“投てき選手”の水分補給についての理解度はどのくらい? NCAA所属アスリートを調査
全米大学体育協会(National Collegiate Athletic Association;NCAA)に所属している投てき選手の、水分補給戦略に対する知識、考え方、実際の行動に関する調査が行われ、結果が報告された。調査対象の学生アスリートは全般的に十分と言える程度の知識を有しているにもかかわらず、それを実践していない傾向があるという。
投てき選手対象の調査はこれまで十分行われてこなかった
米国の大学でスポーツに参加する学生の多くは、身体活動中には適切な水分補給が重要であることを認識しているが、情報ソースが限られている一部の学生はその知識が欠如しているとされる。また、脱水がパフォーマンスの低下につながる可能性もあることを知識としてもっていても、適切な水分補給をとっていない学生も多い。
例えば既報によると、脱水状態を判断する方法に関して、明確には理解していないことが多いという。また、個々のアスリートに対する具体的な推奨事項は、体重や発汗量、環境条件、耐性によって異なり、知識だけでなく実践力が必要とされる。とくに陸上競技の中でも投てき選手は、それらの対策がアスリート個人の判断に任されることが多く、正しい知識と実践力が重要。
しかしこれまでNCAA所属の投てきアスリートの水分補給関連知識や行動の実態は詳細に把握されておらず、今回の調査が行われた。
調査対象アスリートの特徴
調査対象はNCAAの3部門(ディビジョンI~III)すべてから募集された。271人のコーチを通じて電子メールで回答協力を呼び掛けた。
適格条件は、陸上競技チームに所属し、そのチーム内で投てきを行っている、18~40歳のアスリート。324名がこの条件を満たし、その平均年齢は20.11±3.29歳。白人が76.5、アフリカ系米国人が10.1%。
この調査が行われるまでに、「栄養学の授業を受けた」という学生が69.2%、「栄養士からの講義を受けた」が37.8%、「アスレティックトレーナーから情報を得た」が71.0%いて、「正式な栄養教育を受けたことはない」が21.0%、「その他の栄養教育を受けた」が10.4%だった。
調査内容
調査項目は79の質問から成り、これは米国スポーツ医学会(American College of Sports Medicine;ACSM)および全米アスレティックトレーナーズ協会(National Athletic Trainers' Association;NATA)による水分補給に関するポジションペーパーに基づいて作成された。ただし、「炭水化物電解質飲料」などの専門用語は「スポーツドリンク」などの平易な言葉に適宜変更された。
全体が5つのセクションに分かれており、最初のセクションは人口統計学的情報を把握するための質問(主な回答結果は前述のとおり)。2番目以降のセクションでは、適切な水分補給の実践に必要な知識、考え方、実際の行動を「はい」「いいえ」や5段階のリッカートスコア(全く同意しない/同意しない/どちらでもない/同意する/強く同意する)で回答してもらうというもの。
これらの内容は、アスレティックトレーナーや登録栄養士を含む専門家パネルによってレビューされ適格性が検証され、内部一貫性が示された。さらに、元陸上競技選手で現在はコーチを務めている20人を対象とするパイロットテストを施行し、有用性を確認した。
頭で理解しても行動が伴わない。知識と実態のギャップが浮き彫りに
知識
では、まず知識に関する質問の結果からみていこう。
水分補給の知識に関する主な質問項目と回答は以下のとおり。数値はパーセント。
態度(考え方)
次に、知識ではなく、回答者本人がどのように考えているか「態度(考え方)」をみてみる。ピックアップした質問は、前記の「知識」で取り上げた質問と同じものとした。数値は、全く同意しない、同意しない、どちらでもない、同意する、強く同意すると回答した学生の割合(パーセント)を表している。
以上のように、知識と態度と間に、やや開きが認められた。例えば、知識としては大半の学生アスリートが「脱水症状はスポーツパフォーマンスを低下させる」と理解しているものの、それに「強く同意する」のは76.6%にとどまった。
行動
では、実際の行動はどうなのだろうか。前の二項目と同じ質問項目をピックアップして回答を紹介する。数値はパーセント。
以上のように、実際の行動は、知識や態度(考え方)からさらに乖離している状況が明らかになった。例えば、練習前後の体重測定は、知識としては63.4%の学生アスリートが必要性を知っており、そうすべきとの回答も過半数だったのに対して、実際に行っているのは1割足らずだった。
そのほか、上記には取り上げなかったが、「練習中には水を飲まない」との回答が6.5%存在した。もちろん、知識としては99.3%の学生アスリートがそれが危険であることを理解していた。
知識、態度(考え方)、行動は相関するものの、相関係数は高くない
知識、態度(考え方)、行動の相関をみると、いずれの間にも有意な相関が確認された。ただし相関係数は、知識と行動は0.70とまずまずであるものの、知識と態度は0.41と高いとは言えず、さらに態度と行動は0.21にとどまった。つまり、水分摂取の必要性を知識としてもっており、そうあるべきだと考えているにもかかわらず、実態が伴っていないケースが少なくないようだ。
文献情報
原題のタイトルは、「Hydration to Maximize Performance And Recovery: Knowledge, Attitudes, and Behaviors Among Collegiate Track and Field Throwers」。〔J Hum Kinet. 2021 Jul 28;79:111-122〕
原文はこちら(Sciendo)
シリーズ「熱中症を防ぐ」
熱中症・水分補給に関する記事
- 日本の蒸し暑さは死亡リスク 世界739都市を対象に湿度・気温と死亡の関連を調査 東京大学
- 重要性を増すアスリートの暑熱対策 チームスタッフ、イベント主催者はアスリート優先の対策を
- 子どもの体水分状態は不足しがち 暑くない季節でも習慣的な水分補給が必要
- すぐに視聴できる見逃し配信がスタート! リポビタンSports Webセミナー「誰もが知っておきたいアイススラリーの基礎知識」
- 微量の汗を正確に連続測定可能、発汗量や速度を視覚化できるウェアラブルパッチを開発 筑波大学
- 【参加者募集】7/23開催リポビタンSports×SNDJセミナー「誰もが知っておきたいアイススラリーの基礎知識」アンバサダー募集も!
- 暑熱環境で長時間にわたる運動時の水分補給戦略 アイソトニック飲料は水よりも有効か?
- 子どもたちが自ら考えて熱中症を予防するためのアニメを制作・公開 早稲田大学・新潟大学
- 真夏の試合期の脱水による認知機能への影響は、夜間安静時には認められず U-18女子サッカー選手での検討
- 2040年には都市圏の熱中症救急搬送社数は今の約2倍になる? 医療体制の整備・熱中症予防の啓発が必要