夏の暑さへの長期的な曝露で認知機能低下リスクが上昇 高齢者約3万4千人を最長12年追跡 北里大学
夏季の暑熱への累積的な曝露が、認知機能低下のリスクを高めることが明らかにされた。また、そのリスクの大きさは、個人の属性によって大きく異なることも示された。北里大学の研究グループが、65歳以上の高齢者約3万4千人を対象に行った、全国規模のコホート研究(一定の集団を継続して追跡・観察する研究)からの知見であり、論文が「Alzheimer's & Dementia: Journal of the Alzheimer's Association」に掲載されるとともに、同大学からプレスリリースが発行された。

研究のポイント
- 夏季(6〜9月)の暑熱への累積的な曝露が、高齢者の認知機能低下リスクを有意に高めること、その中でも特にリスクが高い脆弱群が存在することを全国規模コホート研究(約3万4千人、12年追跡)のデータから示した。
- 暑熱曝露に起因する認知機能低下のリスクは個人の背景要因によって大きく異なり、前期高齢者(65〜74歳)では既存疾患・社会的孤立・生活不活発などの複数領域にわたる複合的な脆弱性がリスクを強く規定していた。一方、後期高齢者(75歳以上)では、加齢に起因する疾患やけが(精神疾患・骨折・排尿障害など)が単独で強い影響力を持つとともに、前期高齢者と同様の既存疾患・社会的孤立・生活不活発などの複合的脆弱性が認知機能低下リスクを高めていることが示された。
- 脆弱性プロファイルは年齢層によって質的に異なり、前期高齢者には多領域同時介入が、後期高齢者には加齢に伴う生理的変化を考慮したアウトリーチ型支援(見守り等)が有効である可能性を示した。本知見は、高齢者の個人属性に応じた暑熱対策を実施する精密公衆衛生アプローチ(精密医療のような個別介入)の政策的根拠となりうる。
図 本研究の概要

研究の背景:暑熱曝露による認知機能低下リスクの個人差に影響する因子は?
地球温暖化の進行に伴い、猛暑日の頻度・強度が増している。高齢者は体温調節機能の低下や慢性疾患の罹患率の高さから、とくに暑熱の影響を受けやすい。近年の研究では、暑熱曝露が熱中症などの急性疾患だけでなく、認知機能低下とも関連し、そのリスクには個人差が存在することが示唆されてきた。しかし、そのリスク構造を体系的に理解するための取り組みは十分に進められていなかった。
研究内容と成果:高齢者3万人以上を最長12年追跡して解析
本研究では、日本老年学的評価研究(JAGES)コホートに参加した65歳以上の高齢者3万3,877人を対象に、2010年から2023年まで最長12年間追跡した。暑熱曝露の指標には、温度だけでなく湿度や日射まで考慮する暑さ指数(wet bulb globe temperature;WBGT〈湿球黒球温度〉)のデータを用い、上記の参加者が居住する小学校区に空間結合することで、暑熱曝露と認知機能低下との関連を検証可能にした。
解析には、因果機械学習法である一般化ランダムフォレスト(GRF)を用い、暑熱曝露と認知機能低下の関連(平均処置効果〈ATE〉)と、その個人差(条件付き平均処置効果〈CATE〉)を推定した。
追跡期間中、25.3%(8,571人)が認知機能低下を発症した。2年間の夏の暑さへの曝露が多い高齢者ほど認知機能低下のリスクが高く、暑さへの曝露が多い群と少ない群を比べると、1,000人あたり年間約12人多く認知機能低下を発症することが示された(95%信頼区間2.54〜21.62)。
さらに、このリスクの個人差は統計的に有意で、前期高齢者(65〜74歳)では既存疾患・社会的孤立・生活不活発などの複数領域にわたる複合的な脆弱性がリスクを強く規定していた。一方、後期高齢者(75歳以上)では、加齢に起因する疾患やけが(精神疾患・骨折・排尿障害など)が単独で強い影響力をもつとともに、前期高齢者と同様の既存疾患・社会的孤立・生活不活発などの複合的脆弱性が認知機能低下リスクを高めていることが示された。
著者らは、「今後は、病気の種類による脆弱性の違いの検証や脆弱性構造の国際比較にも取り組み、精密公衆衛生に基づく介入の基盤構築に貢献する」と述べている。
プレスリリース
長引く猛暑下で認知機能低下リスクが高い脆弱群を解明―猛暑に強い人、弱い人。その差はどこから来るか―(北里大学)
文献情報
原典論文のタイトルは、「Heterogeneous associations of cumulative heat exposure with cognitive decline among older Japanese adults」。〔Alzheimers Dement. 2026 Jul;22(7):e71670〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)
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