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地球温暖化により、21世紀末には世界人口の3割以上が未曾有の気象リスクにさらされると予測

深刻な地球温暖化により、21世紀末には世界人口の3割以上が、これまで人類が経験したことのない極端な気象リスクにさらされると予測が発表された。東京大学の研究グループの研究によるもので、「Environmental Research Communications」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。具体的には、熱波や豪雨のリスクが高まるとのことだ。

地球温暖化により、21世紀末には世界人口の3割以上が未曾有の気象リスクにさらされると予測

発表のポイント

  • このまま地球温暖化が深刻に進むと、今世紀末までに南アジア、サハラ以南のアフリカなどで世界人口の34.2%、これまでに人類が経験したことのない熱波や豪雨のリスクにさらされるようになると推計された。気温上昇を2℃未満に抑えられたとしても、その割合は16.3%に達する。
  • 従来は、各地点での主に平均的な現象が過去の変動幅から大きく逸脱するかどうかという視点で影響リスク評価が行われていた。これに対し本研究は、人類全体、あるいは特定の領域内で過去にさらされていた気候リスクがどのような範囲であったか(気候リスク境界)という新たな概念を提示したうえで、気候変動に伴ってその範囲を逸脱し未曽有のリスクにさらされるようになる地域とそこに住む人口とを、世界で初めて明らかにした。
  • グローバルな気候リスク境界を逸脱する地域については、これまでの経験に基づく適応策では不十分だと懸念されるため、緩和策の推進や国際社会の特段の支援が必要になる一方で、各地域の気候リスク境界から逸脱する多くの地点では、より深刻なリスクにさらされている他の地域における適応策に学ぶ必要性が明白になった。すなわち、多国間主義に基づくグローバルな協調と知識・技術の円滑な交流が気候変動に対する適応策の効率的な導入には重要であることを本研究の成果は示し、極端な気候リスクに対する市民の認識を洗練させるだけではなく、より適切な政策立案にも資すると期待される。

発表概要

人為的な気候変動は、極端な熱波や豪雨などの異常気象の発生頻度に影響を及ぼしている。これまでにも人類は生活様式や社会経済システムを変化させて気候の変化に適応してきた。しかし昨今の気候変動の速度に対して人類の適応能力は十分ではなく、異常気象による体調不良や風水害の増加などが報告されている。とくに前例のない気候リスクは地域の適応能力を超え、社会経済システムに深刻な影響を及ぼす可能性がある。

研究グループでは、将来の異常気象リスクへの適応性を考慮し、人類が過去にさらされていた気候リスクがどのような範囲であったか(気候リスク境界)という概念を新たに提示し、20年に一度の異常高温と異常豪雨にさらされている人口の2次元ヒストグラムの縁を気候リスク境界と定義し、分析を行った。

本研究の結果によると、CO2排出削減などの温暖化対策を今以上に施さなかった場合の地球温暖化進行シナリオ(RCP8.5)※1では、今世紀末までに南アジア、サハラ以南のアフリカなどで世界人口の34.2%が気候リスク境界を越え、人類がこれまでに経験したことのない熱波や豪雨のリスクにさらされることが明らかになった。また全地球平均気温の上昇を2度以内に抑えられるような場合(RCP2.6)※1でも世界人口の16.3%が気候リスク境界を越えてしまうと推計された。さらに大都市を抱える多くの地域は、世界的な気候リスク境界の範囲内にとどまるものの、地域的な気候リスク境界は越えてしまい、それぞれの地域にとっては未知の気候リスクにさらされることも明らかになった。

※1 代表濃度経路シナリオ(Representative Concentration Pathways):RCP2.6およびRCP8.5では工業化以前と比較して放射強制力が21世紀末までにそれぞれ2.6W/m2および8.5W/m2上昇するシナリオ。

本研究の成果は、適応策の文化的、技術的、社会的移転可能性を考慮し、適切な地域ごとに適応策の限界を検討する必要もあることを示しており、極端な気候リスクに対する市民の認識を洗練させ、より適切な政策立案に資すると期待される。

発表内容

研究の背景と目的

人為的な気候変動により熱波や豪雨の頻度が増加し、その影響はさまざまな健康被害、山火事、洪水などの被害として現れ始めている。パリ協定以降、気候変動の進行を緩和する緩和策に加え、気候変動に関連した熱波や豪雨、旱魃、海面上昇などによる被害を対症療法的に軽減する適応策が推進されているが、その限界も指摘されている。

気候条件はさまざまな地域の動植物がこれまで経験したことのないレベルにまで変化する可能性があり、したがって生物は新しい気候条件に適応するか、あるいは生き残るために生息地や行動を変える必要がある。これは人類も例外ではなく、他の地域から異なる品種の作物を導入するなど気候の変化に適応するために社会経済システムを変革しようと努力している。しかし気候変動のスピードに対して、人間社会の適応能力は必ずしも十分ではなく、近年異常気象に伴う体調不良や風水害の増加も報告されている。

重大なリスクは気候変動の大きさが地域の適応能力を上回る際に生じる可能性が高くなる。前例のない気候リスクは潜在的に社会経済システムに深刻な影響を与える可能性がある。先行研究では過去の気候の変化の範囲からの気候の逸脱が、いつ、どの地域から生じるかを明らかにし、気候変動の結果として人間の居住地に関するニッチがどのように推移するかが明らかにされている。こうした研究ではそれぞれの地域について、その地域内のみでの気候変動の大きさと変化の速度が最大の関心事だった。しかし、ある地域が他地域における過去の気候変動からの経験を受け入れ、将来の極端な事象に適応することが可能であるかについては、これまでほとんど考慮されていない。

そこで本研究では、最も基本的、代表的かつ影響力のある気候要素である気温と降水量の変化を用いて、極端な高温と激しい降水による複合リスクが過去の気候条件よりも大きくなり、未知の気候リスクに将来さらされる地域および人口の推計に取り組んだ。

研究の手法

本研究では第6次結合モデル相互比較プロジェクトにおいて公開されている、気候モデルの予測結果から得られる将来の日降水量日と最高気温のデータを用いて、異常高温と豪雨の変化を算定し、人類の居住域(平均人口密度1人/1km2以上)内の各グリッド(50km四方)における異常高温と豪雨の複合リスクを、過去の気候条件(1980~2009年)と将来の気候条件(2070~2099年)について、二つのシナリオの下で推計した。シナリオは温室効果ガス排出量に関するシナリオ(RCP)と社会経済の変化に関するシナリオ(SSP)※2の組み合わせで表現されており、持続可能な発展の下で21世紀末までの気温上昇を2℃以下に抑えるシナリオ(RCP2.6-SSP1)と、化石燃料依存型の発展の下で気候政策を導入しない最大排出量シナリオ(RCP8.5-SSP5)を用いた。

各グリッドの年最高気温と年最大日降水量から推計された各シナリオの20年に一度の気温と降水量に対する人口の2次元ヒストグラムは、先行研究で示される0.125度の解像度を持つ将来の人口分布データを用いて作成した。現在の2次元ヒストグラムの外縁を極端気象リスク境界と定義し、将来の2次元ヒストグラムと重ね合わせることで、気候リスク境界の内部に位置する極端気温と極端降水の組み合わせを、すでに人類が経験しているリスクと定義した。

※2 共通社会経済経路(Shared Socioeconomic Pathways):将来の社会経済の傾向を仮定したシナリオで、SSP1は気候政策のもとで持続可能な開発を進めていくシナリオ、SSP5は気候政策を導入せず化石燃料による開発を進めていくシナリオ。

これらの人類がすでに経験しているリスクを取り除いた将来の気象リスクのうち、気温と降水量ともに20年間の気象リスクが過去の20年間の値の平均値より1標準偏差以上大きいという条件を満たす気象リスクを、未知の気象リスクと定義した。なお、20年に一度という頻度を10年といった別の頻度にしても結果は大きく変わらないことも確認されている。

研究結果と考察

図1はRCP8.5-SSP5シナリオにおける過去と未来の20年に1度の高温と豪雨に対する人口の2次元ヒストグラムを示したもの。色の濃さは、極端気象リスク下での人口に対応しており、青いヒストグラムは過去(1980~2009年)、赤いヒストグラムは未来(2070~2099年)を表している。

図1 RCP8.5-SSP1シナリオにおいて極端な気象リスクにさらされる人口の変化予測

RCP8.5-SSP1シナリオにおいて極端な気象リスクにさらされる人口の変化予測

20年に一度の最高気温と20年に一度の最大日降水量をそれぞれ0.5℃と10mmを最小単位として分割し、極端な気象リスクの組み合わせにさらされる人口を表した2次元のヒストグラム。青いヒストグラムは1980~2009年、赤いヒストグラムは2070~2099年の結果である。これらのデータはRCP8.5-SSP5シナリオのものである。
(出典:東京大学)

図2はRCP8.5-SSP5シナリオにおける21世紀末の気候リスク境界の外側にある人口の位置を示している。この結果からRCP8.5-SSP5シナリオでは、インド中部とサヘル地域の一部が気候リスク境界を越え、気温・降水量ともに人類がこれまで経験したことのないような気候リスクにさらされることになると予想された。同様にアラビア半島、インド北部、サヘル地域は未知の異常高温のリスクに、東南アジアや東アジアの人々もこれまで経験したことのない異常豪雨リスクにさらされることになることも予想された。

さらにRCP8.5シナリオでは、SSP5の世界人口の34.2%にあたる約25億2,000万人が、RCP2.6シナリオでは、SSP1の世界人口の16.3%にあたる約11億人が、気候リスク境界の外部となる未知の極端気象リスクにさらされると推計されている。

図2 RCP8.5-SSP1シナリオにおける気候リスクの境界を越え、見慣れない極端な気候リスクにさらされると予想される人口と地域

RCP8.5-SSP1シナリオにおける気候リスクの境界を越え、見慣れない極端な気候リスクにさらされると予想される人口と地域

黄色と青のグリッドではそれぞれ未知の極端な気温と降水量のリスクにさらされ、赤のグリッドでは未知の極端な気候リスクの組み合わせにさらされることになる。色の濃淡は住民の密度に対応し最も濃色のグリッドでは106人以上、次に濃いグリッドでは104人以上の人類が居住している。
(出典:東京大学)

これらの結果では適応策の移転を妨げる障害は考慮されておらず、世界のどこかですでに人類が同様のリスクにさらされていれば、その気候リスクには適応可能であると暗に仮定している。しかしすでに高い極端なリスクにさらされている地域の人々から成功事例を学ぶことで、気候リスクに効果的に対応できる保証はなく、また文化的、社会的、経済的なギャップが、極めて高い気候リスクに対応してきた地域から、初めてリスクにさらされる地域への知識や経験の円滑な移転を妨げる可能性もある。

そこで図3では東アジア、南アジア、中央ヨーロッパ、北アメリカ東部の住民の地域的な気候リスク境界を示している。この結果では大都市を含むいくつかのグリッドの気候リスクの変化を矢印で示し、地域内の代表的な変化を示している。世界全体のヒストグラム(図2)と比較すると、各地域の人口の大部分は世界のグローバル気候リスク境界の範囲内にとどまることになる。しかし過去と未来の地域別2次元ヒストグラムは地域ごとにおおきくシフトしており、人口の大部分がその特定の地域の過去の気候リスク境界の外で生活するようになる結果となっている。

図3 RCP8.5-SSP1シナリオにおける、(a)東アジア、(b)南アジア、(c)中央ヨーロッパ、(d)北米東部の20年間の気温と降水量の気候リスク境界の変化予測

RCP8.5-SSP1シナリオにおける、(a)東アジア、(b)南アジア、(c)中央ヨーロッパ、(d)北米東部の20年間の気温と降水量の気候リスク境界の変化予測

矢印は、RCP8.5-SSP5シナリオにおいて、過去の気候条件(1980~2009年)から将来の気候条件(2070~2099年)への矢印の向きで表される大都市の極端気象リスクのシフトを示す。
(出典:東京大学)

また、東アジアと南アジアの一部の地域はすべての人類にとって未知の極端な気候リスクにさらされる結果(図3a図3b)となっているが、IPCC第1作業部会の第6次評価報告書で特に強調されている地域と一致している。一方、中央ヨーロッパやアメリカ東海岸は、世界全体の境界から逸脱していない(図3c図3d)。しかしこれは気候変動がこれらの地域の人々に大きな影響を与えないことを意味するものではない。これらの地域では適切な知識と経験の移転がなければ適応は困難になる。ただし、逆にこれらの地域で、すでにより深刻な気候リスクにさらされている地域から適切な知識や経験の移転がなされれば、将来の気候への適応の難易度は下がる可能性があり、本研究の結果はどの地域から知識や経験を得るべきかを読み解くことにも利用できる可能性がある。

まとめと今後の展望

本研究では、気候リスク境界という概念を提案することで、過去に人類が経験した極端な気象リスクの範囲を世界で初めて明らかにし、また将来、未知の極端な気象リスクにさらされる地域・人口を温暖化シナリオごとに推計することに成功した。さらにその結果は地域ごとに大きく異なるものの、世界全体を参照した場合には既知のリスクでも、適切な知識・経験の移転がなされなければ適応は困難となることも示された。

プレスリリース

深刻な地球温暖化により21世紀末には世界人口の3割以上が これまで人類が経験したことのない極端気象リスクにさらされると予測(東京大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Future population transgress climatic risk boundaries of extreme temperature and precipitation」。〔Environ Res Commun. 2022 Aug 10;4(8)〕
原文はこちら(IOP Publishing)

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