世界トップの自転車競技アスリート、高用量・短期間のβ-アラニン摂取でパフォーマンスが改善
β-アラニンを1週間という短期間であっても高用量摂取した場合、パフォーマンスに有意な影響が生じる可能性を示すデータが報告された。ワールドクラスで活躍する自転車競技選手を対象とするプラセボ対照二重盲検試験の結果だ。
高用量を短期間摂取した場合の有用性と有害事象を検討
β-アラニンは、スポーツサプリメントとしてアスリートの間で利用が広がってきている。ただし、β-アラニン摂取によって、かゆみやうずき感などの知覚異常(β-アラニン フラッシュ)が約1時間程度現れることがあると報告されている。これはβ-アラニンを少用量、継続的に摂取することで回避できる。このためβ-アラニンのスポーツパフォーマンスへの影響を検討した研究は、数週間にわたり比較的少用量(多くの研究で1.6~6.4g/日)を摂取するという介入が行われており、高用量を短期間摂取した場合の影響は十分に明らかになっていない。これに対して本研究では、20g/日を1週間摂取するという介入の効果と、知覚異常を含む有害事象の発現率が検討された。
12名を無作為に2群に分け、二重盲検下のタイムトライアルで比較
この研究の対象は、国際自転車競技連合(Union Cycliste Internationale;UCI)の公式サイトに公開されている世界ランキングの、男性ロードレース部門の上位5位に入るチームの所属選手12名。怪我や慢性疾患、食品アレルギーがなく、研究参加前2カ月間にβ-アラニンを摂取しておらず、かつ15日前からは他のスポーツサプリメントを摂取していないことが適格条件とされた。
無作為に6名ずつの2群に分け、1群には徐放性β-アラニンを7日間、1日あたり4回、毎食(朝食、昼食、軽食、夕食)後に摂取することとし、他の1群は外観などからは区別がつかないプラセボを摂取する群とした。
徐放性β-アラニンの用量は1回あたり5g、1日に20gで、L-ヒスチジンとカルノシンも含有していた。また、ベースライン時のテストは軽食後と夕食後、介入後のテスト日は朝食後にも摂取したため、介入期間中の総摂取回数は31回だった。介入による総摂取量は、β-アラニン155g、L-ヒスチジン1.45g、カルノシン96.87mgだった。
被験者全員に栄養士が作成したファクトシートが手渡され、トレーニング量を考慮し食事ガイドラインに基づいて設定された栄養素量を摂取するよう指示された。また介入期間中のトレーニングプランも統一され、GPSを介してトレーニング状況が把握し、コンプライアンスが確認された。
スポーツパフォーマンスは、ワールドツアーで使用される公式ロードバイクモデルを用いたエルゴメーターにより、10分間のトライアルにて評価した。
介入後の10分間トライアルで有意差
被験者の年齢は25.5±0.8歳、身長180.5±1.7cm、体重68.5±1.7kgで、群間に有意差はなかった。また、VO2maxは67.8±1.4mL/kg/分であり有意差はなく、その他、ベースラインテストの結果も、後述のように有意差がなかった。
なお、β-アラニン群に割り付けられていた1名が、海外遠征のため介入後のテスト参加が不能となり、データ解析はβ-アラニン群5名、プラセボ群6名で行われた。
では、タイムトライアルの成績をみていこう。
トレーニング負荷によるパワーの低下がβ-アラニン群で抑制され、介入後に有意差
タイムトライアル中の平均パワーは、プラセボ群ではベースライン時が391.1±12.3Wであるのに対して、1週間のトレーニング負荷により介入後は367.3±9.0Wとなり、有意性は境界値であるものの低下していた(p=0.050)。一方、β-アラニン群では同順に、377.2±13.2W、390.1±9.8Wであり有意な変化はなく、トレーニング負荷によるパワーの低下が認められなかった(p=0.305)。
両群の平均パワーを比較すると、介入前は有意差がなく、介入後にはβ-アラニン群はプラセボ群に比較し6.21%高く、有意差が認められた(p=0.046)。
走行距離にも群間に有意差
介入後には、10分間での走行距離にも有意差が生じていた。
具体的には、プラセボ群ではベースライン時の7,379±84mから、介入後には7,211±61mに低下(p=0.050)したのに対し、β-アラニン群では同順に、7,276±92m、7,367±67mであり有意な変化がなかった(p=0.299)。これらの値に介入前は有意差がなく、介入後にはβ-アラニン群の走行距離がプラセボ群に比較し2.16%長く有意差が認められた(p=0.046)。
仕事量に関しても、パワーや走行距離と同様の結果だった。
知覚異常は報告されず
他方、平均ケイデンス(ペダルの回転数)や自覚的運動強度(rating of perceived exertion;RPE)、平均ペダル力は、介入前、介入後ともに群間差が有意でなく、かつ、両群ともに介入による有意な変化が生じなかった。
高用量のβ-アラニンを急性に摂取した場合の懸念として検討された、知覚異常は1例も報告されなかった。
これらの結果を著者は、「高用量徐放性β-アラニンの1週間の摂取は、タイムトライアルで評価した世界レベルの自転車競技選手の、運動負荷によるパフォーマンス低下の抑制に役立つ」と総括し、「β-アラニンの効果を検討する今後の研究では、高用量・短期間という条件設定も加えるべき」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「One-Week High-Dose β-Alanine Loading Improves World Tour Cyclists’ Time-Trial Performance」。〔Nutrients. 2021 Jul 25;13(8):2543〕
原文はこちら(MDPI)