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思春期・若年成人アスリートの4人に1人は潜在的に鉄欠乏のリスク 女性は男性の約3倍

思春期から若年成人のアスリートの鉄欠乏状態の実態を調査した結果が、ドイツから報告された。男性では1割強、女性では約36%が貧血またはそのリスクのある状態と判定されたという。

思春期・若年成人アスリートの4人に1人は潜在的に鉄欠乏のリスク 女性は男性の約3倍

Hb、フェリチン、可溶性トランスフェリン受容体で鉄欠乏状態を判定

アスリートは、過度なトレーニングに伴う溶血による貧血(スポーツ貧血、行軍貧血)のリスクがあり、貧血はパフォーマンスの低下につながる。ただし、体内の貯蔵鉄が低下していてもヘモグロビン(hemoglobin;Hb)は基準値内に維持されているような状態でパフォーマンスの低下が生じるのかという点は、議論が続いている。

体内の貯蔵鉄は一般にフェリチンによって評価する。ただし、アスリートは鉄結合能が高いことなどのために、フェリチンが低くなりやすい。また、フェリチンは炎症などの影響を受けて変動する。このような理由で、フェリチンのみによる鉄欠乏の診断にも限界がある。それに対して可溶性トランスフェリン受容体(soluble transferrin receptor;sTFR)は、骨髄の造血能のマーカーであり日内変動が少なく、鉄欠乏状態の判定に優れている。

今回紹介する論文は、ヘモグロビン(Hb)、フェリチン、可溶性トランスフェリン受容体(sTFR)、トランスフェリン飽和度という検査指標を組み合わせて、思春期~若年成人アスリートの鉄欠乏の有病率を詳細に検討した報告。

ドイツのオリンピックトレーニングセンターでの医学検査データを解析

検討対象は、ドイツ国内のオリンピックトレーニングセンターで毎年実施されているアスリート対象のメディカルチェックに、2021年5月~2022年4月に参加したアスリート629人(男性339人、女性290人)。匿名化されたデータを後方視的に解析した。

鉄欠乏状態の判定には、以下の基準値を用いた。ヘモグロビン(Hb)は、男性は14g/dL以上、女性は12g/dL以上。フェリチンは、成人は30ng/mL以上、15~18歳は20ng/mL以上、15歳未満は15ng/mL以上。可溶性トランスフェリン受容体(sTFR)は4.13mg/L以下、トランスフェリン飽和度は16%以上。

また、行っている競技のタイプと鉄欠乏状態の有病率との関連も検討した。さらに、この対象のうち431人については自転車エルゴメーターによりピークパワーを計測し、競技のタイプ別に比較した。

思春期~若年成人アスリートの約25%が鉄欠乏で、1.3%は明らかな貧血

検討の結果、思春期~若年成人アスリートの約25%が鉄欠乏で、1.3%は明らかな貧血であることが明らかになった。年齢層別に見た場合、男性でも思春期では正常の割合がやや低い傾向がみられた。詳細は以下のとおり。

全年齢

男性は89.1%が正常、0.6%は明らかな貧血、10.3%は潜在性鉄欠乏。女性では同順に、64.1%、2.1%、33.8%であり、貧血または潜在性鉄欠乏状態の有病率が男性の約3倍だった。

15歳未満

男性は81.8%が正常、18.2%は潜在性鉄欠乏で、明らかな貧血はみられなかった。女性は75.7%が正常、2.7%は明らかな貧血、21.6%は潜在性鉄欠乏だった。

15~18齢

男性は85.4%が正常、0.5%は明らかな貧血、14.2%は潜在性鉄欠乏。女性では同順に、61.0%、0.6%、38.4%。

成人

男性は98.1%が正常、0.9%は明らかな貧血、同率の0.9%が潜在性鉄欠乏。女性では同順に、64.9%、4.3%、30.8%。

競技別の比較では有意差なし

次に、アスリートの行っている競技で、持久系、スキル系、パワー系、混合系の4種類に分類して比較。その結果はとくに有意差はみられず、どのタイプの競技でも全体解析と同様、女性アスリートで潜在性鉄欠乏や明らかな貧血が多いという傾向にあった。

自転車エルゴメーターにより計測したピークパワーについては、持久系アスリートが他の3タイプの競技アスリートよりも有意に優れていた(男性、女性ともにp<0.001)。ただしこの点については、競技固有のパフォーマンスを計測したものではなく、さらに鉄欠乏状態との関連も解析されておらず、論文でもとくに重視した考察は加えられていない。

アスリートへの推奨

以上より論文の結論部分では、「貧血がアスリートのパフォーマンス低下につながることは一般的に認められているが、貯蔵鉄が低下しているもののHbが維持されている状態のパフォーマンスへの影響は、依然として議論の余地がある」と述べられている。また、本研究結果と既報論文の考察を統合し、競争力のあるアスリートへの推奨として、以下の4項目が論文の末尾に掲げられている

  • アスリート、とくにベジタリアンやビーガンのアスリートは、鉄分が豊富な食事を摂るべき。
  • アスリートは、年1回以上の頻度で鉄レベルをモニタリングする必要がある。とくに、思春期のアスリートと女性アスリートは、モニタリングとケアの必要性が高い。
  • 食事による鉄の摂取が不十分で鉄欠乏状態の場​​合は、薬物療法を考慮に入れる必要がある。
  • 鉄の補充は医学的管理下でのみ行われなければならない。

文献情報

原題のタイトルは、「Iron Deficiency in Adolescent and Young Adult German Athletes—A Retrospective Study」。〔Nutrients. 2022 Oct 27;14(21):4511〕
原文はこちら(MDPI)

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