webセミナー「誰もが知っておきたいアイススラリーの基礎知識」
- 微量の汗を正確に連続測定可能、発汗量や速度を視覚化できるウェアラブルパッチを開発 筑波大学
- 【参加者募集】7/23開催リポビタンSports×SNDJセミナー「誰もが知っておきたいアイススラリーの基礎知識」アンバサダー募集も!
- 暑熱環境で長時間にわたる運動時の水分補給戦略 アイソトニック飲料は水よりも有効か?
- 子どもたちが自ら考えて熱中症を予防するためのアニメを制作・公開 早稲田大学・新潟大学
- 真夏の試合期の脱水による認知機能への影響は、夜間安静時には認められず U-18女子サッカー選手での検討
- 2040年には都市圏の熱中症救急搬送社数は今の約2倍になる? 医療体制の整備・熱中症予防の啓発が必要