未来につなぐ東京オリンピック・パラリンピック
「レガシーとなる選手村の食事メニューが決まるまで」
1. 持続可能性
はじめに
時代が令和になり、いよいよ眼前に迫ってきた東京オリンピック・パラリンピック(東京2020大会)。1年後の本番に向けて各方面の準備が着々と進められているが、国内で56年ぶりに開催される夏季大会とあって、多くの領域でノウハウの再構築が求められている。
食事メニューもその一つ。会期中は選手村を中心に200万食を提供し参加アスリートや関係者の胃袋を支えるという。しかし、その規模への対応だけでなく、開催までには、国際オリンピック委員会(IOC)の承認取得、安全・安心な食事、持続可能(サステイナビリティ)な食材調達の確立、競技力を最大限発揮するためのアスリートへの栄養・食からのサポートなど、多くのハードルを経ていくことになる。
来夏、東京2020大会が成功を収めた後、2024年パリ以降のオリンピック・パラリンピックや、国内のスポーツ大会、あるいは今後のスポーツ栄養・食産業の未来に、これらの取り組みが遺産として次代に引き継がれていくだろう。その取り組みを数回にわたってレポートする。
飲食面からみたオリパラの規模
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(東京2020組織委員会)では、開催準備にあたって過去大会の実績調査を行っている。それによると、飲食の提供規模については、2012年ロンドンの夏季大会において、大会全体で1,500万食以上、選手村では約200万食の食事が提供され、また選手村ではピーク時に30分で1万食のペースで消費されたという。
飲食提供にあたっては、安全・衛生面への配慮はもとより、アスリートに対する栄養面の配慮、ドーピング管理上の配慮、多様な宗教・食習慣への配慮も求められる。2016年のリオデジャネイロ夏季大会では、会場内の飲食提供スペースは6つのジャンルに分け、地元のブラジル料理のほかに、アジア・インディア、ハラール、ピザ・パスタ、サラダ・デザートなどのゾーンが設けられた。
また、リオ大会からは、「持続可能性への配慮」が初めて食材調達基準として設定された。後述するように、この観点は東京2020大会においても重要なポイントとして、引き続き取り込まれている。
半世紀前、東京五輪のレガシーとして生まれた冷凍食品
オリンピックの開催は大会終了後にもさまざまなレガシー(遺産)が引き継がれる。よく知られているように、1964年に開催された東京オリンピックでは、新幹線や高速道路網が整備され、その後の半世紀以上にわたって日本人の生活を支えてきた。また意外なところでは、冷凍食品も前回の東京五輪の産物と言える。 前回の東京五輪会期中には、8,000人のアスリートに対する延べ60万食が必要とされ、調達方法が課題となった。その解決策として、冷凍食品が本格的に使用され評価を得た。その後、急速に冷凍食品が普及したという歴史がある。
東京2020大会のキーワードは「持続可能性」
来夏の東京2020大会においてはどのような飲食関連レガシーが残るのだろうか。
一つ明らかにっていることは、既に述べたように東京2020大会では「持続可能性(サステイナビリティ)」が前面に押し出されていることである。これが飲食関連のレガシーとして伝えられていく潜在力をもつ。持続可能性は、「次世代のニーズを損なわずに現世代のニーズに応えること」と表現され、近年これを達成することが社会のあらゆる分野で求められるようになってきた。例えば国連は2015年に「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択し、具体的な17項目の目標を掲げている。その中でスポーツについても言及しており「スポーツもまた持続可能な開発における重要な鍵となるもの」とされている。
次回は、この持続可能性を達成するための食材調達基準を紹介する。
関連情報
国際連合広報センター「持続可能な開発目標(SDGs)とは」
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会「持続可能性に配慮した調達コード」