メンソールのマウスリンスで、暑熱下での短時間高強度運動のパフォーマンスが向上する可能性
暑熱環境下でメンソールのマウスリンス(口すすぎ)をすると、冷水やプラセボに比べて、短時間の高強度運動パフォーマンスがわずかながら向上するというデータが報告された。33℃のヒートチャンバー内で行ったクロスオーバー試験の結果であり、研究者らは、「次のステップはメンソールの利用を実験室内からスポーツの現場に移すことだ」と述べている。
最大無酸素パワーに対するメンソールの効果は?
メンソールはその感覚的な冷却効果を生かし、さまざまな市販製品に利用されている。メンソールに深部体温を下げる効果はないが、感覚的な涼しさを得られるため、暑熱環境下でアスリートが使用した場合、パフォーマンスの向上が期待される。
既に、持久系スポーツでは、メンソールのマウスリンスによる有意なエルゴジェニック効果を報告した研究が存在する。ただ、最大無酸素パワーに対するメンソールマウスリンスの効果はまだ十分に検討されていない。そこで本論文の著者らは、単回のメントールマウスリンスが、暑熱環境条件下での冷水またはプラセボでのマウスリンスに比較して、3分間の最大無酸素パワーを向上させ得るか、および熱知覚に影響を与えるか否かを検討した。
無作為化クロスオーバー単盲検試験での検討
研究対象は、健康な男性6名と女性5名、計11名(年齢25±5歳、身長171.2±11.0cm、体重75±13kg)。暑熱環境での有用性を検討することを目的とするため、研究は秋~冬にかけて実施され、かつ研究参加者は研究実施前2カ月以内に、暑熱地(28℃以上)への旅行歴がないことを条件とした。また被験者は自転車エルゴメーターを利用した運動テストの経験があり、怪我をしていないことも適格条件として設定した。なお、被験者は週に3~7回、トレーニング目的でサイクリングを行っていた。
以下に記す計5回にわたる研究室訪問の24時間前からアルコールとカフェインの摂取、および激しい運動を控えるように指示した。食事に関してはふだんどおりの習慣的な食事内容を維持するよう指示した。
被験者は計5回、研究室を訪問。まず、20℃、相対湿度30%に設定したヒートチャンバー内でVO2maxを計測。日を改めて、33℃、相対湿度46%の暑熱環境条件で、3分間の自転車エルゴ―メーターを用いた研究へ向けた習熟を行った。
その後、メンソール、冷水、プラセボのマウスリンスという3条件で、上記の暑熱環境の下、3分間の自転車エルゴメーターを用いた最大無酸素パワーを計測した。これら3条件の試験の施行順序は無作為化した。また、概日リズムの影響を最小化するため、すべての条件の試験を同じ時間にスタートした。
試験実施に際し、研究室に到着後、尿比重を測定し水分補給状態を確認。尿比重が1.030以上の場合はヒートチャンバーに入る前に200~500mLの水を摂取してもらった。試験時の着衣は、各人が最も快適と考える任意のウエアを着てもらった。
3種類のマウスリンス
マウスリンスは、エルゴジェニック効果を報告した既報研究を基に、濃度0.1%のメントール溶液と、冷水、およびペパーミント抽出物の水溶液という3種類を用いた。いずれも視覚による同様の感覚的な期待を抱かせるため、緑色の食用色素で着色した。
これらのマウスリンスを5秒間、口に含んでうがいした後、飲み込まずに吐き出してから、ヒートチャンバー内での負荷試験を実施した。
なお、この試験は当初、研究者も被験者がどの条件でテストを行うのかわからない、二重盲検(ダブルブラインド)で実施する計画だった。しかし倫理審査委員会より、被験者が暑熱環境で最大負荷の運動を行うことから、研究者側は条件の割り付けを知っている必要があると判断され、被験者のみが条件を知らされない単盲検(シングルブラインド)で行うことになった。
対プラセボや水のマウスリンスで、わずかに相対パワーが上昇
3分間の自転車エルゴメーターによる運動負荷中のパワーを、15~45秒、45~75秒、75~105秒、105~135秒、135~165秒という5つのタイムゾーンに分けて絶対パワーを比較すると、ほとんど条件間の差はなく、メンソールマウスリンスの効果は認められなかったが75~105秒においてメンソール条件はわずかにプラセボ条件に比較し高値となった(効果量〈ES〉0.27〈90%CI;-0.45~0.96〉)。
体重で補正した相対パワーで比較すると、条件間の違いがやや明確に表れた。具体的には75~105秒において、メンソール条件は水条件に比較しES0.795(90%CI;0.204~1.352)、プラセボ条件に比較してES1.059(同0.412~1.666)であり、105~135秒においても同順にES0.729(0.152~1.276)、ES0.791(0.202~1.348)、さらに135~165秒においては水条件とプラセボ条件に比較してES1.058(0.411~1.665)だった。
RERや乳酸値、RPE、温度感覚に大きな影響は与えない
パワー以外に評価されていた、呼吸交換比(respiratory exchange ratio;RER)や乳酸値、自覚的運動強度(rating of perceived exertion;RPE)、熱知覚については、時間効果は有意な影響が観察された。ただし、マウスリンスの条件による違いは、わずかな差が認められたタイムゾーンもあるが、全体的に明らかでなかった。
著者らは、「0.1%メンソールのマウスリンスが、暑熱環境での3分間の無酸素運動のパワーを増大させる可能性が示された。スプリント競技における暑熱によるパフォーマンス低下を抑制する潜在的なメリットがあると考えられ、今後は研究室外での研究が必要とされる」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Menthol Mouth Rinsing Maintains Relative Power Production during Three-Minute Maximal Cycling Performance in the Heat Compared to Cold Water and Placebo Rinsing」。〔Int J Environ Res Public Health. 2022 Mar 16;19(6):3527〕
原文はこちら(MDPI)
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