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月経周期による女性の摂取エネルギー量への影響はどの程度増加するのか?

「生理の後に食欲が増加する」という女性は少なくないが、実際のところ、生理後に摂取エネルギー量はどの程度増加するのだろうか? これまでの研究論文を基に考察を加えた、ニュージーランドの研究者によるナラティブレビューを紹介する。

月経周期による女性の摂取エネルギー量への影響はどの程度増加するのか?

栄養指導の第一歩「摂取エネルギー量の把握」が、女性では正確にされていない可能性

科学研究における性差への配慮の不足、より具体的には男性に比べて女性を対象とする研究が少ないことは、近年でこそしばしば指摘されるものの、この状況はいまだ十分には改善されていない。例えば、2014~20年に主要スポーツ科学ジャーナル6誌に掲載された5,200報以上の論文の研究対象者のうち女性は3分の1であり、女性のみを対象とする研究はわずか6%だった。

一方で、エリートレベル、レクリエーションレベルを問わず、女性のスポーツ人口が増加していることは周知の事実だ。しかし、スポーツ栄養学の女性を対象とする観察研究では、ほとんどの場合、一時点の食事調査の結果のみを基に摂取エネルギー量や栄養素量を評価している。そのような評価に基づく研究の結果は、不正確なものとなる懸念を否定できない。

こうした背景から、本論文の著者らは、女性の月経周期により摂取エネルギー量がどのように変化するのか、現在までのエビデンスの整理を試みた。文献検索にはPubMedとScopusを用い、「摂取エネルギー量」と「月経周期」というキーワードで検索。重複を除き300報がヒットした。タイトルとアブストラクトに基づくスクリーニングおよび全文精査により、英語で執筆されている約30報の原著論文を特定した。

月経周期の分類の問題

抽出された論文のレビューに先立ち著者らは、月経周期の分類の定義の不一致という問題を提起している。女性アスリートを対象とする科学研究では、月経周期を四つの段階に分類して検討することが提案されている(DOI: 10.1007/s40279-021-01435-8)。それは、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)がともに低値となる月経開始までの「初期卵胞期」、エストロゲンが他の段階より高くてプロゲステロンは初期卵胞期よりも高い排卵前の「後期卵胞期」、および「排卵期」と排卵後の「黄体中期」だ。

しかし、この詳細な分類はいまだ多くの研究で用いられておらず、大半の研究は単に卵胞期と黄体期に二分しているだけであり、かつ、その定義も研究によって異なっているとのことだ。その結果として、女性アスリートへの月経周期の影響に関する研究の深化が、大きく阻害されているという。

このような限界点を述べた上で、論文では、摂取エネルギー量、月経前症候群(premenstrual syndrome;PMS)、月経前不快気分障害、身体活動などへの月経周期の影響、平日と週末の差異、個体差など、幅広いトピックについて考察を試みている。以下はそれらの一部の要約。

月経周期と摂取エネルギー量

30人のブラジル人女性を対象とした研究では、黄体期の摂取エネルギー量が2,259±375kcal/日であるのに対して、卵胞期は1,730±254kcal/日であり、529kcal/日の差を報告している。他の研究からも黄体期に摂取量が増加するとの報告が多く、卵胞期との差は90~504kcal/日の範囲にわたっている。ただし、この結果は一貫性があるとは言えず、卵胞期と黄体期の摂取量に差がないとする報告も複数存在している。

複数の月経周期にわたり観察した研究

また、同じ人でも摂取量は変動する。そこで著者らは、複数の月経サイクルで摂取量を調査した研究に絞り込んだ検討を行っている。その結果、黄体期と卵胞期の摂取エネルギー量には、90~605kcal/日の差が確認されたという。

報告されている数値が比較的幅広い範囲に分布している理由として著者らは、前述のように黄体期や卵胞期の定義が一致していないという方法論の相違の影響に加えて、女性の月経周期による摂取エネルギー量の変動が、文化的または社会的な要因が加わった場合に縮小する可能性があるとしている。

月経全症候群(PMS)や月経前不快気分障害

一部の研究は、月経全症候群(PMS)や月経前不快気分障害と摂取エネルギー量との関連を検討していた。

ある研究によると、PMS患者では黄体期の摂取量が16%増加するのに対して、PMSでない女性では卵胞期の摂取量と有意差が認められなかったという。別の研究は過体重の女性を対象として検討。PMSでない女性の卵胞期と黄体期の摂取エネルギー量の差は112kcal/日であるのに対して、PMS患者では605kcal/日に上ることを報告している。

PMS患者では月経周期による摂取エネルギー量の差がより大きいとなると、PMSのなかでもとくに精神症状が強く現れている月経前不快気分障害患者の場合ではどうなのかという疑問が生じる。そして、そのような視点で検討を試みた報告も存在する。ただし、月経前不快気分障害の症状がある場合、摂取エネルギー量に影響を及ぼし得る交絡因子が多く存在するため、検討が困難とのことだ。

平日と休日の違い

別の研究では、月経周期の摂取エネルギー量への影響が、平日と休日とで異なるのかを検討していた。その結果は、黄体期の休日(週末)には摂取量が23%多いものの、黄体期が平日の場合は卵胞期と有意差がなかったという。その論文の著者は、平日に比べて休日は食物を比較的自由に摂取できることが、このような差につながっている可能性があるとしている。

論文ではこのほかに、黄体期の摂取エネルギー量が増加するメカニズムなどについて考察。結論では、月経周期の定義があいまいなために決定的な解釈が困難であることを改めて指摘。そのうえで、月経周期の影響を評価する今後の研究では、エストロゲンとプロゲステロンの測定に基づいて把握した月経周期に即した検討が重要と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Dietary energy intake across the menstrual cycle: a narrative review」。〔Nutr Rev. 2022 Nov 11;nuac094〕
原文はこちら(Oxford University Press)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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