大気汚染がマラソンの記録低下と関連 その影響はエリート選手より市民ランナーで大きい?
マラソン大会当日の大気汚染レベルと参加選手の記録との関連を解析した結果が報告された。気象条件を調整しても、汚染レベルが高いほど記録が低いという有意な関連があり、若年ランナーではより強く影響を受けているという。

6大大会×15年間、計75大会、270万人のデータを用いて検討
大気汚染が運動中の呼吸機能の妨げとなることは知られているが、持久力にどの程度影響が生じるのかは明確でない。今回紹介する論文の著者らは、東京マラソンを含む世界6大マラソン大会の完走者、約270万人のデータを用いてこの点を検討した。
解析対象ランナーの記録
ベルリン、ボストン、シカゴ、ニューヨーク、ロンドン、東京という世界6大マラソン大会の公式webサイトから、2010~2024年の計75大会の記録を入手した。完走者は合計275万7,348人で女性37.8%、フィニッシュタイムは中央値259分(四分位範囲224~301)だった。
大気汚染および気象データ
大気環境データを提供している公的サービス(Copernicus Atmosphere Monitoring Service;CAMS)から、当日の大会開催地の二酸化窒素(NO2)と微小粒子状物質(PM2.5)のレベルを把握した。75大会の平均は、NO2が7.5μg/m3(四分位範囲5.2~11.1)、PM2.5が10.4μg/m3(同6.2~17.8)だった。
また、気象データ提供サービス(Open-Meteo)から、当日の大会開催地の気温、相対湿度、風速を把握した。75大会の平均は、気温12.3±4.3℃、相対湿度66.0±12.0%、風速17.1±10.5m/秒(風速の単位は論文のまま。ただしOpen-Meteoの単位はkm/時)。これらのデータからHeat Indexを算出した。
大気汚染のレベルが高い日に開催された大会では記録が伸び悩む
大気汚染レベルとフィニッシュタイムとの関連の解析に際しては、Heat Index、風速、およびフィニッシュタイムの経年的変化の傾向を調整した。年齢の情報を入手し得た181万5,188人については、年齢で層別化した解析を行った。
二酸化窒素(NO2)レベルが高いと記録が有意に低下する
二酸化窒素(NO2)レベルはフィニッシュタイムの延長と有意に関連していた。1μg/m3高いごとに、男性では1.43分(95%CI;0.66~2.21)遅くなり、女性では1.56分(同0.63~2.48)遅くなっていた。
また、二酸化窒素(NO2)レベルが解析対象全体の25パーセンタイルの大会と、75パーセンタイルの大会の参加者のフィニッシュタイムを比較すると、男性では7.3分(3.41~1.3)の差があり、女性では7.9分(3.2~12.7)の差があった。
一方、微小粒子状物質(PM2.5)と記録との関連は、性別を問わず非有意だった。
より若年のランナーでは、より大きな影響を受ける
NO2レベルとフィニッシュタイムとの関連をランナーの年齢で層別化して解析すると、より若年層でより大きな負の影響を受けていることが示された。
例えば、男性では60歳以上の場合、NO2レベルが1μg/m3高いごとに1.32分(0.36~2.27)遅くなるのに対して、18~29歳では2.17分(0.58~3.84)遅くなっていた。同様に女性では、60歳以上の場合1.32分(0.22~2.43)遅くなるのに対して、18~29歳では2.48分(1.00~4.07)遅くなっていた。
競技レベルの高いアスリートは、影響が少ない
ランナーの競技レベルで層別化した解析からは、高いレベルのランナーでは大気汚染の影響が少ないことが示された。
具体的には、NO2レベルが1μg/m3高いごとに、エリートレベルでは0.34分(0.03~0.65)延長、サブエリートでは0.80分(0.29~1.30)延長、上位集団では1.31分(0.57~2.06)延長、中位集団では1.83分(0.83~2.82)延長、レクリエーションレベルでは2.12分(0.96~3.29)延長、後方集団では2.23分(0.91~3.54)延長していた。
一般的な都市の大気汚染よりも低いレベルであるにもかかわらず影響が生じている
以上の結果に基づき著者らは、「大気汚染、とくに二酸化窒素(NO2)は濃度依存的にマラソンパフォーマンスの低下と関連しており、その影響はレクリエーションランナーにおいて最も大きい。これらの知見は、都市環境における屋外での身体活動に関するイベントの運営や公衆衛生政策に重要な意味を持つ」と結論を述べている。
また、「特筆すべきこと」として、本研究の解析対象としたマラソン大会当日のNO2レベルは前述のように中央値7.5μg/m3であり、これは一般的な都市の平均濃度に比較し低いということを指摘。この背景として大会当日の交通規制などの影響が考えられるとともに、一般的な大気汚染よりも低いレベルであっても、パフォーマンスを低下させ得るという点は注目に値すると強調している。
なお、レクリエーションランナーや若年のランナーが大気汚染により大きな影響を受けるという結果については、以下のような考察が記されている。
競技レベルの異質性
レクリエーションランナーが大気汚染の感受性が高い理由として、フィニッシュタイムが長いためにコース上に長くとどまることになり、その分、大気汚染の曝露量が増えるというメカニズムが考えられるという。一方、エリートレベルは高度なトレーニングの結果として、呼吸などの生理的予備能力が高いと考えられるとしている。
年齢層の異質性
若年ランナーで大気汚染の感受性が高い理由として、若年者は競技歴が相対的に短いために、競技レベルが高くないランナーが多く含まれることが、上述のメカニズムを介して記録低下につながり得るという。一方、高齢のランナー、とくに60歳以上のランナーは、競技歴が長いことだけでなく、おそらく同世代の人に比較し極めて健康な状態であると考えられるとしている。
ただし、これらのメカニズムは「いずれも推測の域を出ない」と付け加えられている。
文献情報
原典論文のタイトルは、「Air Pollution Impairs Marathon Performance: A Cross-Sectional Analysis of 2.7 Million Finishers Across Six World Marathon Majors」。〔Sports Med Open. 2026 Aug 29;12(1):128〕
原文はこちら(Springer Nature)








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