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BMIが1高いごとに労作性熱中症のリスクが3%増加する 米陸軍での症例対照研究

米国陸軍の兵士の健康関連データを用いた、労作性熱中症(EHS)のリスクを探索する研究の結果が報告された。解析の結果、リスク因子としてBMIの高さが抽出され、BMIが1高いごとにEHSリスクが3%上昇するという。

BMIが1高いごとに労作性熱中症のリスクが3%増加する 米陸軍での症例対照研究

労作性熱中症(EHI)のリスク因子は?

スポーツアスリートや消防隊員、軍人などは、労作性熱中症(exertional heat illness;EHI)のハイリスク集団として位置づけられている。例えば米国の軍隊では毎年約500人がEHIを発症しているという。

EHIのリスク因子は長年検討されてきており、BMIの高さ、女性、高齢などが関連しているとの報告がみられる。これらのうち、BMIの高さについては、体格に対する体表面積が相対的に小さくなることから、代謝的に産生された体熱の放散が少なくなることが、EHIリスクを高めるように働く可能性がある。高齢であることは一般に発汗機能の低下などによりEHIリスクを上昇させると考えられる。女性がリスク因子の可能性のあることの理由は不明。

いずれにしても、EHIのリスク因子はまだ十分明らかになっていない。

米陸軍の兵隊の健康関連データを用いた症例対照研究で検討

今回紹介する論文は、米国陸軍研究所による兵士のパフォーマンスや健康に関する情報レジストリ(soldier performance health and readiness;SPHERE)のデータを用いた、症例対照研究として実施された。軍隊活動中に労作性熱中症(EHI)を発症し、解析に必要なデータの欠落のない兵が、2016~21年に745人(女性61人)記録されていた。これを「症例群」として、EHIの記録のない兵士の中から、年齢、性別、BMI、人種、軍隊での階級の一致する4,290人(女性384人)を抽出し「対照群」とするデータセットを作成した。なお、BMIについては、EHI発症時に最も近いタイミングで評価されていたデータを用い、±180日以内のデータを確認できなかったケースは除外されている。

各群の年齢は、症例群が26±7歳、対照群25±5歳、BMIは同順に26.6±3.1、26.5±3.6、身体測定からEHI発症までの期間78日、86日であり、いずれも有意差はなかった。

EHIリスクとBMIは正の関連、年齢は負の関連、性別は関連なし

ロジスティック回帰モデルで共変量を調整後、BMIが1高いごとにEHIの発生が3%増加するという有意な関連が明らかになった(OR1.03〈95%CI;1.01~1.06〉、p=0.01)。反対に年齢は1歳高齢であるごとにEHIの発生が4%低下するという、負の有意な関連が示された(OR0.96〈0.94~0.97〉、p<0.001)。性別に関しては有意な関連が認められなかった(男性に対して女性はOR1.03〈0.78~1.38〉、p=0.86)。

また、BMIと年齢との間に有意な交互作用が観察された(p=0.02)。これは、より若年であるほどBMIが高いこととEHI発生率の高いことの関連が、強く現れていることを意味する。

なお、症例群と対照群のBMIの分布を比較すると、症例群は全体的にBMI高値に偏っていた。

体組成や体表面積を考慮した研究が求められる

著者らは、本研究で明らかになったポイントについて、以下のような考察を加えている。

女性は労作性熱中症(EHI)のリスク因子ではない

まず、これまでいくつかの研究で、女性の性別が労作性熱中症(EHI)のリスク因子である可能性が指摘されていた。米国陸軍で行われた研究でも、そのような結果を報告しているものもある。しかし本研究ではその可能性が否定された。

女性がEHIのリスク因子であるとする既報研究と本研究の相違点は、BMIを調整しているか否かの違いだという。著者らは、本研究から「BMIが同レベルであれば、男性と女性のEHIのリスクは同等と考えられる」としている。

BMIが高いことがEHIリスクを高める可能性

本研究から、BMIが1高いことがEHIの発生頻度が3%高いことと有意に関連していることが示された。EHIリスクには、熱放散に寄与する体表面積が関連していると考えられ、BMI高値は体表面積が相対的に小さいことを意味しており、そのことがEHIリスクの上昇につながっている可能性が想定される。

ただし、BMIのみでは体組成(脂肪や筋肉の分布)の違いを把握できず、本研究におけるBMI高値者が肥満または過体重なのか、筋肉量が多い兵士だったのかは不明。著者らは、「兵士は日常的にトレーニングを行っているため、一般人口に比べて健康的な体組成の対象者が多く含まれているのではないかと述べているが、データがないことからそれ以上の考察は不能」としている。

高齢のほうがEHI発生が少ないという結果は、軍隊の特殊性に起因

最後に、若年者のほうがEHI発生頻度が高いという意外な結果については、主として軍隊の特殊性に起因するものとの考察がなされている。

つまり、より若年の兵のほうが階級が低いことが多く、負荷の高い軍事訓練に参加する機会が多くあり、反対に高齢者は士官や将校である確率が高いために、暑熱環境に曝される機会が少ない。また、EHIリスクの高い個人は、軍隊内で長いキャリアを保つことが相対的に困難であることから、そのようなハイリスク者が軍を去っていった結果が反映されている可能性もあるという。

このトピックの結論としては、「加齢が暑熱環境への耐性を低下させることは明らかであり(例えば発汗機能の低下などによる)、生理学的な理由によって若年兵のEHIリスクが上昇するとは考えにくい」としている。

以上の考察に続き、研究全体の結論として、「今後は体組成や体表面積の影響を加味したEHIリスク因子の検討が望まれる」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Body mass index, but not sex, influences exertional heat stroke risk in young healthy men and women」。〔Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol. 2023 Jan 1;324(1):R15-R19〕
原文はこちら(American Physiological Society)

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