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スポーツドリンクの塩分を3倍に増やすと、暑熱環境の長時間運動で有利になる可能性

暑熱環境での長時間の運動の際には、一般的なスポーツドリンクをそのまま飲むよりも、塩分を加えて摂取したほうが、循環血漿量などの点で有利になる可能性を示した研究結果が報告された。体温感覚にも差異が生じる可能性が示されたという。

スポーツドリンクの塩分を3倍に増やすと、暑熱環境の長時間運動で有利になる可能性

ナトリウム濃度を60mmol/Lにして摂取したら、異なる反応が現れる?

長時間運動、とくに暑熱環境での長時間運動では脱水リスク抑制のために水分摂取が推奨されるが、それに伴い運動関連低ナトリウム血症(exercise associated hyponatremia;EAH)のリスクが上昇することがある。EAHでは浸透圧低下から脳浮腫などを来し得る。これに対して運動中のナトリウム摂取が、EAHリスクの抑制につながると考えられる。

スポーツドリンクには、運動中のエネルギー基質としての炭水化物のほかに、発汗等によるナトリウム喪失を補正するためにナトリウムが加えられている。ただしそのナトリウム濃度は一般的に20mmol/Lほどに設定されている。スポーツドリンクのこのナトリウム濃度は、吸収にかかわる浸透圧効果、胃排出能への影響などとともに、恐らく最も重要な点として、嗜好性(味覚)への配慮を基に決定されていると考えられる。

ナトリウムが喪失された状態でそれを補給せずに水分のみを摂取した場合、血漿量の回復が制限されることが知られている。循環血漿量の減少は心拍出量の低下、心拍数の増加、末梢での体温調節能の低下などにつながる可能性がある。しかし、既報研究によると、一般的なスポーツドリンクのナトリウム濃度である20mmol/Lと36mmol/Lとの比較では、有意な違いは生じないとされている。

このような背景のもと、この論文の著者らは、ナトリウム濃度を大幅に高め、60mmol/Lとすれば、一般的なスポーツドリンクを摂取した場合と異なる反応が生じると仮定し、以下の研究を行った。

二重盲検無作為化クロスオーバー法で検討

この研究は、二重盲検無作為化クロスオーバーデザインで実施された。研究参加者は、研究者の所属機関であるニュージーランドのオタゴ大学周辺の地域住民から、習慣的に運動を行っている男性、心血管疾患や腎疾患がない、スポーツドリンク以外のサプリメントや医薬品を使用していない、VO2max50mL/kg/分以上という条件を満たす人が募集された。18名が研究室を訪問し、そのうち16名が適格と判断された。

試行条件は、環境温度34℃、相対湿度65%で、産業用ファンを用いて前方から4.5m/秒の風を当て、自転車エルゴメーターで55%VO2max(160±23W)の強度を3時間継続するというもの。1回はナトリウム濃度が21mmol/Lのスポーツドリンク、別の1回はスポーツドリンクにナトリウムを加えて36mmol/Lとした飲料を、事前に決定されていた水分喪失速度と等しい速度で、15分おきに摂取した。

各条件の試行順序は無作為化され、試行の間隔は少なくとも7日以上あけた。両条件とも同時刻にトライアルをスタートし、トライアルの2時間前までに食事を終了していた。試行の前後に体重、尿比重を測定するとともに、深部体温、心拍数、自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)、体温感覚、口渇感を経時的に把握した。

60mmol/Lの高Na条件では循環血漿量が低下しない

16名の参加者のうち、トライアル中の脱落などにより、最終的な解析対象は11名となった。平均年齢は36±14歳、体重75.36±5.30kg、身長180±6cmで、VO2maxは60±3mL/kg/分だった。

体液バランスと体重の変化

トライアル中の水分摂取量は、21mmol/L条件(低Na条件)は3.296±0.582L、60mmol/L条件(高Na条件)は3.353±0.666Lであり、有意差はなかった(p=0.45)。また推定発汗量は同順に3.28±0.70L、3.31±0.49Lであり、やはり有意差はなかった(p=0.84)。

一方、体重変化率は-0.40±0.30%、-0.22±0.35%(p=0.09)で非有意ながら、高Na条件で少ない傾向があった(効果量(Cohen's d)=0.55)。

血漿ナトリウム濃度と循環血漿量の変化に有意差

トライアル中の血漿ナトリウム濃度は、低Na条件よりも高Na条件では有意に高値で推移していた(p<0.001)。ベースラインから最終測定値までの血漿ナトリウムレベルの変化幅は、低Na条件では-1.5±2.2mmol/L、高Na条件では+0.8±2.4mmol/Lだった(p=0.048、効果量(Cohen's d)=0.99)。

循環血漿量は、低Na条件では-2±2%と減少した。一方、高Na条件は0±3%であり変化がなく、条件間に有意差が認められ(p<0.001)、効果量も大きかった(効果量(Cohen's d)=0.80)。

体温感覚は初回の試行で有意差

心拍数や深部体温、自覚的運動強度(RPE)には、条件間の有意差が観察されなかった。

体温感覚については初回の試行のみを比較した場合、高Na条件で低く、低Na条件では暑さが強く自覚されていた(p=0.002)。ただし、2回目の試行を含めた解析では、有意差がなかった。

口渇感については条件間の差はなかったが、両条件ともに2回目の試行では1回目よりも口渇感が抑制されていた。

以上一連の結果を基に、論文の結論は、「3時間またはそれ以上続く持久系スポーツイベントで経験される大量の発汗が生じる状況では、アスリートは摂取する飲料のナトリウム濃度を上げることで、循環血漿量の維持というメリットを得ることができる」とまとめられている。

なお、体温感覚が1回目の試行でのみ有意差があったことや、口渇感が2回目の試行では抑制されていたことについて、「おそらく、同条件への曝露に対する心理的なコンディショニング効果によるものではないか」との考察が述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「A randomized, cross-over trial assessing effects of beverage sodium concentration on plasma sodium concentration and plasma volume during prolonged exercise in the heat」。〔Eur J Appl Physiol. 2022 Sep 29〕
原文はこちら(Springer Nature)

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