ボディビルダーの栄養戦略に伴う腎機能低下リスクの実態は? 文献レビュー
ボディビルダーの食事スタイルやサプリメント摂取に伴うと考えられる、腎機能低下リスクに関連した報告のレビュー論文が発表された。2000年以降に13報の報告があり、計75人のボディビルダーの腎疾患が、食事やサプリ使用に関連付けられて取り上げられているという。
エビデンスが貧弱で極端な栄養・薬物戦略は腎機能低下リスクの懸念
ボディービルは他のスポーツとは異なり、運動能力ではなく、筋肉の量や審美的観点で評価が決定する。ハイレベルのボディビルダーは、レジスタンストレーニングの限界を押し広げ、厳格な食事スタイルを遵守している。
ボディビルダーの95%以上がサプリメントを使用していると報告されている。最も利用頻度の高いサプリは、クレアチン一水和物とタンパク質サプリであり、そのほかにビタミン、あるいはアナボリックアンドロゲンステロイド(AAS)などの薬剤が利用されることもある。ボディビルダーが使用する極端なトレーニング・栄養・薬物戦略の多くは、確固たるエビデンスに基づかない情報源から派生しており、潜在的な健康へのリスクが懸念される。とくに、タンパク質の排泄にかかわる腎臓への負荷がより強く危惧される。
このような状況を背景として本論文の著者らは、文献レビューを行い、ボディビルダーの腎機能に関する知見を収集・検討した。
2000年以降の査読付きジャーナル掲載論文13報を抽出
文献検索には、Google Scholar、PubMed、ScienceDirectを利用。適格条件は、ボディビルダーを対象に腎機能を評価した研究であり、査読システムのあるジャーナルに2000年以降に掲載された、全文が公開されている論文。検索キーワードとして、ボディービル、栄養、タンパク質、クレアチン、サプリメント、同化アンドロゲンステロイド、腎機能、急性腎障害、慢性腎障害という語句を用いた。なお、これらの工程は、システマティックレビューとメタアナリシスのガイドライン(PRISMA)に則して行われた。
Google Scholarから3,870報、PubMedから57報、ScienceDirectから110報がヒットし、重複の削除、タイトルとアブストラクトによるスクリーニングの後、全文が公開されていないものや査読システムのないジャーナルに掲載された論文、2000年以前の報告を除外し136報に絞り込み、全文精査の対象とした。最終的に13報の論文が適格と判断された。
13報の論文の特徴
13報の論文のうち8報はn=1の症例報告であり、その他は複数症例の報告だった。合計すると75人のボディビルダーの腎機能について言及されていた。
25例は急性腎障害(AKI)または急性尿細管壊死(ATN)、20例は巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)の報告であり、その他に腎石灰化症、急性間質性腎炎、腎硬化症、慢性間質性腎炎などの症例報告だった。
極めて高用量を用いてるケースも存在する
論文ではこれ以降、ボディビルダーの腎機能の評価方法、タンパク質サプリ、クレアチンサプリ、同化アンドロゲンステロイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)などについて個々に考察を述べ、最後に実際への適用と結論を述べている。それらの一部を紹介する。
腎機能の評価
臨床においては一般に、クレアチンの最終産物であるクレアチニンの血液中の濃度を測定し、そのレベルまたは年齢や性別で補正した推算糸球体濾過率(eGFR)によって腎機能を評価する。
クレアチニンは、筋肉内のクレアチンの非酵素的脱水によって生成され、骨格筋はクレアチニン生成の主要な供給源である。よって筋肉量が一般成人よりも多いボディビルダーでは、血清クレアチニンは高値となりやすく、その値から算出するeGFRは低値になりやすい。
一方、シスタチンCは筋肉量の影響を受けないため、ボディビルダーの腎機能評価の信頼性が高い可能性がある。ただ、同化アンドロゲンステロイドを使用している場合は、測定結果が影響されることが報告されている。つまり、ボディビルダーの腎機能の評価には、クレアチニンとシスタチンCのいずれを用いても、解釈に注意を要する。
タンパク質サプリメント、クレアチンサプリメント
腎機能が正常な場合は高タンパク、あるいは適切な量のクレアチン摂取が健康リスクとなるという報告は少ない。一方で腎機能が低下している場合、高タンパク摂取は推奨されない。しかし、今回の文献レビューから、腎機能が低下しているボディビルダーが高用量タンパク質を摂取しているケースが複数報告されていた。
例えば、急性腎障害(AKI)を呈した4人のボディビルダーの総タンパク質摂取量は、3.2~4.2g/kg/日であったという。さらに、重症度の異なる腎機能低下を来している22人のボディビルダーのタンパク質摂取量は、20~30g/kg/日にも及んだとする報告もみられた。
一方、クレアチンサプリメントは、除脂肪筋量と筋力の増加、運動後の回復の促進、怪我の予防など、パフォーマンスを向上させる特性が認められているため、多くのアスリートが使用するようになりつつあり、ボディビルダーも例外でない。7件の研究が、ボディビルダーのクレアチン摂取と腎機能の関連を報告していた。極端なケースでは、210g/日を摂取していたことが報告されており、これは一般的な推奨量の22倍に相当する。
また、クレアチンサプリメントが単独で使用されることはほとんどなく、通常、他のサプリや薬剤と併用されていた。それらの複合的な要素の関連も考慮されるが、ボディビルダーのクレアチン摂取に伴う急性間質性腎炎(AIN)と急性尿細管壊死(ATN)などが報告されている。
全体として、クレアチン摂取がボディビルダーの腎障害リスクを高めるという証拠は決定的ではなく、さらなる研究が必要。
ビタミン
ビタミンは、健康を維持するために必要な多くの生理学的機能をサポートする必須微量栄養素だが、AやDなどのビタミンは体内に蓄積し過剰症を引き起こすことがある。ボディビルダーは、「ADE」と呼ばれることのある脂溶性のビタミンA、D、Eを大量に摂取することがあり、腎機能への影響が懸念される。
6件の研究がボディビルダーのAED摂取による腎機能低下を報告しており、中には急性腎障害(AKI)を呈し、ADE摂取中止後も腎機能が十分に回復せず、慢性腎臓病(CKD)へ移行した症例も報告されていた。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、利尿薬
NSAIDはいわゆる「痛み止め」として比較的簡単に入手可能な薬剤であり、世界中で処方される薬剤の約5%を占めている。アスリートの間では、自己申告による利用者が最大50%に及ぶと報告されている。
NSAIDは筋肉の炎症、痛みを抑制することで、パフォーマンスを改善する可能性があるとされる。しかし高用量のNSAIDは筋力トレーニングの効果を抑制する可能性があり、なにより腎機能低下のリスクを高める。
このほか、一部のボディビルダーは競技前に、審美的評価の向上を目的として、利尿薬を用いることがある。利尿薬の使用は脱水を介して、または直接的に腎機能を悪化させる懸念がある。今回の文献レビューで、3件の研究が利尿薬のそのような悪影響を示唆していた。ボディビルダーのこのような慣行は、とくに暑熱環境では腎機能にリスクをもたらす可能性がある。
文献情報
原題のタイトルは、「Nutritional and Non-Nutritional Strategies in Bodybuilding: Impact on Kidney Function」。〔Int J Environ Res Public Health. 2022 Apr 3;19(7):4288.〕
原文はこちら(MDPI)