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妊娠前・妊娠中に魚を多く食べる女性は妊娠高血圧症候群が少ない可能性 国内約9万人を調査 富山大学

妊娠前および妊娠中の魚の摂取量が多いと妊娠高血圧症候群の発症が少ないという関連性が報告された。「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」のデータを用いた解析の結果であり、群馬大学、富山大学の研究グループによる論文が「European Journal of Nutrition」に掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。

妊娠前・妊娠中に魚を多く食べる女性は妊娠高血圧症候群が少ない可能性 国内約9万人を調査 富山大学

発表のポイント

群馬大学および富山大学の研究グループは、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)※1」のデータを用いて、妊娠前および妊娠中の魚の摂取量と妊娠高血圧症候群※2の発症との関連を調べた。その結果、魚の摂取量が多いと妊娠高血圧症候群の発症が低いことが明らかになった。

魚にはEPAやDHAとして知られている栄養素「n-3系多価不飽和脂肪酸※3」が豊富に含まれている。これまで、EPAやDHAは炎症を抑える作用があることから、妊娠期に魚を摂取すると、妊娠高血圧症候群の発症を抑制するという報告が国外ではあったが、国内での研究がなかった。今回の研究結果は、約9万人の日本人の妊婦を代表するような集団を対象とした、精度の高い結果。

※1 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査):胎児期から小児期にかけての化学物質曝露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査。臍帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしている。エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省とともに各関係機関が協働して実施している。
※2 妊娠高血圧症候群:妊娠高血圧症候群とは、妊娠中に血圧が上昇する病気。一般的な高血圧とは起こるメカニズムが異なり、胎児の胎盤と母体の子宮との間で、血流のやり取りがうまくいかないことが原因とされている。基本的な治療は降圧薬の投与だが、病気が進行すると胎児の低酸素状態や、母体の肝臓や神経にダメージを起こすことがある。このため、妊娠高血圧症候群は妊娠中の母児の死亡原因の一つと言われている。また長期的には、妊娠高血圧症候群を発症した母親はその後の心筋梗塞などのリスクが高いことも指摘されている。したがって、妊娠高血圧症候群を予防することは、女性が健康で長い生涯を送るうえでも重要な課題と言える。
※3 n-3系多価不飽和脂肪酸:DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などで知られる、魚由来の代表的な脂肪酸(ω3系多価不飽和脂肪酸とも呼ばれる)。血液をサラサラにする成分と表現されることもある。またn-3系多価不飽和脂肪酸は、脳や神経にとって大事なものであり、子どもの発育に必要と言われている。

研究結果:魚の摂取量が多い日本人でも母親の魚摂取が保護的に働く可能性

魚にはEPAやDHAとして知られるn-3系多価不飽和脂肪酸という脂肪酸が豊富に含まれている。n-3系多価不飽和脂肪酸は、炎症を抑制する効果がある栄養素であり、近年注目されている。n-3系多価不飽和脂肪酸は生活習慣病の発症を抑える報告も多数あるが、妊娠中も非常に重要な栄養素。

これまで、妊娠中に魚を摂取すると妊娠中に血圧が高くなる妊娠高血圧症候群に対して好影響があることが、いくつかの研究から報告されてきた。しかし、魚摂取の多い日本人における研究がないのが現状。

そこで今回、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に参加する約10万人から有効なデータが得られた約9万人の母親の妊娠前と妊娠中の魚の摂取量と、妊娠高血圧症候群の発症を調査した。解析は、魚の摂取量で「少ない」、「やや少ない」、「中程度」、「やや多い」、「多い」の5群に群分けし、「少ない」グループと比較してほかのグループの妊娠高血圧症候群の発症を検討した。

妊娠高血圧症候群は、日本妊娠高血圧学会の定義に則り、妊娠20週以降に収縮期血圧が140mmHg、あるいは拡張期血圧が90mmHg以上に上昇する妊婦とした。さらに32週未満に発症した症例を早発型妊娠高血圧症候群、以降のものを遅発型妊娠高血圧症候群と定義した。

その結果、妊娠前の魚摂取が多い妊婦は早発型妊娠高血圧症候群の発症が少なく、妊娠中の魚摂取が多い妊婦は遅発型妊娠高血圧症候群の発症が少ないことがわかった。

妊娠前の魚摂取と早発型妊娠高血圧症候群の発症

妊娠前の魚摂取量が「多い」グループでは、初産群で早発型妊娠高血圧症候群発症のオッズ比※4が低下し、トレンド検定※5でも有意な関連が認められた。

※4 オッズ比:オッズとは、ある現象の起こりやすさを、ある現象が起こる回数(人数)÷ある現象が起こらない回数(人数)として表した値であり、オッズ比とは、この値の比のこと。本研究では、魚を食べる量が「少ない」グループのオッズを基準(1)とすると、ほかのグループでは「妊娠高血圧症候群」の発症しやすさが「何倍(いくつ)」になるかを示すために使っている。各グループのグラフ上に示された値(=オッズ比)が、1より大きいと起こりやすい、1より小さいと起こりにくいと言える。
※5 トレンド検定:本研究で観察された結果が、直線的にだんだん大きく、またはだんだん小さくなるというトレンド(傾向)にあるかどうかを、統計的に調べる方法。本研究ではトレンド検定により算出された値(p)が0.05未満であると、魚を食べる量が多いグループに向かってオッズ比が直線的に下がっている傾向があると言える。

図1-1 妊娠中の魚摂取と遅発型妊娠高血圧症候群の発症

妊娠中の魚摂取と遅発型妊娠高血圧症候群の発症

妊娠前の魚摂取量が「多い」グループでは、初産群で早発型妊娠高血圧症候群発症のオッズ比が低下し、トレンド検定でも有意な関連が認められた。
※:統計的有意差あり(p<0.05)。
グラフに示した解析は、以下の14の因子で補正した結果。母親の年齢、妊娠前のBMI、教育歴、世帯収入、婚姻状況、アルコール摂取状況、喫煙状況、身体活動強度、就労の有無、妊娠中のEPA・DHAサプリ使用の有無、不妊治療の有無、妊娠糖尿病発症の有無、妊娠高血圧症候群既往の有無、魚摂取以外のダイエットパターン。
(出典:富山大学)

図1-2 妊娠中の魚摂取と遅発型妊娠高血圧症候群の発症

妊娠中の魚摂取と遅発型妊娠高血圧症候群の発症

妊娠中の魚摂取量が「多い」グループでは、初産群で遅発型妊娠高血圧症候群発症のオッズ比の低下が認められた。
※:統計的有意差あり(p<0.05)。
グラフに示した解析は、以下の14の因子で補正した結果。母親の年齢、妊娠前のBMI、教育歴、世帯収入、婚姻状況、アルコール摂取状況、喫煙状況、身体活動強度、就労の有無、妊娠中のEPA・DHAサプリ使用の有無、不妊治療の有無、妊娠糖尿病発症の有無、妊娠高血圧症候群既往の有無、魚摂取以外のダイエットパターン。
(出典:富山大学)

また、魚に多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸およびリノール酸やアラキドン酸のようなn-6系多価不飽和脂肪酸に着目した解析も行った。n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量が多い場合、初産と経産婦を併せた解析で早発型妊娠高血圧症候群発症のオッズ比の低下が認められた。

今回の結果より、妊娠前の魚摂取は早発型妊娠高血圧症候群の発症を抑える方向に関連しており、妊娠中の魚摂取は遅発型妊娠高血圧症候群の発症を抑える方向に関連していることがわかった。その要因としては多価不飽和脂肪酸の関与が考えられた。

魚摂取が諸外国と比較して多いと言われてきた本邦でも、若年女性の間で魚摂取の低下が指摘されている。今回の結果をふまえ、健康な妊娠経過のためには、妊娠前からの魚摂取はこれまでと同様に推奨されるといえる。

しかし今回の研究は、自分が回答する質問票を用いた観察研究であり、妊婦の食事を第三者がコントロールするような試験は行っていない。そのため本当に良い影響があるかを明らかにするためには、今後魚の摂取量をコントロールするような別の研究を行う必要がある。したがって、魚あるいはn-3系多価不飽和脂肪酸を摂っているからといって、妊娠高血圧症候群になりにくいと結論づけることはできない。

また魚の種類によっては、水銀や残留性有機化合物を体内に多く蓄積するものもある。詳しくは厚生労働省のリーフレット「これからママになるあなたへ お魚について知っておいてほしいこと」を参照のこと。

プレスリリース

魚を多く食べる人は妊娠高血圧症候群が少ない?(エコチル調査より)(富山大学)

文献情報

原典論文のタイトルは、「Association of the maternal fish and PUFA intake with the risk of hypertensive disorders of pregnancy: a nationwide birth cohort—The Japan Environment and Children’s Study」。〔Eur J Nutr. 2026 Sep 8;65(7):249〕
原文はこちら(Springer Nature)

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