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ウシ初乳やグルタミンなどのサプリが、運動に伴う腸のダメージを抑制する 系統的レビュー

持久系スポーツでしばしばアスリートを悩ませる競技中の消化器症状を、ウシ初乳やグルタミンといったサプリメントが抑制する可能性が、システマティックレビューの結果として示された。プロバイオティクスにもその効果が一部認められるが、固有の菌株、投与量、投与期間に限られると考えられるという。

ウシ初乳やグルタミンなどのサプリが、運動に伴う腸のダメージを抑制する 系統的レビュー

i-FABPなどの消化管に特異的なマーカーで評価している研究27件を抽出

持久系スポーツのアスリートでは競技中の消化器症状(exercise-associated gastrointestinal syndrome;EAGS)がよくみられ、パフォーマンスの低下や時に競技の棄権につながる。EAGSは、運動負荷に伴う消化管の低灌流による局所的な低酸素状態と内皮細胞の損傷などが関与していると考えられている。例えば、マラソン完走者の消化管ダメージのマーカーである腸型脂肪酸結合タンパク質(intestinal fatty acid binding protein;i-FABP)の平均は2,593ng/mLであるのに対して、競技中に虚脱状態となったランナーはそのレベルが15,000ng/mLを超えていたとの報告がある。

これまでに、サプリメント摂取によるそれらの抑制が試みられてきており、今回紹介する論文は、その介入の有効性をシステマティックレビューで検討した結果の報告。

文献検索は、システマティックレビューとメタアナリシスのガイドライン(PRISMA)に則して、Pubmed、Cochrane Library、SPORT Discusなど5つの文献データベースを使い、2021年2月1日に実施された。検索キーワードは、胃腸、粘膜、内臓、透過性、機能不全、傷害、運動、耐久性、身体活動などを設定。ヒットした総説の参照文献も検索対象とした。ジャーナルの発行日や論文の執筆言語に制限は設けなかった。

適格基準は、研究対象が18~65歳で健康な成人であり、消化器疾患や心血管疾患、精神疾患などの既往がないこと。また、消化管のダメージや透過性を評価可能なマーカーが測定されていること。消化管に非特異的な一般的炎症マーカーのみを評価していた研究は対象に含めなかった。

2名の研究者がそれぞれ独立して採否を判断し、意見の不一致は3人目の研究者との協議によりコンセンサスを形成した。初期検索でヒットした4,398報から、最終的に27件の研究論文が適格と判断された。

抽出された27件の研究の特徴

27件の研究のうち、12件はサプリメントを運動前(最大24時間前)および/または運動中に単回摂取する介入を行い、15件は数日間から最大8週間連日摂取するというデザインで行われていた。

競技種目は、3,000mのタイムトライアル、20分間のトレッドミルランニング、マラソン、4日間の軍事ハイキングなど多岐にわたっていたが、19件はランニングへの影響を検討していた。研究参加者の大半はトレーニングを行っている男性ランナーまたはサイクリストであり、女性は10%だった。また、13件の研究は一定程度以上の暑熱環境(23℃超)で行われていた。

消化管機能のマーカーとして、18件の研究ではi-FABPが用いられ、12件ではラクツロース、マンニトール、スクラロースなどの比が用いられていた。

選択された研究のバイアスリスクは、全体として低いと見なされた。

ウシ初乳、グルタミンなどに有望な結果

ウシ初乳

6件の研究でウシ初乳摂取の影響が検討され、介入期間は2~14日の範囲だった。

ウシ初乳20g/日で介入を行った研究では、22℃または30℃の環境で運動後、i-FABPの上昇抑制が確認された。ただし、40℃の環境では有意な効果が認められなかったという。

ウシ初乳に亜鉛カルノシンを上乗せして介入を行った研究からは、相加的な効果が報告されている。具体的には、14日間の連続摂取後に、プラセボに比較し腸管粘膜透過性が85%抑制されたことを示すデータも報告されている。

グルタミン

4件の研究がグルタミン摂取の影響を検討し、そのうち3件はグルタミン摂取によりランニング後の腸管内皮損傷のマーカーが低値を示したことを報告している。

なお、これらの研究はすべて、暑熱環境(30~35℃)で実施されていた。3件は運動前の単回摂取(0.9g/kg)とし、別の研究では60分間の暑熱環境下での試験前に、摂取量を0.25、0.5、0.9g/kg除脂肪量と、段階的に増やすという戦略が用いられていた。

プロバイオティクス

プロバイオティクス摂取の影響も、4件の研究で検討されていた。

単一株を用いた研究では、腸管細胞の損傷と粘膜透過性に対してわずかながらメリットが観察されている。対照的に、4種類の菌株のプロバイオティクスサプリを使用した研究では、条件間の違いがみられなかった。

主要栄養素

7件の研究で、炭水化物および/またはタンパク質ベースの食品および液体を、プラセボと比較していた。ある研究では、サイクリングタイムトライアル中に炭水化物(27g)を摂取するとi-FABPが上昇するという負の効果が認められたとしているが、他の研究ではそれを否定する結果を報告している。炭水化物溶液の濃度を6~16%の間で変更して行った研究では、低濃度であればi-FABPへの影響が抑制されるという。ただし、研究によって用いられている糖の種類や濃度が異なるため、直接比較の解釈は制限される。

2件の研究は、タンパク質の急性・慢性摂取の影響を検討しており、その一つでは、運動中にホエイプロテイン(6.4%溶液)を摂取することで、水の摂取に比較し腸細胞の損傷と透過性のマーカーが低く抑制されたという。

酸化防止剤、硝酸塩・硝酸塩前駆体、水分制限

3日間のクルクミン補給(500mg/日)は、暑熱環境下での60分間のランニング後のi-FABPレベルを有意に抑制したとされる。対照的に、14日間のビタミンE(1000IUd-α-トコフェロール/日)摂取は、マラソン後の腸管粘膜透過性に影響を及ぼさなかったとされる。硝酸ナトリウムの単回摂取は、対プラセボで運動後のi-FABPに影響を与えなかった。

水分摂取制限に関する3件の研究中2件は、運動中の完全な水分制限が自由な水分摂取に比較し、腸細胞の損傷と透過性のマーカーが高値となることを報告している。

明確なエビテンスの確立にはさらなる研究が必要とされる

著者らは、この領域の研究には研究プロトコルが標準化されておらず、結果解釈の制限が大きいこと、研究参加者に占める女性アスリートの割合が低いことなど、いくつかの限界点があることを指摘。そのうえで、結論を「このシステマティックレビューにより、ウシ初乳(亜鉛カルノシンの併用の有無にかかわらず)とグルタミンは、ランニング中の運動誘発性の腸の損傷と透過性を改善し、運動関連消化器症状(EAGS)を抑制する可能性があることが示された。抗酸化物質や硝酸塩または硝酸塩前駆体の有用性については、さらなる研究を要する段階と言える。プロバイオティクスは消化管の健康維持に中心的な役割を果たしている可能性があるものの、そのメカニズムはいまだ明らかになっていない」とまとめている。

文献情報

原題のタイトルは、「A systematic review: Role of dietary supplements on markers of exercise-associated gut damage and permeability」。〔PLoS One. 2022 Apr 13;17(4):e0266379〕
原文はこちら(PLOS)

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