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オリンピック・パラリンピックにおける食事提供システムのこれまでとこれから ナラティブレビュー

2000年以降に開催された夏季・冬季オリンピック・パラリンピックの会場や選手村での食料提供システムに関する文献を網羅的に収集し、これまでの変化を総括し今後の方向性を考察したナラティブレビュー論文が報告された。大意を紹介する。

オリンピック・パラリンピックにおける食事提供システムのこれまでとこれから ナラティブレビュー

イントロダクション

オリンピック・パラリンピックにおける食事提供の主な目的は、さまざまな文化的背景の異なるアスリート、サポートスタッフ、大会役員が、個々の食事の目的に適した安全で魅力的な食事を、大会期間中つねに確実に入手できるようにすることにある。とくにアスリートが摂取する食事については、さまざまな競技、年齢、食習慣に対応した、スポーツ栄養学上の要求を満たすメニューの開発が求められる。オリンピック・パラリンピックにおける食事提供はこれまで、このアスリートの視点を中心において考慮されることが多かった。しかし近年では、環境への配慮など、時代の要請にも応じたメニュー開発、食材入手経路の確保等が求められる。

今回紹介する論文では、以下のクエスチョンに答えるために、文献レビューに基づく考察を行った結果の報告。

  • 過去21年間で、オリンピック・パラリンピック、および、それらと同様の広がりをもって実施される国際スポーツイベントの食料提供について、どのような側面が文献として記載されてきたか?
  • これらのイベントでの食料提供に関して、どのような実証的エビデンスが報告されているか?
  • それぞれのエビデンスは、どのような結果に結びつくか?
  • これらのイベントでの食料提供に関連する、その他の公開された情報としては、どのようなものがあるか? また、それらのさまざまな情報源を組み合わせることで、どのような洞察を得ることが可能か?
  • 将来の実践と政策にどのような影響があるか?

スコーピングレビューのガイドライン(PRISMA-ScR)に基づき、Scopus、Web of Science PubMED、SPORTDiscus、ProQuestという文献データベースを用いて、関連文書を検索。研究目的から、さまざまな視点を確実に捉えるために、一次研究に限らず、総説、書籍、学会や会議の報告・要約、オリンピック委員会などの組織の報告書、および灰色文献(雑誌や業界紙を含む学術書ではないメディアの刊行物)も検索対象とした。

検索は2021年7月に行い、2021年9月9日と2022年4月26日に追加文献の有無を確認し、とくにパンアメリカン競技大会とアジア競技大会に関する報告を追加した。

11のトピック、4のテーマに分類可能

各文献データベースから合計2,821件がヒットし、重複を削除後にすべての記事のタイトルと要約をレビューして、包括基準を満たすか否かを検討。84件が適格と判断され、その他、ハンドサーチにより145件を追加して、合計229件の記事を解析対象とした。

それらの記事で扱われているテーマを分類したところ、以下の11のトピックに分類された。

  • 食品、メニュー、食事の説明
  • 食事提供のビジョン
  • 食品の安全性
  • ケータリング業者の関与
  • 食品企業とのスポンサーシップ・契約
  • アスリートの視点
  • ステークホルダーの視点
  • アスリートの食品摂取量
  • 食品提供における栄養素配分
  • 食環境
  • 持続可能性

さらにこれらは、以下の4つの包括的なテーマに統合された。

  1. 規模、ケータリング業者の経験、スポンサーシップの役割、食事提供の結果
  2. 食品の安全性、新型コロナウイルス感染症を含む疾患のリスク
  3. 食事提供における栄養の役割(アスリートへの栄養サービスにおける食品の傾向と変化を含む)
  4. 持続可能性という視点からの大規模イベントに対する世界的な注目の高まり。

以下、これらについて、論文では詳細な考察が加えられている。それらの一部を抜粋する。

(1) 規模、ケータリング業者の経験、スポンサーシップの役割、食事提供の結果

多くの記事では、国際的なケータリング業者が参加することについて、専門家から肯定的な報告が述べられていた。その一方、大会参加者・関係者すべての要求に対応可能なメニューの開発のために、ケータリング業者に栄養学の専門家をより多く参画させる必要性の指摘もあった。

2014年ソチ冬季大会は、選手向けの食事の種類が不足していたため「ハンガーゲーム」と呼ばれたが、これについては大会前の段階で既に問題を提起するレポートが認められた。例えば、ベジタリアンやビーガンなどのニーズへの対応が不十分と評価されていた。ケータリング業者は文化的な観点からアスリートのメニュー満足度に重点を置いているものの、開催国が異なればつねにそれを達成するのは難しく、コスト、環境、調理担当者の創造性が、最終的にメニューのデザインに影響を与えることがわかった。

(2) 食品の安全性、新型コロナウイルス感染症を含む疾患のリスク

過去20年間、食品の安全性とセキュリティーはあらゆる場面で焦点となってきた。2018年平昌冬季五輪開催前のノロウイルスの発生により、イベント中に消毒剤、フェイスマスク、隔離措置の使用につながる対応が行われた。

新型コロナウイルス感染症と食料提供への影響

2019年に中国の武漢で発生した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)のパンデミックは予想外のことであり、そのために東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が2021年に延期されたことも予想外のことだった。通常、オリンピックの選手村の食堂では、4,000人以上が互いに密接した状態で食事をすることがあり、COVID-19拡大の重大なリスクと考えられた。

さらに、この大会での食事の安全性への懸念は、COVID-19よりも放射線による福島産の食事への恐怖に関係していることは興味深い。一部の国では代表選手団のために、独自の食事プログラムやケータリングを提供した。

(3) 食事提供における栄養の役割(アスリートへの栄養サービスの傾向と変化)

報告されている課題の一つは、治療上の食事ニーズ、とくに食物アレルギーや食物不耐症に対する需要の増加である。その範囲は、ピーナッツ/木の実、魚介類、小麦、グルテン、乳糖から、非常に特殊な食品化学物質(サリチル酸塩、アミン、食事保存料や添加物など)の回避まで多岐にわたる。これらのイベントではグルテンフリー食品のリクエストが大幅に増加しているというエビデンスがあり、エリートアスリートの約13%が、特定の食物アレルギーまたは不耐症に関連する食事療法(ほとんどが低乳糖または小麦不使用)を行っていると報告されている。また、疾病(糖尿病、セリアック病、心血管疾患、炎症性腸症候群または過敏性腸症候群など)管理への対応の必要性も報告されている。

(4) 持続可能性という視点からの大規模イベントに対する世界的な注目の高まり

環境の持続可能性についての懸念は、組織委員会や食材納入業者の間でも高まっている。2018年に発表された、東京2020に向けての食品と飲料に関する戦略と、東京2020の持続可能な資源管理に関するレビューから、この大会で食品廃棄物の削減に大きなウエイトが置かれていたことが理解される。

関連情報
「スポーツには、世界と未来を変える力がある」レガシーとなった東京2020オリンピック・パラリンピック選手村の食事

文献情報

原題のタイトルは、「Food Provision at the Olympic Games in the New Millennium: A Meta-narrative Review」。〔Sports Med Open. 2023 Apr 21;9(1):24〕
原文はこちら(Springer Nature)

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