水分摂取量を把握するためのアンケートを開発、信頼性は疫学研究に使用可能なレベル
水分摂取量を把握するためのアンケートが開発された。59項目からなり、約5分で回答可能。重水希釈法に比較し過小評価するものの有意な相関が得られ、個人の水分摂取量の把握には適さないが、研究目的で使用可能なレベルの信頼性があるという。
水分摂取量は健康アウトカムと密接な関連があるのに、研究が進んでいない
水の摂取量が少ないことが慢性腎臓病や糖尿病のリスクと関連があり、脱水レベルでは心血管系イベント、尿路感染症、糖尿病の急性合併症などを惹起する可能性が示されている。そのほかにも多くの健康アウトカムに水分摂取量が関係していると考えられる。反対に水分摂取量が多いことは、腎結石や尿路感染症のリスク低下、糖尿病の管理が良好なことなどと関連しているとされる。
しかし、水分摂取量を簡便かつ正確に評価するツールが存在しない。重水希釈法が水分摂取量を把握するゴールドスタンダードとされているが、測定の煩雑さから、多数の対象者に実施することは現実的でない。そのため、水分摂取量が健康に与える影響が十分理解されているとは言い難く、これらの関連性のエビデンスは乏しい。医学的に水分摂取を推奨するには、エビデンスレベルが最低限に限られている。
これまでに、人口ベースの水分摂取量を検討した報告が複数なされているが、それらの結果は大きく異なる。その理由として、調査が行われた土地の気候、文化的背景、身体活動レベルの違いなどが考えられるが、評価方法が確立されていないことの影響も少なくない。
このような背景のもと本論文の著者らは、水分摂取量を把握するための新たなアンケートを開発し、その信頼性を検証した。
アンケートの開発
アンケートの開発のため、米国アーカンソー州北西部から18~65歳の健康な一般住民262人が募集された。妊娠または授乳中、消化管手術(虫垂切除を除く)の既往、研究開始前15日以内の薬物治療、1日4時間以上の運動習慣、研究開始前月の食習慣の変化または2.5kgを上回る体重変化、および英語の理解不能という条件に該当する人を除外した103人を研究対象とした。そのうち5人はデータ欠損が生じたため、最終的に98人の研究データを解析に用いた。
その98人の特徴は、年齢41±14歳、BMI26.4±5.5、体内水分量38.0±8.0L、体内水分量の対BMI比50.5±7.4%。なお、この研究は5~12月に行われ、周辺温度は平均17.2±8.4℃だった。
1週間のウォッシュアウト期間を置いて、前後2週にアンケートを実施
アンケートは、過去1週間以内の水分摂取の頻度と量を定量的に評価する59項目の質問で構成されている。飲料に関しては具体的に17種類に分類され、それぞれの摂取頻度と量を質問。これまでに開発されているアンケートではあまり焦点を当てていない、朝食前、昼食と夕食の間、睡眠中についての質問も加えられている。摂取頻度は、「週に1回以下」から「1日あたり7回以上」までの9つの頻度から選択してもらうというもの。
食品に関しては、4つのカテゴリーに分けられ、その摂取頻度は「週に1回以下」から「1日あたり6回以上」までの8つの頻度から選択してもらう。回答完了時間は約5分で、英語のわかりやすさは中学2年生レベル(flesch-kincaid grade levelが8.4)と判定された。
研究は22日間にわたって行われ、第1週と第3週の終了後の8日目と22日目に、それぞれ前週の水分摂取量に関するアンケートに回答してもらった。第1週と第3週とでアンケートの回答傾向に差が生じる可能性を検討するため、第2週はウォッシュアウト期間として設定された。
アンケートの回答から代謝水も計算し、重水希釈法の結果との相関を検討
アンケートの回答はスプレッドシートに入力され、摂取した飲食物の頻度と量を水分量に換算した。例えば100mLの牛乳は89mLの水と計算した。さらに、食事記録から摂取エネルギー量と各栄養素の%エネルギーを算出。それをもとに代謝水の産生量を決定した。
なお、摂取エネルギー量と消費エネルギー量は等しいと仮定。研究期間中の体重が安定していたことから(1週目の変化が0.05±0.99%、2週目は0.35±1.19%、3週目は0.11±1.22%)、この仮定が満たされていることが確認された。
以上の手法により体内水分量を推計し、重水希釈法での定量結果との関連を検討した。
アンケートからの推算値は重水希釈法より過少評価するが、相関は良好
アンケートから推計された水分摂取量は、1週目が3,132±1,665mL/日、2週目が2,933±1,425mL/日だった。これに対して重水希釈法の定量結果は同順に、3,405±1,331mL/日、3,356±1,234mL/日であり、アンケートからの推算値は重水希釈法での計測値に比較し-350±1,431(95%CI;-551~3,155)mL/日と大きく過小評価することが明らかになった。
ただし、両者には有意な相関が認められた。具体的に、1週目はr=0.856(p<0.01)であり、3週目はr=0.707(p<0.01)であって、1週目と3週目に差はなかった(p=0.115)。アンケートからの推算値の級内相関係数は有意だった(ICC=0.706,95%CI;0.591~0.793,p<0.001)。
これらの結果は、新たに開発された水分摂取量を把握するためのアンケートに、中程度の信頼性があることを示している。
水分摂取と健康アウトカムとの関連の研究に使用可能
以上の結果から著者らは、「新たに開発したアンケートが、人口レベルの水分摂取量を把握するための有用なツールである可能性がある。ただし、重水希釈法との乖離が大きいため、より高い精度が要求される個人レベルの水分摂取量を評価するツールとしては利用されるべきではない」と結論を述べている。また、「このアンケートにより人口レベルの水分摂取量を把握することで、水分摂取と健康アウトカムとの関連の研究を推し進めることが可能となる」としている。
なお、この研究の結果は、19~65歳の対象にのみ適用でき、研究の実施された環境とは異なる地域、気候、文化、活動レベルでこのアンケートを適用可能かは、個々に検討が必要であることが追記されている。
文献情報
原題のタイトルは、「Validity and Reliability of a Water Frequency Questionnaire to Estimate Daily Total Water Intake in Adults」。〔Front Nutr. 2021 Jun 14;8:676697〕
原文はこちら(Frontiers Media)
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