東京2020オリパラ選手村の食事、各国のスポーツ栄養士による国際的評価結果の報告
2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピック(東京2020)の選手村の食事に関する、国際的な評価の結果が発表された。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック発生にかかわらず、事前計画よりも改善された食事が提供されていたことなどが報告されている。
オリンピック・パラリンピックでの食事提供に関する国際評価
オリンピック・パラリンピックにおける食事に関するスポーツ栄養士等による国際的な評価は、2008年の北京オリンピックで始まって以来、毎回行われている。この評価は通常、2回以上のフェーズで行われる(東京2020では3回)。最初のフェーズは開催の約12~9カ月前であり、食事提供計画を書面でレビューして評価。2回目のフェーズは実際の大会開催期間中の現地調査で評価する。東京2020におけるレビューの方法は以下の通り。
レビュー(評価)の時期
1回目は2019年6月、2回目は同年9月。これらはいずれも書面でのレビュー。3回目は2021年7~9月の大会会期中に現地でレビュー。
レビュー者:
大規模大会での食事提供の経験に基づき、かつ、すべての大陸を網羅することを勘案して特定したスポーツ栄養士/栄養学者に対して、電子メールで研究参加を招待した。
フェーズ1では9人のスポーツ栄養士が評価を行い、そのうち7人はフェーズ2でも評価も行った。フェーズ3(現地調査)では18人の国際的に活動しているスポーツ栄養士が評価した。レビュー者のスポーツ栄養の経験年数は、フェーズ1は22±8.7年、フェーズ2は18±9.1年、フェーズ3は17±9.8年だった。
評価項目
書面でのレビューでは、国際オリンピック委員会から提供された、選手村のメインダイニングホール、サテライト選手村、競技会場のメニューを基に行い、計画されているメニューに対してフィードバックを行った。なお、事前計画のメニューには、イベント全体のすべてのサービス時間帯(朝食、昼食、夕食、夜間)で、各サービスエリア(世界、アジア、日本、ピザ/パスタ、グルテンフリー/ベジタリアン、ハラール、冷製料理など)から提供される個々のメニューの情報が含まれていた。
評価には、オリンピック・パラリンピックにおける食事の提供状況を確認するために以前に開発された調査票を改訂し用いられた。フェーズ1では、食べ物の種類、特定のニーズ(グルテンフリー、ベジタリアン/ビーガン、食物アレルギー/不耐症向けのケータリングなど)、スポーツ特有のケータリング(回復食、補食、スポーツフード、体重別階級競技用アイテムなど)、文化的多様性、安全性、食事の提供(ラベル付け、アイテムの命名、サービスエリア内の場所など)について、「非常に悪い」から「非常に良い」の1〜5段階で評価。また、各項目について自由形式のコメントを追加可能とした。フェーズ2のレビューでは、最初のレビューで指摘した項目への改善の程度に関する質問も含まれていた。
このほかに、メインダイニングホールについては各レビュー段階で、0~10点の総合評価も行われた。フェーズ1~3の評価結果とフェーズ間の比較
フェーズ1の評価結果
2019年6月のフェーズ1の評価結果は、「メニュー全体の多様性」が中央値4点(良い)だった。その他、28項目のうち26項目は中央値4点または3点(ふつう)であり、「パスタ、麺類、ライス」については5点(非常に良い)で、「スナック、スポーツ食品」は2点(悪い)だった。
自由回答には、「ランチとディナーのメニューの繰り返しが多い」、「メニューにアジアの影響が強くみられる」、「軽食の選択肢が少なく、とくに食堂外へ持ち出せるものが不足している」などの記述がみられた。
フェーズ2の評価結果
2019年9月のフェーズ2では、メニュー項目を表す写真が導入され、自由回答のコメントにそれを評価する記述があり好評だった。全体的な多様性とワールドメニューの多様性は「やや改善」と評価され、スナック/スポーツフード、リカバリーアイテム、アレルギー/不耐症、および体重別階級競技用アイテムについては「変化なし」と評価された。
フェーズ2で「大幅に改善」と評価された唯一の項目は、夜間の食事だった。一方、自由回答のコメントでは、文化の多様性への配慮の欠如や、グルテンフリーやビーガンに対する懸念が依然として指摘された。
フェーズ3の評価結果
オリンピック・パラリンピック開催期間中の現地調査では、メインダイニングホールについて、安全性(93%)、グルテンフリーメニューの配置(93%)、栄養成分表示(86%)、メニュー項目の名称(87%)、ケータリングスタッフとのやり取り(76%)、アレルギー/不耐症向けメニュー(68%)、全体的なバラエティー(67%)など、大多数の回答者から「良い/非常に良い」と評価された。サービスのバラエティーは「ふつう」(53.3%)、特定のリクエストへの対応力は「悪い/非常に悪い」(64%)と評価され、また、スタッフの柔軟性のなさについてのコメントがあった。
自由回答には、栄養表示について「アレルギー情報が部分的であり、パッケージ情報のGoogle翻訳以外の情報がなかった」、文化の多様性への配慮について「アフリカやカリブ文化の選択肢は非常に限られていた」、カジュアルダイニングのメニューについて「日本食中心であり多様性が低かった」などの記述がみられた。
メインダイニングホールの総合評価、およびその他の評価項目の推移
メインダイニングホールに関する評価結果は、フェーズ1と2の間で有意に改善し(p=0.037)していた。また、フェーズ3の評価結果は10点満点中8点となり、三つの評価時点の中で最高点であって、フェーズ1との比較で有意差が認められた(p=0.042)。
その他、フェーズ1からの評価結果の変化を解析すると、フルーツ(良い→ふつう→非常に良い)、ピザ(ふつう→ふつう→良い)、冷製デザート(ふつう→悪い→良い)、ヨーグルト(ふつう→ふつう→非常に良い)、体重別階級競技用アイテム(ふつう→良い)、スナック/スポーツフード(悪い→ふつう)は、統計的に有意な変化が認められた。
経験が豊富な評価者ほど低く評価
このほかに、レビュー(評価)者の経験年数と評価結果との相関が検討され、経験が長い評価者ほど、低い評価をするという有意な関連が検出された(r=-0.492、p=0.008)。
結果の総括:COVID-19パンデミックにもかかわらず事前計画から大幅に改善
論文のアブストラクトには、総括として以下のように記されている。
- スポーツ栄養士が、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会のアスリートに対する食事の提供案と実際の食事を評価した。COVID-19パンデミックにもかかわらず、選手村での食事の提供は、2019年に提案されたものと比べて、全体的にも、現地でのメニューの特定の側面においても大幅に改善されたと評価された。
- ケータリング業者へのリードタイムの延長、パンデミック中の参加者数の減少、食堂での滞在時間の短縮、食品の安全性を確保するための食品の回転率の向上により、全体的な品質が向上した可能性がある。ただし、スポーツ会場やサテライトビレッジでの食事はメインの食堂での食事ほど高く評価されておらず、今後の大会の留意点。
- より経験豊富なスポーツ栄養士は、全体的なメニューを低く評価しており、これは過去のイベントと比較したコメントや、会場内でメニュー以外の品物を注文できないことに反映されている。
- 全体として、評価プロセスとフィードバックにより、提案されたメニューと現地での食事の提供に前向きな変化がもたらされ、将来の組織委員会にとって貴重な情報となった。オリンピック・パラリンピックでの食事の提供をモニタリングすることは、アスリートの健康とパフォーマンスに適した食事の提供を改善するために不可欠。
関連情報
- 東京オリンピック・パラリンピック選手村の食事について有識者協議がスタート
- 未来につなぐ東京オリンピック・パラリンピック「レガシーとなる選手村の食事メニューが決まるまで」
- レガシーとなった東京2020オリンピック・パラリンピック選手村の食事
文献情報
原題のタイトルは、「Sports Dietitians Evaluation of Food Provision for Athletes at the Tokyo 2020 Olympic and Paralympic Games」。〔Eur J Sport Sci. 2025 Apr;25(4):e12276〕
原文はこちら(John Wiley & Son)