フリーダイビング選手の低酸素イベントのリスクに食習慣は関連するか スペインの横断研究
フリーダイビングでは長時間の息止めがパフォーマンスを左右するが、息止めが長時間であるほど低酸素状態によるブラックアウトなどの発生リスクが高まる。そのリスクに、ふだんの食生活は関係があるのだろうか? その疑問を横断研究で検討した結果を紹介する。

これまで短期間の栄養介入は研究されているが、日常の食習慣との関連は不明
フリーダイビングには、フィンやウエイトの仕様の有無などが異なるいくつの種目があるが、できるだけ長時間、呼吸を停止することが求められるという点は、すべての種目で共通している。長時間の息止めに伴い、身体は低酸素ストレスにさらされ、意識が保たれていても身体の運動を制御できなくなるLMC(loss of motor control)や、意識を消失するBO(blackout)という低酸素イベントを来し得る。
LMCやBOの発生メカニズムは完全には解明されていないが、それらのリスクを抑制する可能性のある栄養戦略として、競技前の絶食と硝酸塩の利用が検討されることがある。前者については、絶食により熱産生が低下し安静時代謝が抑制され、無呼吸でいられる時間が延長する可能性があるとされる。後者については硝酸塩により一酸化窒素(NO)活性が高まり、血管拡張作用により末梢への酸素供給が増大する可能性があるとされる。対照的に、炭水化物摂取量が多いとエネルギー基質として利用される過程での酸素消費が増え、無呼吸でいられる時間を短縮するのではないかと考えられている。
これらは競技前の短期間の栄養戦略の可能性を示す理論であって、少数ながら検証も試みられている。しかし、ダイバーのふだんの食事パターンが、低酸素イベントのリスクと関連しているのかという視点の研究はなされていない。
今回紹介する論文の研究では、以上を背景として、ダイバーの日常の食生活と、自己申告に基づく低酸素イベントの経験との関連の有無が検討された。
フリータイバーの3割が過去に低酸素イベントを経験
研究参加の適格基準は、スペインの公式ライセンスをもつ競技フリーダイバーとして、クラブを通じて募集された71人が参加した。
主な特徴を性別にみると、男性は52人、年齢41.9±8.6歳、BMI 24.2±3.1、静的無呼吸(static apnea;STA)の自己ベストは325.1±93.9秒で、競技歴は1年未満が11.5%、1~4年28.8%、4~10年36.5%、10年以上23.1%。女性は19人、年齢39.4±9.3歳、BMI 21.7±2.2、STAの自己ベスト285.4±71.7秒で、競技歴は1年未満が57.9%、1~4年21.1%、4~10年21.1%、10年以上は該当者なし。
ふだんの食習慣は、スペインで精度検証済みの自記式の半定量式食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire;FFQ)で把握した。低酸素イベントの経験は、前記のLMCとBOの経験の有無を質問し、自己申告に基づき判定した。なお、両方を経験している場合は、より深刻な状態となったケースを解析に用いた。
研究参加ダイバーのふだんの食生活は一般的なスタイル
FFQで評価した研究参加ダイバーのふだんの食生活は、偏りの少ない一般的なスタイルだった。全体として、果物、野菜、タンパク質が豊富な食品の摂取量が多く、超加工食品やアルコールの摂取量は少なかった。性別で比較した場合、男性ダイバーはタンパク質が豊富な食品の摂取量が多かった(p=0.010)。
刺激性飲料の摂取頻度については、男性の38.5%が低頻度、42.3%が中頻度、19.2%が高頻度、女性の26.3%が低頻度、52.6%が中頻度、21.1%が高頻度であった。
競技歴と刺激性飲料の摂取頻度が低酸素イベントに関連
過去に1回以上、低酸素イベントを経験したことがあるダイバーは、21人(29.6%)だった。内訳は、LMCが2人、BOが19人だった。低酸素イベントの発生は、競技歴(p=0.003)、および、刺激飲料の摂取(p=0.013)と関連していた。
競技歴1年未満の選手17人に、低酸素イベントを経験した選手はいなかった。競技歴1~4年の選手19人のうち2人がLMC、3人がBOを経験していた。競技歴5~10年の選手23人のうち11人がBOを経験していた。競技歴10年以上の選手12人のうち5人がBOを経験していた。
年齢、性別、および競技歴で調整した二項ロジスティック回帰調整モデルでは、競技歴は低酸素イベントと有意に関連していた(オッズ比〈OR〉3.06〈95%CI;1.43~6.53〉、p=0.004)。また、刺激飲料の摂取頻度が中頻度であることが関連因子として示された(OR 12.54〈1.27~123.9〉、p=0.031)。
刺激飲料の摂取頻度との関連は慎重な解釈が必要
著者らは、結果を以下のように総括している。
「本研究では、競技フリーダイビングにおける低酸素イベントのリスクは、競技歴に関連していた。これは、累積的なトレーニング負荷、および、より負荷の高い無呼吸への挑戦を反映していると考えられる。一方、食習慣についてはその評価手法上の限界はあるものの、全体的には独立した役割を果たしていないようであった。ただし、刺激性飲料の摂取は潜在的な調節因子として作用する可能性がある。とはいえこの関連は非線形(高頻度の摂取では関連がない)であり慎重な解釈が必要とされる」。
結論は、「これらの結果を総合すると、競技フリーダイビングにおける低酸素関連リスクを評価する際には、トレーニング関連の曝露と、状況に応じた行動因子の両方を考慮することが重要と考えられる」とされている。
文献情報
原典論文のタイトルは、「Dietary habits and self-reported hypoxic events in competitive freedivers: an observational study」。〔Front Nutr. 2026 Jul 7:13:1849515〕
原文はこちら(Frontiers Media)








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