女性中長距離ランナーは月経の有無にかかわらず、トレーニングでの走行距離と非運動性熱産生が負の相関を示す
国内の女子ランナーを対象とする二重標識水法を用いた詳細な検討から、無月経かそうでないかにかかわらず、ふだんのトレーニングでの走行距離が長いほど非運動性熱産生が低いことが明らかになった。筑波大学体育系のグループによる研究の結果であり、「Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports」に論文が掲載された。著者らはこの関連が、運動によるエネルギー消費量の増大に対する代償的適応なのか、それとも相対的なエネルギー不足の初期兆候なのかを検討する、今後の研究の必要性を指摘している。

制限的総エネルギー消費量モデルはアスリートにも当てはまるか?
一般的に、運動量が多いほど総エネルギー消費量(total energy expenditure;TEE)は増大すると考えられる。しかし、運動で使うエネルギーが増えても、安静時や日常生活などで使うエネルギーを減らすことで、一日に使う総エネルギー消費量が一定範囲に抑えられるという、「制限的総エネルギー消費量モデル」が提唱されている。これは、TEEを構成する運動によるエネルギー消費量(exercise energy expenditure;EEE)以外の要素、つまり、安静時代謝(resting metabolic rate;RMR)や睡眠時代謝(sleeping metabolic rate;SMR)、非運動性熱産生(non-exercise activity thermogenesis;NEAT)などが代償的に抑制されるという考え方である。
持久系競技のアスリートは、日常的に多量のトレーニングを行ううえ、体重を戦略的にコントロールすることでパフォーマンス向上を狙うことが少なくない。そのため、著者らは、持久系アスリートにも制限的総エネルギー消費量モデルで説明される代謝の変化が生じている可能性があると考えた。
一方、女性の持久系アスリートでは、負のエネルギーバランスの影響で月経異常が生じ得る。いくつかの先行研究から、無月経の女性ランナーは月経のあるランナーに比べて、RMRが低いことが示されているが、それを否定する研究もある。この不一致はRMRの測定方法によるものの可能性があり、ヒューマンカロリメータを用いた同グループの研究成果では2群間に有意差がなかった(Uchizawa, iScience, 2025)。とはいえ、RMR以外のTEE構成要素が、月経の有無で異なるのかは明らかでなく、またTEE測定のゴールドスタンダードである二重標識水法を用いた研究はほとんど報告されていない。
これらを背景として著者らは、女性中長距離ランナーの月経の有無によりTEEの構成要素(SMR、RMR、NEAT、EEE)が異なるか、および、それらが日常のトレーニングに伴う走行距離と関係しているかを検討した。
無月経群10人、非無月経群10人のエネルギー消費量を自由生活下で測定
この研究には、大学の陸上部に所属する20人の女性が参加した。過去3カ月間月経なし、および過去12カ月間の月経が3回以下と報告した10人を「無月経群」とし、これに該当しない10人を「非無月経群」とした。2群間で、年齢、BMI、除脂肪量、体脂肪率、身体活動レベル、食事によるエネルギー摂取量から運動によるエネルギー消費量を差し引いたEnergy Availability(kcal/kg除脂肪量/日)に有意差はなかった。
全員が中長距離(800~5,000m)のランナーであり、競技歴91.9±26.4カ月で、トレーニング頻度は週5日以上だった。なお、喫煙歴や代謝疾患を有するランナーは含まれない。
TEEと身体組成は、自由生活下での二重標識水法により測定した。RMRとSMRは、ヒューマンカロリメータを用いて計測した。NEATは加速度計とトレーニング記録を基に算出し、EEEはTEEからそれらを減じて算出した。
走行距離が長いほど生理機能に費やすエネルギーが低かった
すべての評価指標が月経の有無で有意差なし
まず、無月経群と非無月経群のTEE、および、TEEの構成要素である、RMR、SMR、覚醒のエネルギー消費量(arousal EE)、NEAT、EEEを比較した。その結果、いずれも、群間に有意差は認められなかった。
走行距離はEEEと相関する一方、TEEとは相関しなかった
月経の有無で各TEE構成要素に有意差が認められなかったことから、参加者全員を対象として、1週間の総走行距離と、TEEおよびTEEの各構成要素との相関を検討した。なお、1週間の総走行距離は無月経群が72.7±30.7km、非無月経群は58.1±18.6kmであり、有意差はなかった(p=0.217)。
1週間の総走行距離は、EEEと正相関(r=0.739、p<0.001)を示した一方で、TEEとは有意な相関を示さなかった(p=0.188)。対して、RMR(r=-0.557、p=0.011)、SMR(r=-0.489、p=0.029)、NEAT(r=-0.604、p=0.005)は、走行距離が長いほど低値を示す負の相関がみられた。なお、除脂肪量と脂肪量で調整すると、RMRおよびSMRと走行距離との関連は弱くなったが、そのほかの相関は調整後も有意だった。
サンプルサイズの制約から無月経と非月経群を個別に検証することはできないものの、走行距離と各エネルギー消費量との関連は両群で同様の傾向が見られており、月経の有無とは関係しないかもしれない。
代償的なエネルギー代謝適応は月経の有無にかかわらず生じる可能性
著者らは本研究が横断研究であることから「因果関係の考察は制限される」としつつ、以上の結果を「女性ランナーにおいて、TEEの構成要素がトレーニング量と関連していた。月経の有無によるTEEとその構成要素の差は認められなかった。しかし、全体として走行距離が長いほどEEEが高く、NEAT、RMRおよびSMRが低値を示す代償的なエネルギー代謝適応が生じていることが示唆された。これらの知見は「制限的総エネルギー消費量モデル」で説明される現象と一致しており、慢性的な持久力トレーニングに伴い、TEEの構成要素の再配分が生じている可能性がある」と総括している。
また、「これらの関連性について月経の有無による違いを検討するには、本研究の検出力が不足していた。女性アスリートに観察されたエネルギー代謝適応が、エネルギー出納上の有益な変化なのか、それともエネルギー不足の初期兆候であるのかを判断するために、今後の縦断研究が求められる」とまとめている。
文献情報
原典論文のタイトルは、「Running Distance Is Associated With Components of Total Energy Expenditure in Amenorrhoeic and Non-Amenorrhoeic Endurance Runners」。〔Scand J Med Sci Sports. 2026 Sep;36(9):e70362〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)
筑波大学プレスリリース
女性ランナーは走行距離に応じてエネルギー消費の配分を無意識に調整する







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