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現役時代の怪我や病気の経験は、引退した日本人女性アスリートのボディ・アプリシエーションを介してQOLの低さと間接的に関連

競技から引退した日本人女性アスリートを対象とする横断調査から、現役時代に怪我や病気を経験した人は、経験していない人と比較して、ボディ・アプリシエーション(自分自身の身体を受容し、尊重し、肯定的に捉えること)が低い傾向にあることが示された。また、現役時代の怪我や病気の経験は、ボディ・アプリシエーションを介して、引退後の生活の質(QOL)の低さと間接的に関連していることが示された。順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科の四役ひかり氏、室伏由佳氏、黄田常嘉氏らによる研究の結果であり、「Women's Health」に論文が掲載された。

現役時代の怪我や病気の経験は、引退した日本人女性アスリートのボディ・アプリシエーションを介してQOLの低さと間接的に関連

現役時代の怪我や病気の経験は引退後のQOLとどう関連するのか?

アスリートは時に、怪我や病気によって競技の継続が困難になり、引退を余儀なくされることがある。また、現役時代の怪我や病気の経験は、引退後の身体的・心理的健康やQOLに影響する可能性が指摘されている。しかし、現役時代の怪我や病気の経験と引退後のQOLとの関連については十分に明らかになっておらず、とくに女性アスリートを対象とした研究は限られている。

想定される一つの機序として、「ボディ・アプリシエーション(body appreciation)」の低下を介した経路が挙げられる。ボディ・アプリシエーションは、ポジティブ・ボディイメージを構成する重要な概念の一つであり、「自分自身の身体を受容し、尊重し、感謝すること」を意味する。外見だけでなく、身体の機能や健康状態も含めて肯定的に捉え、社会的に理想とされる外見の基準だけで自己の身体を評価しないという特徴がある。

先行研究では、怪我や病気によってボディ・アプリシエーションが低下する可能性があり、ボディ・アプリシエーションが低ければ、それがQOLの低下につながる可能性がある。ただし、これは仮説であってエビデンスはない。順天堂大学スポーツ健康科学研究科の四役ひかり氏、室伏由佳氏、黄田常嘉氏らは、この関連を検証するため、競技から引退した日本人女性アスリートを対象とする横断調査を実施した。

750人の引退した日本人女性アスリートの回答を分析

この調査は、2025年6~9月にWeb調査として実施された。調査参加の適格条件は、学生、企業所属、またはプロの競技アスリートとしてスポーツ活動を行った経験があり、既に競技から引退している日本人女性であることとした。対象競技は、オリンピック競技、国際オリンピック委員会(IOC)が承認する国際競技連盟の競技、または国民体育大会(現・国民スポーツ大会)の実施競技とした。QOLとの関連を検討するという調査目的から、更年期症状への移行や加齢に伴う健康状態がQOLに影響を及ぼし得ることを考慮し、解析対象を49歳以下とした。回答は匿名で受け付けた。

調査企業のパネル登録者、および競技団体や大学運動部を通じた呼びかけにより、最終的に750名の回答を解析対象とした。なお、事前の統計学的検討から、媒介効果の検出に必要なサンプルサイズは、検出力80%を確保する場合、最低462名と計算されていた。

解析対象者の主な特徴は、年齢33.9 ± 8.16歳(範囲18~49歳)で、現役時代の競技は陸上競技が29.7%と最多であり、バレーボール(9.2%)、テニス(7.9%)と続いていた。競技レベルは、38.8%が地域または都道府県レベル、23.9%が全国大会出場レベル、21.6%が全国大会上位入賞レベル、15.7%が国際レベルだった。

評価項目について

現役時代の怪我や病気

競技アスリートとしての現役時代に、競技の継続や日常生活に影響が生じた怪我や病気の経験の有無(スポーツ活動に直接起因するか否か、引退につながったか否かは問わない)と、経験を有する場合はその内容を自由記述で回答してもらった。怪我や病気の種類は、記載内容に基づき国際疾病分類第10版(ICD-10)に則して分類し、医師の監修のもとで分類を行った。

現在のボディ・アプリシエーション

ボディ・アプリシエーションの評価には、「Body Appreciation Scale-2(BAS-2)」という評価指標を用いた。BAS-2は、「自分の身体を尊重している」「自分の身体を好ましく感じている」などの10項目からなり、それぞれの内容について「まったくない」から「いつも」までの5段階で回答する。10項目の平均得点を算出し、得点が高いほど、ボディ・アプリシエーションが高いと評価する。

現在のQOL

QOLの評価には、世界保健機関(WHO)による評価指標の短縮版「World Health Organization Quality of Life-BREF(WHOQOL-BREF)」を用いた。WHOQOL-BREFは26項目からなる質問票で、身体的領域、心理的領域、社会的関係、環境領域の4領域に加え、全般的なQOLと健康状態に関する2項目から構成される。過去2週間の状態について5段階で回答し、本研究では26項目のQOL総得点、4領域の各得点、および全般的なQOLと健康状態の得点について、それぞれ平均得点を算出した。得点が高いほどQOLが高いと判定する。

現役時代の怪我や病気の経験はボディ・アプリシエーションを介して引退後のQOLと間接的に関連

750人中290人(38.7%)が、現役時代に怪我や病気を経験したと回答した。その内容をICD-10に基づいて分類したところ、「損傷、中毒及びその他の外因の影響」が193件(解析対象者750人に対して25.7%)と最多で、次いで「筋骨格系及び結合組織の疾患」が108件(14.4%)だった。また、「精神及び行動の障害」が37件(4.9%)、「循環器系の疾患」が26件(3.5%)などだった。なお、複数の怪我や病気を報告した回答者がいるため、各分類の件数の合計は、経験者290人とは一致しない。

怪我や病気の経験はボディ・アプリシエーションと負の相関を示す一方、QOLとは有意な相関を示さず

解析ではまず、評価項目同士の相関が検討された。

現役時代の怪我や病気の経験の有無と、現在のボディ・アプリシエーションとの間に、弱いながらも統計学的に有意な負の相関が認められた(r = -0.09、p < .05)。つまり、現役時代に怪我や病気を経験した女性は、経験していない女性と比較して、引退後のボディ・アプリシエーションが低い傾向にあることが示された。

一方、現役時代の怪我や病気は、現在のQOL総得点、4領域の各得点および全般的なQOLと健康状態に関する2項目のいずれにおいても、有意な相関が認められなかった。他方、現在のボディ・アプリシエーションは、現在のQOL総得点、4領域の各得点および全般的なQOLと健康状態に関する2項目と、有意な正の相関が認められた(QOL総得点との相関がr = 0.74で、p値はすべてp < .001未満)。

過去の怪我や病気の経験と現在のQOLはボディ・アプリシエーションを介して関連

次に、現役時代の怪我や病気の経験と現在のQOLの関連、ボディ・アプリシエーションを媒介変数とする媒介分析が行われた。

解析の結果、現役時代の怪我や病気の経験と現在のQOL総得点との間に、有意な直接効果は認められなかった(B = 0.055、p = .063)。なお、QOLの4領域を個別に検討した解析では、心理的領域と社会的関係において有意な正の直接効果が認められた。一方、ボディ・アプリシエーションを介した有意な負の間接効果が、QOL総得点において認められた(B = -0.081、95%信頼区間: -0.145~-0.017)。この間接効果は、QOLの4領域すべて、および全般的なQOLと健康状態についても認められた。具体的には、現役時代の怪我や病気の経験が現在のボディ・アプリシエーションの低さと関連し(B = -0.145、p = .013)、ボディ・アプリシエーションの高さは現在のQOL総得点の高さと関連していた(B = 0.560、p < .001)。

日本人女性アスリートのボディ・アプリシエーションを高めるアプローチの探索

著者らは本研究について、横断研究であり、因果関係を明らかにできないこと、現役時代の怪我や病気の重症度や競技離脱期間などを十分に考慮できていないことなどを限界点として挙げている。そのうえで、現役時代の怪我や病気の経験は、ボディ・アプリシエーションを介して、引退後のQOLと間接的に関連する可能性が示唆されたと結論づけている。

また、論文の考察において、女性アスリートのボディ・アプリシエーションを高めるようなアプローチが、引退後のQOLや心理的健康の向上に寄与する可能性があると述べている。ただし、現役または引退した女性アスリートを対象として、ボディ・アプリシエーションの向上を目的とした介入研究は限られており、今後さらなる研究が必要であるとしている。また、介入の手法によって、身体に関する偏見や否定的な評価を助長し、ボディイメージに悪影響を及ぼす可能性があることも指摘している。さらに、日本人女性では痩身願望や身体への不満が報告されており、こうした社会文化的背景を考慮した研究や介入方法の検討が必要であるとしている。

文献情報

原典論文のタイトルは、「The mediating role of body appreciation between injury/illness history and quality of life among retired Japanese female athletes」。〔Womens Health (Lond). 2026 Jan-Dec:22:17455057261483477〕
原文はこちら(SAGE Publications)

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