食後高血糖を抑える「食べる順番」に新知見 脂質・GLP-1・迷走神経の働きを解明 秋田大学
オリーブ油などの脂質をブドウ糖より先に投与すると、マウスでは胃から腸への内容物の移動が遅くなり、糖負荷後早期の血糖上昇が抑えられることが明らかになった。秋田大学などの研究グループの成果であり、論文が米国糖尿病学会のジャーナル「Diabetes」に掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。著者らは、「実践しやすく持続可能な食事療法として注目される『食べる順番』が、食後血糖に影響する仕組みを理解するうえで重要な知見」としている。

研究の概要:1型糖尿病モデルマウスでも糖負荷後早期の血糖上昇
食事では、「何を食べるか」だけでなく、「どのような順番で食べるか」も食後血糖に影響する。京都大学、関西電力医学研究所、岐阜大学、藤田医科大学、秋田大学、京都府立大学、岐阜薬科大学、名古屋大学、トロント大学、アデレード大学からなる共同研究グループは、オリーブ油などの脂質をブドウ糖より先に投与すると、マウスでは胃から腸への内容物の移動(胃排出※1)が遅くなり、糖負荷後早期の血糖上昇が抑えられることを明らかにした。
この効果には、グルカゴン※2とGLP-1※3のシグナルが互いに補い合って働くことに加え、迷走神経※4が関与することが示された。また、2型ダイアベティス(糖尿病)モデルマウスと、インスリン分泌が著しく低下したモデルマウスでも同様の効果が認められた。本研究成果は、実践しやすく持続可能な食事療法として注目される「食べる順番」が、食後血糖に影響する仕組みを理解するうえで重要な知見。
※1 胃排出:摂取した食物や液体が胃から十二指腸へ送り出される過程。その速度は、食後血糖を左右する重要な因子。
※2 グルカゴン:主に膵島のα細胞から分泌され、肝臓での糖産生を高めるホルモン。薬理学的に投与した場合には、胃排出を遅らせる作用も知られている。
※3 GLP-1:食事に含まれる栄養素に応じて、主に消化管のL細胞から分泌されるホルモン。GIP※5とともにインクレチンと総称され、血糖値に応じたインスリン分泌を促すほか、胃排出を遅らせ、食欲を抑える作用などをもつ。
※4 迷走神経:脳と胸部・腹部の臓器をつなぐ主要な副交感神経。胃腸運動、栄養の感知、内分泌応答の調節に関与する。
※5 GIP:食事に含まれる栄養素に応じて、主に消化管のK細胞から分泌されるホルモン。GLP-1とともにインクレチンと総称され、血糖値に応じたインスリン分泌を促す。GLP-1とは異なり、胃排出を遅らせる作用は示されていない。
研究背景:脂質を先に摂取することによる血糖上昇抑制のメカニズムを探る
食後高血糖は、糖尿病における重要な治療標的。これまで、野菜、たんぱく質、脂質を炭水化物より先に摂取する「食べる順番」の工夫によって、胃から腸への食物の移動(胃排出)が緩やかになり、食後血糖の上昇が抑えられることが示されてきた。しかし、脂質を先に摂取したときに、どのような仕組みで胃排出が遅くなり、血糖上昇が抑制されるのかは、十分に明らかになっていなかった。
研究方法:オリーブオイルをブドウ糖投与の前または後に投与して比較
糖尿病のない絶食後のマウスを用い、以下の3条件で経口ブドウ糖負荷試験を行い、血糖値、インスリン、グルカゴン、GIP、GLP-1および胃排出を評価した(図1)。
- 水を投与し、15分後にブドウ糖を投与(コントロール)
- オリーブ油(5mL/kg)を投与し、15分後にブドウ糖を投与(前負荷)
- ブドウ糖を投与し、15分後にオリーブ油を投与(後負荷)
図1

さらに、ストレプトゾシン※6投与によってインスリン分泌を著しく低下させたモデルマウス(STZマウス)、2型糖尿病のモデルマウス(NSYマウス)、グルカゴンやGLP-1などのプログルカゴン由来ペプチドを産生できない遺伝子改変マウス(Gcg欠損マウス)、GLP-1受容体を産生できない遺伝子改変マウス(Glp1r欠損マウス)を用いて検討した。
また、グルカゴン受容体中和抗体およびGLP-1受容体拮抗薬〔exendin(9-39)〕による薬理学的遮断や、両側横隔膜下迷走神経結紮(VNL:vagus nerve ligation)を組み合わせ、作用機序を解析した。胃排出は、アセトアミノフェンが血中に現れる速さを指標として評価した。
※6 ストレプトゾシン:膵島のβ細胞に取り込まれ、β細胞を障害する薬剤。実験動物のインスリン分泌を著しく低下させ、糖尿病の病態を再現する目的で用いられる。
研究成果:脂質を先に摂ると内分泌・神経ネットワークが働き食後血糖が調節される
1. オリーブ油を先に投与すると胃排出が遅くなり、早期の血糖上昇が抑制される
オリーブ油前負荷では、コントロールおよび後負荷と比べ、ブドウ糖投与15分後と30分後の血糖値ならびに0~60分の血糖曲線下面積(AUC)が低下し、胃排出も遅くなった。一方、0~120分の血糖AUCには差がなく、主として食後早期の急峻な血糖上昇を緩やかにする効果であることが示された(図2)。
図2

2. グルカゴン、GIP、GLP-1の分泌が早期に増加する
オリーブ油前負荷により、ブドウ糖負荷後早期のグルカゴン、GIP、GLP-1の分泌応答が増強した(図3)。
図3

3. グルカゴンとGLP-1は部分的に補い合って作用する
グルカゴンとGLP-1をともに産生できないGcg欠損マウスでは、オリーブ油前負荷による血糖上昇抑制効果と胃排出遅延が認められなくなった。一方、GLP-1受容体欠損や、グルカゴン受容体またはGLP-1受容体のいずれか一方のみを遮断した場合には、効果はおおむね保たれた。これに対し、グルカゴン受容体とGLP-1受容体を同時に遮断すると、血糖上昇抑制効果は弱まり、胃排出遅延は検出されなくなった。
これらの結果は、グルカゴンとGLP-1の両経路が部分的に補い合って作用することを示唆している(図4、5)。
図4

図5

4. 迷走神経がホルモン応答と胃運動をつなぐ可能性
迷走神経結紮後もグルカゴンとGLP-1の分泌応答は保たれ、むしろ増強する場合もあったが、オリーブ油前負荷による血糖上昇抑制効果は弱まり、胃排出遅延は検出されなくなった。この結果から、迷走神経がホルモンのシグナルを胃運動の変化へつなぐ可能性が示された(図6)。
図6

5. 糖尿病(糖尿病)のモデルマウスでも効果を確認
2型糖尿病のモデルであるNSYマウスと、ストレプトゾシン投与によってインスリン分泌を著しく低下させたSTZマウスでも、オリーブ油前負荷による早期の血糖上昇抑制と胃排出遅延が認められた(図7)。
図7

6. オリーブ油に加え、アマニ油とラードでも早期の血糖上昇が抑制される
オリーブ油と同様に、アマニ油とラードの前負荷によって、早期の血糖上昇抑制と胃排出遅延が認められた。ココナッツ油の前負荷でも胃排出が遅くなり、早期の血糖上昇が抑制される傾向がみられた(図8)。
図8

本研究の意義と今後の展開:ヒトでの検証に期待
本研究は、脂質を糖質より先に摂ることで、互いに補い合うグルカゴンとGLP-1のシグナル、および迷走神経を含む内分泌・神経ネットワークが働き、胃排出と食後血糖が調節される可能性を示した。実践しやすく持続可能な食事療法として注目される「食べる順番」の作用機序に、新たな生理学的根拠を与える成果。
ただし、本研究はマウスに脂質とブドウ糖を投与した実験であり、通常の食事を摂るヒトでも同じ仕組みや効果が認められるかについては、今後の検証が必要。著者らは、「現在、脂質に加えて、たんぱく質の前投与がグルカゴンやGLP-1の分泌、胃排出、血糖上昇、摂餌量に及ぼす影響を検討している。さらに、脂質やたんぱく質の前投与がインクレチン分泌を増強する仕組みを解明し、より効果的な『食べる順番』の提案と、糖尿病や肥満症の発症・重症化予防に資する創薬基盤の構築を目指す」としている。
プレスリリース
「食べる順番」が食後血糖を左右する仕組みを解明 脂質を糖質より先に摂ると、食後の血糖上昇が緩やかに ― グルカゴン・GLP-1・迷走神経が連携する胃排出調節機構をマウスで解明 ―(秋田大学)
文献情報
原典論文のタイトルは、「Olive Oil Before Oral Glucose Delays Gastric Emptying and Lowers Glycemia Through Partially Redundant Glucagon and GLP-1 Signaling in Mice」。〔Diabetes. 2026 Oct 8:db260531〕
原文はこちら(American Diabetes Association)







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