高地トレーニングに伴う酸化ストレス増大を、抗酸化食品を多く摂取すると軽減できるか
持久系スポーツでは高地キャンプでの低酸素トレーニングがパフォーマンス向上のため実施される。しかし、低酸素状態や運動負荷は免疫系への影響があることが知られており、それら双方がストレスとなる高地トレーニングでは、実際に感染症などのリスクが高まるとの報告もみられる。
これらのネガティブな効果には、フリーラジカルの増加、抗酸化能の低下、酸化ストレスの増大が関連していると考えられる。よって酸化ストレスを軽減する抗酸化能の高い食事を摂取することで、高地トレーニングのマイナス要素を除去できる可能性がある。
この視点から、これまでに抗酸化サプリメントを使用した報告はみられる。しかし食事の工夫によってその効果を示した研究はなされていない。本研究では、高地トレーニングを実施するアスリートが、サプリメントではなく抗酸化能に優れた食品を摂取することによる、全身性酸化ストレスへの影響を検討した。
対象はノルウェーのオリンピックスポーツセンターが主催した高地トレーニングの参加アスリート31名。内訳は、男性23名、女性8名、オリンピック選手27名、パラリンピック選手4名で、世界選手権のメダリスト7名が含まれていた。競技種目は、ボート14名、水泳11名、カヤック4名、トライアスロン1名、中距離走1名。
この31名を抗酸化能強化食群16名、通常食群15名に群分けし、標高2,320mの高地で3週間にわたりトレーニングを実施した。ベースライン時において、年齢、身長、体重、VO2max、週当たりのトレーニング時間、女性の割合、パラリンピック選手の割合に、有意な群間差はなかった。
抗酸化能強化食は、フルーツ・野菜・ベリーからなる750mLのスムージ、ドライベリーとフルーツ50g、40gのクルミ、ココアを70%含有するダークチョコレート40gで構成され、その抗酸化能は通常食の2倍に相当した。対照群には、ミルクセーキやクラッカー、ホワイトチョコレートなど、高エネルギーの食事が供給された。抗酸化物質の含有量は、前者が21.2mmol/日、後者が2.8mmol/日だった。
トレーニング期間中に怪我や疾患によって対照群の4名が脱落し、最終的に抗酸化能強化食群16名と対照群11名が解析対象となった。
高地トレーニング開始7日前と、3週間のトレーニング終了から7日後の酸化関連マーカーの変化量を両群で比較したところ、鉄還元/抗酸化能を表すFRAP(ferric reducing-antioxidant power)は、抗酸化能強化食群で有意に増加していた(p=0.034)。ただし酸化ストレスの程度を表す8-epi-PGF2αには有意な群間差が認められなかった(p=0.479)。
炎症反応を示すCRP(C-reactive protein)は抗酸化能強化食群で有意に減少していた(p=0.02)。炎症に関連するサイトカインのIL-6(インターロイキン-13)は、抗酸化能強化食群で減少し対照群では増加していた(p=0.006)。IL-6も同様の傾向がみられたが、わずかに有意でなかった(p=0.062)。
結論として、天然の食物を用いて抗酸化能を強化した食事は、実際の酸化ストレスには影響しないものの、炎症に関連する一部のバイオマーカーを改善することが確認された。
文 献
原題のタイトルは、「Effects of antioxidant-rich foods on altitude-induced oxidative stress and inflammation in elite endurance athletes: A randomized controlled trial」。〔PLoS One. 2019 Jun 13;14(6):e0217895〕