アスリートへの栄養教育は何のため? 介入研究のアウトカムと有効性を系統的レビューで検討
アスリートに対する栄養教育は、どのような評価が設定され、どのくらい効果をあげているのだろうか? この疑問の答えをシステマティックレビューにより探った研究結果が、「BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation」に掲載された。日本大学スポーツ科学部の辰田和佳子氏らによるもの。意外なことに、これまでの研究の多くが、栄養教育の本質的な最終目標を評価指標として設定していないという。

栄養教育の目的にそって介入を行い、効果を評価する必要性
スポーツのパフォーマンスの維持・向上や怪我のリスク抑制、回復の促進には、適切な栄養素摂取が欠かせない。そのため、アスリートに対して、スポーツ栄養学に基づく栄養教育が行われてきている。
一方、栄養教育のより本質的な目的は、対象者に食行動の変容を起こさせ、健康状態と栄養状態の改善を図るものであり、それが最終的に個人のQOL改善につながることが期待される。この点は対象がアスリートであっても同様であり、健康状態と栄養状態の改善が、競技活動の継続とレベル向上につながると考えられる。
アスリートに対する栄養教育の効果をシステマティックレビューで検討した研究は、既に複数報告されている。ただしそれらの研究は主に、スポーツ栄養に関する知識の豊かさや態度の変化といった、いわば中間目標に焦点を当てており、健康・栄養状態の改善、それによるQOL向上といった最終的な目標への影響が十分検討されていない傾向にある。
以上を背景として辰田氏らは、アスリートへの栄養教育がどのような目的で実施され、どのようなアウトカム指標が設定されているのか、その有効性はどのように報告されているのかを探るシステマティックレビューを実施した。
7種類の文献データベースを用いて2003年以降の報告を検索
システマティックレビューとメタ解析のための優先レポート項目(PRISMA)ガイドラインに準拠して、PubMed、Web of Science、SPORTDiscus、Cochrane Libraryなど7種類の文献データベースに、2003年4月~2023年3月に収載された報告を対象とする検索を行い、2025年3月に追加の報告の有無を確認した。なお、2003年以降とした理由は、このころから国際オリンピック委員会(IOC)によりスポーツ栄養ガイドラインが策定されるなど、スポーツ栄養学の研究が盛んになったため。
包括基準は、12歳以上のアスリートを対象に栄養教育を行いその有効性を検討した無作為化比較試験、非無作為化比較試験、および介入前後研究であり、査読システムのあるジャーナルに英語で発表されている論文とした。栄養教育の手段(個人/集団対象、対面/リモート、講義/カウンセリングなどの違い)や介入期間の制限はしなかった。特定の食事スタイルや食品・サプリメントの摂取を義務付ける介入が行われていた場合、比較する両条件に同様に義務付けたうえで教育効果の差異を検討するというデザインであれば適格とし、そうでなければ除外した。
介入対象アスリートの競技・種目、競技レベルに関する制限は設けなかった。
特定された24件の研究の主な特徴
初回の検索と追加を確認する検索で計3,194報がヒットし、重複削除後の2,932報を2名の研究者がタイトルと要約に基づくスクリーニングにより74報に絞り込み、全文精査の対象とした。採否の意見の不一致は3人目の研究者との討議により解決した。
23報が適格と判断されたが、そのうち1報は撤回されたため除外。抽出された論文に記載されている参照文献のハンドサーチにより2報を追加し、最終的に24件の研究報告を解析対象として特定した。
24件中8件は北米、7件は欧州で実施され、その他、アジア、オセアニアや南米で実施されていた。研究参加者数は7~153人の範囲で計845人(男性39%、女性49%、12%は記載なし)であり、16件は単一の競技、8件は複数の競技のアスリートが参加していた。パラアスリート対象研究は1件だった。
アスリートへの栄養教育研究の実績と浮かび上がった課題
評価されていたアウトカム
24件の研究のすべてで、体重および/または体脂肪量や除脂肪量などの体組成への介入効果が評価されていた。
一方、より本質的と言える客観的な健康関連アウトカムはあまり評価されていなかった。具体的には、生化学的指標として、尿比重への影響が3件、血液マーカーで評価した貧血への影響が3件で報告されているのみだった。また、アスリート自身が感じる健康状態を捉える主観的指標も限られており、摂食障害リスクのほか、well-being、ストレス・不安などを評価した研究が少数認められたにとどまった。
それに対して、栄養に関する知識や食行動など、中間的と位置づけられるアウトカムは、12件の研究で評価されていた。
栄養教育介入の目的と有効性
各研究が何を目的として栄養教育を行ったのかに着目すると、体重や体組成の改善、脱水の予防、脂質プロファイルの改善、摂食障害や利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)のリスク抑制などを目的としていた。その他、知識・態度・自己効力感といった行動変容の前段階に生じる変化も、介入目的として設定されていた。ただし、介入目的を明確に記述していない研究も複数認められた。
全体として、24件中15件は、介入の目的と栄養教育の内容の整合性が確認された。それらのうち、健康状態の改善を明確な目的として定義していた研究は8件だった。
介入による効果については、脱水予防を目的とした3件の研究は、すべて良好な結果を報告していた。体重の増加や体組成の改善を目的とした4件の研究では、2件が改善を報告していた。その他、摂食障害のリスク低減を目的とした1件の研究も、改善を報告していた。
最終的なアウトカムを念頭に入れた栄養教育の実施と評価指標の設定が必要
これらの分析に基づき著者らは、「本システマティックレビューにより、アスリートを対象とした栄養教育研究においては、健康状態を評価する研究が依然として限られていることが明らかになった」と総括。また、「栄養教育介入は、知識、食行動、自己効力感といった中間的なアウトカムに対しては有効である可能性があるが、身体計測値・体組成や生化学的指標などのアウトカムに対する有効性については、依然として結論が出ていない」と述べている。
他方、「介入の目的や教育内容、アウトカム指標が適切に整合している研究からは、アウトカムの改善が報告される傾向がみられた」として、「これらの知見は、栄養教育介入の有効性を適切に評価するためには、介入目的に合致したアウトカム指標の選定や、中間的アウトカムから最終的アウトカムに至る段階的な評価が不可欠であることを示唆している」と結論づけている。また、今回のレビューでは、アスリート自身が感じる健康状態を捉える主観的指標が限られていることも明らかになった。
文献情報
原典論文のタイトルは、「Outcome indicators and effectiveness of nutrition education for athletes: a systematic review」。〔BMC Sports Sci Med Rehabil. 2026 Jul 21〕
原文はこちら(Springer Nature)








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