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スポーツ栄養学における「生理活性ペプチド」の可能性 今わかっていることのまとめ

近年、スポーツ領域においても生理活性ペプチドが重要な役割を果たす可能性があるとする報告が増えている。しかし、タンパク質による栄養介入研究が盛んに行われ、タンパク質を構成する最小単位であるアミノ酸についても多くの研究がなされている一方で、タンパク質とアミノ酸の中間にあたるペプチドを用いた介入研究は少ない。

こうしたなか、「スポーツ栄養学における生理活性ペプチドの潜在的関連性(Potential Relevance of Bioactive Peptides in Sports Nutrition)」というタイトルのレビュー論文が「Nutrients」に掲載された。ペプチドの、体組成、持久力パフォーマンス、筋損傷、タンパク質合成、炎症、酸化ストレス、腱組織などへの影響を、既報文献から考察しまとめたもの。一部の要旨を抜粋して紹介する。

スポーツ栄養学における「生理活性ペプチド」の可能性 今わかっていることのまとめ

現在までにわかっていることは何か?

ペプチドはアミノ酸が数個から数十個結合したもの。ホルモン作用、神経伝達作用、抗菌作用などの生理活性作用があり、創薬の面からも盛んに研究が進められている。一方、スポーツ領域では長年、アミノ酸組成やタンパク質が研究の焦点となってきた。近年は、生理活性ペプチドのスポーツ栄養における研究報告も行われているが、全体像を俯瞰できるレビューは限られている。

本論文の著者らは、Pubmed、Science Direct、Scopus、Web of Scienceという文献データベースに、2021年2月までに公開された報告を対象とする文献検索を実施。生理活性ペプチドとスポーツ栄養の関連の最新のエビデンスを探った。

体組成への影響

コラーゲンペプチドがプラセボに比較して除脂肪体重を増加させるとの報告が、筋力トレーニングを行っている若年男性、および高齢者や閉経前女性などの非運動集団での検討から示されている。また、その結果として筋力にもプラスの影響を与える可能性が報告されている。筋力については、高齢女性の握力、高齢男性の大腿四頭筋で有用性が観察されている。これら、体組成や筋力に対するコラーゲンペプチドのプラスの効果は、おそらく生理活性ペプチドのシグナル伝達作用によって説明可能だという。

除脂肪体重に対するホエイタンパクの効果には多くのエビデンスがある。その一方で、ホエイ加水分解物中の生理活性ペプチドはほとんど注目されてない。しかし動物実験の結果から、ホエイ加水分解物中のジペプチドは、単一アミノ酸としてのロイシンと同様の同化作用を持っている可能性があると言える。ただし、若年男性を対象に筋力トレーニングとの組み合わせとして行われた2件の研究からは、ホエイタンパクに比較しホエイ加水分解物でのメリットは認められなかった。

持久力パフォーマンスへの影響

持久力パフォーマンスに対する生理活性ペプチドの影響については、まだ議論の余地が大きい。今日まで、タンパク質加水分解物などの影響を調査した研究はごく少ないが、女性がコラーゲンペプチドを摂取することで、持久力パフォーマンス支持的に働く可能性が示されている。12週間の介入でプラセボに比較して、タイムトライアルの成績が有意に改善し、コラーゲンペプチド群では除脂肪体重の増加が観察された。別の研究では、炭水化物単独と比較して、炭水化物とカゼイン加水分解物の摂取により、60kmのサイクリングタイムトライアルの最後の3分の1で有意差が発生した。

基礎研究からは、ホエイ加水分解物はホエイタンパクに比較して、骨格筋細胞へのグルコースの取り込みをより増加させることが示されている。しかし、これがヒトでは確認できていない。

結合組織への影響

結合組織に対する生理活性ペプチドの影響は、近年、急速に関心の高まりをみせている。これまでに、腱のコラーゲン合成に対する生理活性ペプチドの刺激効果が複数の試験で確認されている。例えば、コラーゲン加水分解物をin vitroで線維芽細胞に添加した後、RNAの発現とマトリックス分子の生合成に対する顕著な刺激効果が報告されている。これらの知見は、ウサギを用いたin vivoでの検討でも確認された。

ただし、ヒトでの研究は不足しており、コラーゲンペプチドの摂取がヒトの腱に及ぼす影響はエビデンスが少ない。そんな中、12週間の高ロイシンホエイ加水分解物の摂取と高強度筋力トレーニングにより、近位膝蓋腱の断面積が増加したとの報告がある。しかし、特定のペプチドが同定されていないことに留意が必要。

軟骨と機能性関節痛への影響

生理活性ペプチドによるコラーゲン合成の刺激による関節痛の予防や治療の試みが行われている。複数の研究で、機能関節痛に罹患しているアスリートの関節可動性に、コラーゲンペプチド摂取の有益性が示されている。その研究者らは、細胞外マトリックス(extracellular matrix;ECM)タンパク質合成に対するコラーゲンペプチドの刺激作用が、その結果を説明する可能性があるとしている。ただし、正確なメカニズムは不明であり、推測の域を出ない。

エビテンス構築に向けて

競技スポーツの主目標は、パフォーマンスの向上にある。この目的のために、トレーニングプロセスは、定期的なフェーズで強化され、アスリートに機械的・代謝的ストレスを強いる。それら二つのストレスに対して、特定のペプチド、および加水分解されたタンパク質が、筋や腱の回復を促進することが示されている。このような知見は、アスリートへの栄養介入に生理活性ペプチドを利用することの有用性を支持するものだが、エビデンスレベルはまだ十分高いとは言えない。

要約すると、スポーツ栄養における生理活性ペプチドの応用は、これまでの予備的な調査結果からは有望と言える。しかし決定的な結論を引き出すには、さらなる研究が必要だ。とくに、特定のペプチドの効果を評価可能な研究が不足している。最終的には、さまざまなアスリート集団での実証が求められる。

文献情報

原題のタイトルは、「Potential Relevance of Bioactive Peptides in Sports Nutrition」。〔Nutrients. 2021 Nov 10;13(11):3997〕
原文はこちら(MDPI)

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