熱中症の救急搬送に曜日差 18歳未満は週末・休日の救急搬送が平日の1.8倍 東邦大学
熱中症のために救急搬送される件数の変化は、暑さだけでは説明できないことがわかった。東邦大学の研究グループの成果であり、論文が「Environmental Health and Preventive Medicine」に掲載されるとともに、同大学からプレスリリースが発行された。18歳未満の熱中症による搬送件数は、WBGTの影響を調整後にも、週末や休日が平日より1.8倍多いという。

発表の概要:都内11年間の救急搬送データを用いて曜日による変化を解析
仕事、学校、スポーツ、余暇活動など、曜日や休日による行動の違いが熱中症の発生に影響することは経験的に想定されてきたが、その影響はこれまで十分に定量化されていなかった。東邦大学医学部社会医学講座衛生学分野およびウェルビーイング地域共創講座※1の研究グループは、2015~25年の東京都における熱中症救急搬送データを解析した。
その結果、暑さ指数(wet bulb globe temperature;WBGT)※2の影響を調整しても、救急搬送人員数は平日、週末・休日、休日明けで異なっていた。とくに平日と比べて、65歳以上では休日明けに1.13倍、18歳未満では週末・休日に1.80倍多いことが明らかになった。
暑さの影響を考慮したうえでも、熱中症の発生パターンが平日、週末・休日、休日明けで異なることが、初めて定量的に示された。著者らは、「気象条件に基づく従来の注意喚起に加えて、曜日や休日に伴う行動パターンを考慮した予防啓発や対策が重要」としている。
※1 ウェルビーイング地域共創講座:大田区との協定に基づき、東邦大学医学部に設置された寄付講座。大田区と連携して地域の健康・保健課題に取り組み、区民のウェルビーイング実現に資する活動を行っている。
※2 暑さ指数(wet bulb globe temperature;WBGT):気温だけでなく、湿度や輻射熱などを考慮して暑熱環境を評価する指標。熱中症予防のため暑さの指標として広く用いられている。
研究の背景:曜日によって異なるスポーツ活動などは、熱中症リスクに影響するか?
近年、気候変動に伴い極端な暑さの頻度や強度が増加しており、熱中症は夏季における重要な公衆衛生上の課題となっている。日本においても、気候変動や高齢化などに伴い、今後、熱中症による救急搬送がさらに増加することが予測されている。
熱中症の発生には、気温、湿度、輻射熱などを総合的に評価する暑さ指数(WBGT)が強く関連することが知られている。一方、同じ程度の暑さであっても、人々の行動や活動内容によって熱中症のリスクは異なる可能性がある。
例えば、仕事や学校、スポーツ、余暇活動などは、平日と週末・休日で大きく異なる。また、休日明けには仕事や学校などの日常生活が再開し、行動パターンが変化する。しかし、暑さの影響を調整したうえで、熱中症による救急搬送が平日、週末・休日、休日明けで異なるかを定量的に検討した研究はこれまでなかった。
そこで本研究では、東京都の熱中症による救急搬送データを用いて、WBGTの影響を統計学的に調整したうえで、熱中症による救急搬送人員数が平日、週末・休日、休日明けで異なるかどうかを時系列解析※3により検討した。
※3 時系列解析:時間の経過に沿って並んだデータ(今回は日単位のデータ)を使って、そこから規則性、パターンを抽出する解析方法。
研究方法:当日や前日のWBGTなどを調整して曜日による搬送件数の変化を解析
本研究では、総務省消防庁が公表しているデータを用いて、2015~25年の5~9月に東京都で発生した熱中症による1日ごとの救急搬送人員数を解析した。
曜日等は以下の三つに分類した。
- 平日:休日明けを除く平日
- 週末・休日:土曜日、日曜日および祝日
- 休日明け:土日または祝日の直後の最初の平日(月曜日など)
環境省が公表している東京都(島しょ部を除く)内7地点のWBGTデータを用い、各地点の日最高WBGTのうち最も高い値を東京都の暑熱曝露の指標とした。その日のWBGTカテゴリー、前日のWBGTカテゴリー、さらに暦年で調整した修正ポアソン回帰モデル※4を用いて時系列解析を行い、平日を基準とした週末・休日および休日明けの熱中症救急搬送のリスク比※5を推定した。また、年齢、重症度、発生場所別救急搬送人員数データを用いた解析も同様に行った。なお、このデータにはもともと性別の情報はなかった。
さらに、結果の頑健性を確認するため、7地点の最高値の代わりにWBGTの平均値を用いた解析、WBGTを連続量とした解析、WBGTの代わりに気温を用いた解析、COVID-19流行期を除外した解析など、複数の感度分析を実施した。
※4 修正ポアソン回帰モデル:ある出来事の発生と、さまざまな要因との関連の強さを調べる統計解析手法。本研究では、暑さ(当日・前日のWBGT)と暦年を調整したうえで、曜日や休日による熱中症救急搬送リスクの違いを評価した。暦年の調整は、年ごとの救急搬送人員数の変化を考慮するために行った。
※5 リスク比(risk ratio;RR):ある条件における発生頻度が、基準となる条件と比較して何倍であるかを示す指標。本研究では平日を基準として、週末・休日および休日明けの熱中症による救急搬送人員数を比較した。
主な研究結果:18歳未満では週末・休日の救急搬送が平日の1.8倍
WBGTと暦年の影響を調整した後でも、熱中症による救急搬送の発生状況は、平日、週末・休日、休日明けで異なっていた(図1)。

とくに年齢別では、65歳以上の救急搬送人員数は休日明けに平日の1.13倍(95%信頼区間1.00~1.28)となり、週末・休日には0.87倍(0.79~0.96)に減少していた。一方、18歳未満では週末・休日の救急搬送が平日の1.80倍(1.61~2.03)と大きく増加していた。
重症度別では、週末・休日には軽症例が平日の1.11倍(1.02~1.21)に増加する一方、中等症以上の症例は0.83倍(0.75~0.92)に減少していた。
発生場所別では、週末・休日には公共の屋外空間で平日の1.76倍(1.58~1.97)、教育機関で1.21倍(1.01~1.46)に増加していた。一方、住居では0.88倍(0.79~0.98)、仕事場では0.31倍(0.25~0.37)に減少していた(図2)。

複数の感度分析においても、おおむね同様の結果が得られた。
考察と今後の展望:行動パターンや年齢によるリスク差を考慮した予防対策が必要
本研究により、熱中症による救急搬送の発生パターンが、暑さの程度を調整した後でも、平日、週末・休日、休日明けで異なることが定量的に示された。
65歳以上では、週末・休日の救急搬送が少ない一方、休日明けには増加するという特徴的なパターンがみられた。休日明けの増加には、週末の医療機関へのアクセスが限られることによる受診の遅れに加え、仕事や日常活動の再開に伴う暑熱曝露の増加などが関与していた可能性がある。また、休日を挟むことによる暑熱順化の一時的な低下が、熱中症へのかかりやすさに影響した可能性も考えられる。
一方、18歳未満で週末・休日の救急搬送が増加した背景には、スポーツや屋外活動への参加機会の増加が影響していた可能性がある。ただし、本研究では個人の職業や具体的な活動内容、暑熱順化の状態を把握していないため、これらのメカニズムについては仮説にとどまり、今後さらなる検討が必要。
これまでの熱中症予防では、WBGTなどの気象条件に基づく注意喚起が広く行われてきた。本研究の結果は、こうした取り組みに加えて、曜日や休日に伴う行動パターンや年齢による発生パターンの違いを踏まえ、対象者とタイミングを意識した予防啓発や対策を検討することの重要性を示している。今後、こうした視点を取り入れることで、より効果的な熱中症予防につながることが期待される。
プレスリリース
暑さだけでは説明できない熱中症の発生パターン~ 東京都11年間の救急搬送データから曜日や休日による違いを明らかに ~(東邦大学)
文献情報
原典論文のタイトルは、「Day type and heatstroke-related ambulance transports in Tokyo, Japan: a time-series study」。〔Environ Health Prev Med. 2026:31:51〕
原文はこちら(J-STAGE)
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