未来につなぐ東京オリンピック・パラリンピック
「レガシーとなる選手村の食事メニューが決まるまで」
3. 飲食提供戦略
オリンピック・パラリンピックは大会開催後、そのレガシー(遺産)が次世代に引き継がれる。そのレガシーを飲食の面から追っている本シリーズ企画、今回で3回目となる。前回は食材の調達基準について触れたが、今回は、2018年3月に発表された飲食調達戦略を紹介する。
ロンドン大会で初めて策定された飲食戦略
東京2020組織委員会は、2018年3月下旬に「食品提供に関わる基本戦略」を公表した。東京2020大会での飲食提供の基本的な考え方、提供対象、配慮事項等をまとめたもので、同様の文書は2012年ロンドン夏季大会において初めて策定され、リオデジャネイロ大会でも策定されている。東京2020大会に向けては2017年3月から飲食戦略策定会議が6回にわたり開催され、議論が重ねられていた。
飲食戦略検討委員会のメンバーは、座長が和食文化国民会議 調査・研究部会副部会長の大久保洋子氏で、委員としてはオリンピックバドミントン日本代表の池田信太郎氏、パラリンピック射撃日本代表の田口亜希氏のほか飲食業や栄養学の専門家15名が参画。日本栄養士会副会長で一般社団法人日本スポーツ栄養協会理事長の鈴木志保子氏も加わっている。
以下、飲食戦略として示された内容の概要を紹介する。
アスリート全員の自己ベストを支える飲食戦略
まず、「飲食戦略が目指すもの」として、この戦略の意義がうたわれている。それによると、東京2020大会ビジョンである「全員が自己ベスト」「多様性と調和」「未来への継承」という3つの基本コンセプトを飲食提供においても具体化することを目指す。その柱として、食品安全管理、栄養管理、多様性への配慮、暑さ対策などを挙げている。
このうち食品安全管理は最優先事項として位置づけ、特に夏季の東京は酷暑であることから、食中毒のリスクを考慮し、調理から喫食までの時間等へ細心の注意を要すると述べている。
栄養ヘルプデスク(仮称)で、栄養成分やアレルゲン情報を提供
栄養管理においては、アスリートが実力を発揮できるように栄養面に配慮したうえで、日ごろ食べなれたメニューをできる限り提供することを目指す。またメニューの栄養成分やアレルゲン含有等の情報を、事前に提供するとともに、実際に食事を提供する場所においても各メニューに見やすく表示する方針。
さらに、アスリートが栄養面について専門職から指導を受けられるよう、選手村内のメインダイニングには栄養ヘルプデスク(仮称)を設置。専門的見地からサポートを行う。
暑さ対策に関しては、熱中症予防に効果的な飲食提供、暑くても食欲を維持できるメニューの工夫などの検討していく。
将来につなげていく取り組み
飲食提供戦略は50ページ以上に及ぶものだが、その多くを「将来につなげていく取組」に割いている。これは大会ビジョンに掲げられている「未来への継承」に基づくもの。
具体的には、日本食に関する情報発信、飲食提供を通じた東日本大震災からの復興支援、GAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)を活用した食材調達、グルテンフリーである米粉の利用拡大などを図るとしている。
関連情報
東京2020大会における飲食提供に係る基本戦略について
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会/東京2020大会 飲食提供に係る基本戦略(PDF)