暑さによるフルマラソン完走タイムへの影響を抑えるための戦略とは
フルマラソンの完走タイムに関連するさまざまな因子のうち、どのような因子が気温の変化、特に気温上昇による影響を受けやすいかを検討した結果が報告された。国内男性市民ランナーを対象とした研究であり、走力や年齢、BMIが高く、走歴が短いほど、暑熱による記録低下が顕著になるようだ。北海道医療大学リハビリテーション科学部の井上恒志郎氏らが「Physiological Reports」に報告した。

研究背景:地球温暖化により今後は至適環境でのマラソンの機会が減少する
フルマラソンの記録(完走タイム)と関連する因子は、これまで多くの研究で報告されている。例えば、走行距離に代表されるトレーニング指標のほか、年齢や体格、走歴といった個人の特性との関連が示されている。また、気温などの気象条件との関連も報告されており、市民ランナーでは3.0–11.0°Cがマラソンの至適気温とされている。しかし、近年の地球温暖化に伴い、この気温範囲で開催されるマラソン大会は今後減少すると予測されている。こうした背景から、マラソンの記録に関連する因子を明らかにするだけでなく、気温変化を踏まえた検討、特に気温上昇によってそれらの因子と記録との関連がどのように変化するかを検討することが重要である。
この研究では、至適〜酷暑の異なる気温下で開催された国内マラソン大会3大会の参加者を対象に記録関連因子を調査し、それらの因子のうち、記録への影響が気温上昇によって左右され得る因子の探索が行われた。
研究内容と成果:BMIの高さ、走歴の短さなどが、暑熱による顕著な記録低下に関連
2022年および翌23年のつくばマラソン(茨城県つくば市で11月開催)と、2023年の北海道マラソン(北海道札幌市で8月開催)の参加ランナーを対象に、レース前にオンライン調査を行なった。調査では、ゼッケン番号および記録関連因子として年齢、走歴、BMI、走力(マラソン自己ベスト)、月間走行距離・頻度を聴取し、レース後、ゼッケン番号から記録を照合した。
レース時の平均気温が低い順に、2023年つくばマラソンは“至適気温(6.5°C)”、2022年つくばマラソンは“中程度の暑さ(20.6°C)”、2023年北海道マラソンは“酷暑(28.2°C)”の条件で大会が開催された。合計1,938人分のデータについて、階層的重回帰分析を用いて記録と各因子との関連を検討し、さらに気温(大会)と各因子との交互作用※1を検討した。
※1交互作用:複数の因子が組み合わさることで、それぞれの因子の効果を単純に足し合わせただけでは説明できない影響が現れること。本研究では、記録に対するある因子の影響が気温(大会)条件によって異なるか検討が行われた。
大会による記録の違いの約11%は、気温の差異で説明できる?
階層的重回帰分析の結果、気温(大会)条件は走力や年齢、トレーニング状況とは別に、マラソンの記録に関係し、環境条件を踏まえることで、記録の個人差を説明できる割合が約11%高まることが明らかになった。
暑さで記録が落ちやすいランナーの特徴:トレーニング状況よりも走力や個人特性が重要?
記録に対する各要因と気温(大会)との交互作用を検討したところ、走行距離や頻度といったトレーニング指標とは有意な交互作用が認められなかった。一方、走力や年齢、走歴、BMIとは有意な交互作用が確認された。具体的には、暑さによる記録の低下は、走力や年齢、BMIが高く、ランニング経験(走歴)が少ないランナーほど、大きくなる傾向が明らかとなった。
地球温暖化時代のマラソンにおける対策のヒントとなる知見
これらの結果は、暑熱環境によるマラソンパフォーマンスへの影響がランナーの特性によって異なることを示しており、暑熱条件下での記録低下を抑制するためには、個々のランナーの走力や身体的・経験的特性を考慮した対策が重要となる可能性を示唆している。
著者らは、「不可逆的な年齢とは異なり、走力や走歴、BMIは改善、調整が可能な因子であり、暑熱環境下でのマラソンパフォーマンスの低下を抑えるための重要な介入対象となり得る」と指摘している。また、地球温暖化に伴う気温上昇が懸念される今後、これらの知見は、ランナーやコーチがトレーニングやコンディショニングの計画を立てる上で、有益な指針となることが期待される。
文献情報
原典論文のタイトルは、「Temperature-driven modulation of factors influencing full-Marathon time in male recreational runners」。〔Physiol Rep. 2026 Sep;14(17):e71096〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)
シリーズ「熱中症を防ぐ」
熱中症・水分補給に関する記事
- スポーツドリンクは歯の健康に影響するのか? 10代前半のサッカー選手52人の口腔状態を調査
- 視覚障害パラ柔道選手の減量に伴う脱水状態は、計量後に体重が戻っても続く
- 熱中症の救急搬送に曜日差 18歳未満は週末・休日の救急搬送が平日の1.8倍 東邦大学
- 夏の暑さへの長期的な曝露で認知機能低下リスクが上昇 高齢者約3万4千人を最長12年追跡 北里大学
- スポーツドリンクとは? 水分補給以外に疲労抑制、回復促進など、潜在的な可能性の期待と課題
- 熱中症予防でも高血圧患者は塩分の摂りすぎに注意 日本高血圧学会が「熱中症を防ぐ6か条」を発表
- ゴルファーの熱中症対策は個別化が必要 競技レベルによって労作性熱疲労の関連因子が異なる
- アスリートの水分補給は、パフォーマンス向上だけでなく、引退後の健康にとっても重要
- 令和7年の熱中症による職場での死傷(休業4日以上と死亡)が4割増で過去最多、死亡者は減少 厚労省調査
- WBGT上昇でサッカー選手の総走行距離もスピードも低下 猛暑のFIFAクラブW杯で判明した暑熱ストレスの影響








熱中症予防情報
SNDJユニフォーム注文受付中!

