「スポーツには、世界と未来を変える力がある」レガシーとなった東京2020オリンピック・パラリンピック選手村の食事【前編】
昨夏の東京オリンピック・パラリンピック(東京2020)から早くも半年近くがたとうとしている。コロナ禍という困難な状況の中、開催が1年延期されほぼ無観客で実施されるという異例さが注目された大会だったが、オリンピックはメダル数58個で史上最多、パラリンピックも51個で史上2位の好成績をあげた。
そればかりでなく、東京2020は「サステナビリティー(持続可能性)」に本格的に取り組んだ大会でもあった。本ニュースコーナーでも、2019年7月に「未来につなぐ東京オリンピック・パラリンピック レガシーとなる選手村の食事メニューが決まるまで」というテーマで3回にわたり、東京2020の食品・栄養関連のサステナビリティー戦略を紹介していた。
そして昨年12月、大会組織委員会から「持続可能性大会後報告書」が公表され、パリ、ロサンゼルス、ブリスベンへと引き継がれていく、東京2020のレガシーが明らかになった。その報告書の中から、食品・栄養関連のデータを中心に取り上げ、2回にわたって紹介する。
Be better, together.より良い未来へ、ともに進もう。
まず初めに、東京2020のサステナビリティー戦略全般について振り返っておこう。東京2020のサステナビリティー戦略は、「Be better, together.より良い未来へ、ともに進もう。」をコンセプトとして実践された。その結果、以下のような課題が達成された。
大量の食品ロスには会期中に対応
例えば、バイオマスや太陽光による電力の調達や、福島県内の太陽光発電などを利用し、大会期間中に使用された電力は再生可能エネルギー100%を実現したという。また、全競技会場の約6割は既存会場を活用し、都市鉱山をはじめとする環境配慮物品の調達などによって、「カーボンマイナス大会」となったとのことだ。
さらに、調達物品の99%をリユース・リサイクルし、発生した廃棄物も62%はリサイクルされたという。そして、マスコミで大きく報じられた、コロナ禍での開催のため無観客となったことなどが影響し、大量に発生した食品ロスや医療用消耗品の廃棄等の課題については、大会期間中に改善に取り組んだとしている。この点については、次回の記事で取り上げる。
このほか、オリンピック選手に占める女性の割合は48%と過去最高でありジェンダー平等を実現、またパラリンピック参加選手は4,403人とこれも過去最高となり多様性と調和が推進された。
先行きの予測が不能なパンデミック下でも「ISO20121」を遵守
東京2020は、コロナ禍という世界的危機を乗り越えて行われた。パンデミックの状況の変化は全く予測がつかず、非常な困難が伴う中でも、ISO20121(イベントの持続可能性に関するマネジメントシステムの国際規格)に遵守し実行された。
資源管理面では大会前に10目標が設定され、そのうち7件は目標を達成し、3件は概ね達成したと評価された。その10項目の中には、食品廃棄物等の再利用も掲げられていた。その達成状況は前述のように62%であり、これは「概ね達成」したと評価された3件に含まれる。持続可能性大会後報告書では、この食品ロスの削減について6ページを割いて解説している。その内容を詳しくみてみよう。
食品ロスの削減は達成されたか?
約130万食に及ぶ食事をコントロール
7月13日のオリンピック選手村開村から9月8日のパラリンピック選手村閉村まで、選手等に食事が提供された。コロナ禍のため選手は村外での飲食が制限されていたため、選手村での食事には、選手をあきさせず満足させ得るものであり、何より安全であることが重要で、かつ、ロス削減の取り組みが進められた。
試合前の選手がコンディショニングのための飲食に利用するメインダイニングホールでは、大会期間中、24時間にわたり計87万食が提供された。食品ロス削減のため、競技スケジュールと連動して調理数をコントロールし、それにはICT(information and communication technology.情報通信技術)も活用された。
東京2020選手村の食品ロス対策の体系
なお、選手村にはこのメインダイニングホールのほかに、選手がリラックスして使用するためのカジュアルダイニングや、テイクアウトや軽食中心のコーナー、そしてスタッフ用ダイニングがあり、総計130万食近い食事が提供された。
メインダイニングホールでの処分率は14.5%
さて、では食品ロスの削減状況だが、メインダイニングホールでは、大会期間を通じた食材の総使用量が1,207トンであり、処分量は175トンで処分率は14.5%だったとのことだ。1人1食あたりでは、摂取量1.12kg、処分量は約0.2kgだという。
では、この「処分率14.5%」という値は、多いのだろうか、少ないのだろうか? その点は、東京2020がレガシーとして引き継がれるほどの実績を収めたのか否かを判断するための、一つの目安となるだろう。後編では、そのあたりの数字と、食材調達におけるサスナビリティーの実績を中心に紹介していきたい。
関連情報
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会「持続可能性報告書」