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口渇感で水分補給するより計画的に補給したほうが効果的な可能性 サイクリストでの検討

長時間の運動中の水分補給を、口渇感に基づいて摂取するか、計画的に摂取するかでパフォーマンスが異なるかを検討した結果が報告された。飲水量は計画的摂取のほうが多く、トライアル中のパワー出力は有意に高いなどの違いが認められたという。

口渇感で水分補給するより計画的に補給したほうが有利の可能性 サイクリストでの検討

長時間運動中の水分補給の相反する影響をどう考える?

長時間の運動による水分の喪失は、パフォーマンスを低下させるとされている。これに対して、計画的に水分を摂取することが熱ストレスの緩和などを介してパフォーマンスの維持に働く可能性がある。ただ、その一方で計画的な水分摂取には、摂取量が過剰になり腹部不快感のリスクを高めたり、競技中の飲水行動、またレース条件などの環境によっては排尿行動のためのタイムロスが増える可能性がある。このほかにも、パフォーマンスを大きく低下させる運動誘発性筋痙攣(exercise associated muscle cramps;EAMC)は、脱水、もしくは脱水補正のための過剰な水分摂取による低ナトリウム血症の双方がリスク因子となる可能性が指摘されている。

つまり、計画的な水分補給と口渇感に基づいての水分補給には、いずれもメリットとデメリットがあると考えられる。これまでのところ、その両者の水分補給戦略の優劣は十分に検討されていない。

サイクリストを対象に無作為化クロスオーバー法で検討

今回取り上げる論文の研究は、トレーニングを積んだ持久系アスリートを対象に行われた。11人が募集に応じたものの、うち2名は適格条件であるVO2peak55mL/kg/分を満たさなかったため参加せず、他の1名は後述の研究期間中に辞退。最終的な解析対象者数は8名だった。主な特徴は、年齢26±6歳、身長178±7cm、体重71±6kg、VO2peak67mL±4mL/kg/分、体脂肪率8±2%。

研究デザインは無作為化クロスオーバー法で、参加者全員が、口渇感に基づく飲水(thirst-driven fluid intake;TDFI)条件と計画的な飲水(program fluid intake;PFI)という二つの条件でテストを行った。なお、テストに先立ち、体重減少幅を1%以内に抑えるための飲水量を把握することを兼ねて、習熟試験が行われた。

テストの方法について

2回のテストはいずれも、室温30℃、相対湿度35%に設定された環境チャンバー内で自転車エルゴメーターを用いて実施された。また、3台の大型ファンーにより被験者の前方から25~30km/時の風を与えた。

まず、VO2peakの61±4%の固定強度で5時間の運動を負荷し、その後、5分間おいて20kmのタイムトライアルを実施。走行終了から5分後に足底屈筋に痙攣を誘発するテストを実施した。試験施行中は、カフェインを含まないエネルギージェル(炭水化物1g/kgとナトリウム)が一定間隔で支給された。また、被験者は音楽を自由に聞いてよいこととした(ただし、両条件で同じ音楽)。

施行中、計画的な飲水(PFI)条件では、習熟試験で得られたデータを基に、体重減少を1%以内とするための水分を15分おきに摂取することとした。また、テスト中には心拍数、皮膚温、直腸温などの経時的に測定され、採血が計4回行われた。

なお、各試験の開始48時間前からは、習熟試験の際に記録された食事と水分の摂取量のデータに基づき、できるだけ忠実に再現するよう求めた。また、就床時刻や睡眠時間も等しくなるように指示し、スポーツサプリメントの摂取と激しい運動は禁止した。試験の前夜からは、就寝前に250mLの水を摂取し、当日の研究室到着1時間前にも同量摂取、それ以外は絶食とした。

計画的飲水のほうが水分摂取量が増え、パワーが上昇

では結果だが、まず、各条件のテスト試行前の体重、尿比重、尿浸透圧、ヘマトクリット、ヘモグロビン、心拍数は、いずれも有意差がなかった。

VO2peakの61±4%の固定強度で5時間の運動中の水分摂取量は、計画的な飲水(PFI)条件では90±19mL/kg、口渇感に基づく飲水(TDFI)条件では70±13mL/kgであり、PFI条件のほうが有意に多かった。また、尿量も同順に21±14mL/kg、9±11mL/kgであり、PFI条件のほうが有意に多かった。ただし、体重減少幅や発汗量には有意差はなかった。

タイムトライアルでは、水分摂取量や尿量も含めて有意差はなく、また4回の採血時点の血漿量や血中ナトリウム濃度も有意差がなかった。皮膚温や心拍数もほぼ同様に変化していた。ただし、5時間の固定強度運動からタイムトライアルに移行する5分間の心拍数は、PFI条件のほうが有意に低かった。また、直腸温については、5時間の固定強度運動の終了時点からタイムトライアル終了にかけて、PFI条件のほうが有意に低い値で推移していた。

腹部不快感や自覚的運動強度については、固定強度、タイムトライアルの両フェーズともに有意差がなかった。

20kmタイムトライアルの記録に有意差

固定強度運動の5時間と20kmタイムトライアルをあわせた記録は、排尿のための休憩を含めてPFI条件が334.5±3.1分、TDFI条件では333.8±2.0分で有意差がなかった(p=0.46)。排尿に要する時間は同順に2.7±3.1分、1.3±1.5分で、有意ではないものの前者のほうが長かった(p=0.11)。運動誘発性筋痙攣(EAMC)も有意差がなかった。

ただし、20kmタイムトライアル中の平均パワーはPFI条件が278±41W、TDFI条件が263±39Wであり、PFI条件のほうが有意に高く、走行記録も同順に31.8±1.7分、32.5±1.9分であって、前者のほうが短かった(いずれもp<0.05)。なお、平均パワーについては体重で補正すると有意差がなくなった(p=0.15)。

体重減少幅は、PFI条件は1.5±1.0%、TDFI条件は2.5±0.9%でPFI条件のほうが少なかったが、条件間の差は有意水準未満だった(p=0.10)。

以上の結果を基に、論文の結論には、「暑さの中で5時間以上の長時間にわたりレースを行うサイクリストは、計画的な水分補給によってレースの後半に高いパフォーマンスを発揮できる。排尿のための時間損失を考慮しないとするならば、計画的水分補給のメリットを得られるのではないか」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Programmed vs. Thirst-Driven Drinking during Prolonged Cycling in a Warm Environment」。〔Nutrients. 2021 Dec 29;14(1):141〕
原文はこちら(MDPI)

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