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職場の暑熱対策 米国から発表された労働者を守るためのコンセンサスに基づく推奨

9月に入って秋らしくなり、一般的な環境での熱中症リスクは低下してきた。しかし、季節にかかわらず、常に暑熱環境に注意しなければならない職場がある。そのような環境で働く労働者を守るための米国発のコンセンサスに基づく推奨事項が発表された。さまざまな領域の専門家51名がデルファイ法でまとめたもので、米国地球物理学連合発行の「GeoHealth」に掲載された。

職場の暑熱対策 米国から発表された労働者を守るためのコンセンサスに基づく推奨

8つのトピックス、40項目以上の推奨事項

このコンセンサスは8つのトピックス、40項目以上の推奨事項からなる。8つのトピックスとは、熱環境衛生、水分補給、暑熱馴化、環境モニタリング、生理学的モニタリング、からだの冷却、個人用保護具、緊急行動計画。熱生理学や労働衛生などの専門家や、産業医、現場の安全管理者、政府機関などから51名が参加し、デルファイ法にてコンセンサスが形成された。なお、デルファイ法は、いまだエビデンスが十分でない領域でのガイドライン等を作成する際に、専門家集団の意見と経験を集約してステートメントの候補を作成したうえで、それぞれについて合意と再検討を繰り返し、採否を決定する方法。

論文では30ページ以上にわたり、8つのトピックスに関して、背景と重要性、現時点のエビデンス、不足している情報がまとめられている。それらの中から一部をピックアップして紹介する。なお、掲げられている推奨事項については推奨の強さも検討されているが、ステートメントではすべて「NS」とされ、推奨の強さに関する情報は記載されていない。

熱環境衛生の推奨(6項目から抜粋)

  • 職場健診が行われている場合、医療提供者は健診結果を利用して、暑熱環境への耐性が低下しやすい条件を従業員に対して教育する必要がある
  • 労働者と監督者は勤務を開始する前に、健康状態をチェックする必要がある

暑熱環境への耐性が低下しやすい条件

からだを動かさない生活、1型および2型糖尿病、高血圧、心臓病、自律神経機能障害、腎臓病、悪性高熱症、体温調節や中枢神経系機能またはナトリウムバランスに影響を与える薬、肥満

推奨されるチェックリスト

脱水、睡眠不足、前日からの倦怠感、胃腸の不快感、絶食状態、心理的ストレス、感染症など病気の兆候と症状、発熱、下痢、嘔吐

水分補給の推奨(7項目から抜粋)

  • 雇用主は、脱水症を防ぐために、労働者の水分供給とアクセスのしやすさを優先する必要がある
  • 従業員の水分補給教育には、毎日の水分の必要性、水分補給を最適化する水分の種類、水分補給に影響を与える健康行動、および尿の色、排尿頻度、喉の渇き、体重変化のモニタリングを含む水分補給状態の自己評価に焦点を当てた項目を含める必要がある
  • 高温または湿度の高い状態で2時間以上激しい運動が必要な作業条件では、電解質飲料を摂取する必要がある。それ以外の場合は、冷水が適切

暑熱馴化の推奨(4項目から抜粋)

  • 雇用主や監督者は、熱ストレスの影響を最小限に抑えるために、段階的な暑熱馴化プログラム(5~7日)を作成し実施する必要がある
  • 労働者は、5~7日間にわたって徐々に熱への暴露を増やすことにより、熱に順応する必要がある
  • 雇用主は、暑熱馴化の利点、職場の暑熱馴化プログラム、および暑熱馴化の維持に関して、労働者に毎年トレーニングを行う必要がある

環境モニタリング(5項目から抜粋)

  • 熱ストレス評価のための環境測定では、気温、湿度、風速、および放射熱の影響を考慮する必要がある
  • ポータブル環境センサーを使用する場合、セットアップ、平衡化(周囲条件にあわせた調整)、およびキャリブレーションについて、メーカーの仕様に従う必要がある
  • 雇用主は、環境評価に基づいた仕事の変更(休憩回数の変更など)を、マニュアルに組み込む必要がある

生理学的モニタリング(1項目)

  • 熱関連のリスクがある職業環境では、雇用主は労働者の熱ストレスを定量化するために、心拍数または体温計測装置など、信頼性の高いモニタリングシステムの採用を検討する必要がある

からだの冷却(9項目から抜粋)

  • 作業現場には、必要に応じて、休憩、冷却、および水分補給を行える設備が必要
  • 作業中に防護具を着用し続けなければいけない場合は、冷却製品(冷却ベストなど)を検討する必要がある
  • 作業現場で電力を利用できない場合の冷却戦略には携帯型の冷却モダリティ(水、アイスタオルなど)を考慮する必要がある

緊急行動計画(5項目から抜粋)

  • 各作業現場には、熱ストレスに関連する緊急事態(熱中症など)に対処するための緊急行動計画(emergency action plan;EAP)が必要。さまざまな作業現場の多様なニーズに対応するために、企業内に複数のEAPが必要になる場合がある
  • EAPは、すべてのスタッフと従業員に毎年配布され、かつ、リハーサル、およびレビューされる必要がある

これらの推奨事項について著者は、リスクのスコアリングシステムの採用を含めて今後、更新する必要があり、また、より多くの職業にわたる安全管理者と労働者を対象とした内容にしていく必要があるとしている。

文献情報

原題のタイトルは、「Heat Safety in the Workplace: Modified Delphi Consensus to Establish Strategies and Resources to Protect the US Workers」。〔Geohealth. 2021 Aug 1;5(8):e2021GH000443〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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