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水分摂取による低ナトリウム血症・水中毒の系統的レビュー、その12%は運動に伴う摂取で発生

成人の経口水分摂取に関連して発生した低ナトリウム血症に関するシステマティックレビューが報告された。過剰な水摂取の原因の多くは心因性多飲症だが、基礎疾患がある場合を除けば、運動に伴う多飲が最多の原因だという。オーストラリアの研究者によるシステマティックレビューの結果報告。

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日本からの報告18報を含む177報からの知見

過剰な水分摂取による水中毒はまれに重篤となることがある。溶質を含んでいない液体を1時間あたり0.8~1.0L摂取したときに、低浸透圧性低ナトリウム血症のリスクが生じるとの報告がある。低ナトリウム血症に伴い、頭痛、嘔気などのほか、重症度に応じて意識障害、脳浮腫、それにともなう痙攣、および死亡に至ることがある。

スポーツ関連では、脱水の予防や補正のため、基本的に水分摂取が推奨されている。しかし、長時間の持久系スポーツの最中や終了後に、適切な電解質を含まない水を大量に摂取した場合に低ナトリウム血症のリスクが上昇する。

一方、一般集団での水中毒の発生率は不明だが、オーストラリア国軍では2001~16年に10万年人あたり6.9例発生したと報告されており、また精神科入院患者では5%(3.3~5.8)との報告がみられる。ただし国軍では、教育プログラムの実施によって水中毒の発生率は過去10年で23.3%低下している。

1946~2019年に発表された論文を対象とするシステマティックレビュー

本研究は、過剰な水分摂取に関連する低ナトリウム血症の臨床的特徴と臨床転帰をシステマティックレビューにより考察したもの。システマティックレビューとメタ解析に関する優先報告項目(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-analyses;PRISMA)に準拠し、以下の要領で実施された。

文献検索に用いたデータベースは、MEDLINE、EMBASE、Cochrane Libraryで、最も古いものはMEDLINEに1946年に公開された論文から、新しいのものでは2019年8月13日に公開された論文を対象とした。

適格基準は、18歳以上のヒトを対象とした研究であり、英語で執筆された、水中毒の症例報告、観察コホート研究、またはランダム化比較試験。除外基準は、総説、18歳未満または動物を対象とした研究、非経口の投与経路(例えば、静脈内投与)、または非水誘発性の低ナトリウム血症(例えば、抗利尿ホルモン症候群)、血清ナトリウム値のないもの、水以外の飲料(ソフトドリンクなど)による研究、およびそれらと通常の水との組み合わせての研究報告、英語以外の論文。

検索でヒットした2,970報から、重複の削除後、タイトルと抄録のスクリーニングにより310報に絞り込み、全文精査を行い、最終的に177報を抽出した。

抽出された177報の特徴

抽出された177報には、233の個別の症例報告を含む590人の患者データが含まれていた。その他、後ろ向きコホート研究が10件、前向きコホート研究が5件、症例対照研究3件、横断研究1件などが存在した。米国からの報告が最多で37.3%であり、次いで日本が10.2%を占めた。米国と日本以外では、英国9.6%、イスラエルとオーストラリアが各5.1%など。

患者の年齢と性別が示されている研究の平均年齢は46±16歳、生別は(平均±SD)、女性47%、男性53%だった。

過剰な水分摂取の理由の12%はエクササイズ

水分過剰摂取による低ナトリウム血症を来した症例233例の主な背景と、血清ナトリウムレベルは以下のとおり。

基礎疾患

患者の過半数(52%)は基礎疾患として精神障害を有していた。主に、統合失調症スペクトラム障害であり、その他に双極性障害、認知機能障害、不安・人格・抑うつ障害、神経性食欲不振などが存在した。

その他に、15%の患者は過剰な水分摂取につながる慢性疾患・症状、例えば尿路感染症、口渇、慢性吃逆(しゃっくり)などを有していた。他方、31%の患者は、水分過剰摂取につながるような健康状態に該当しなかった。

なお、喫煙に関しては、大半(91.4%)の研究報告はデータを示していなかった。

服用している薬剤

服用中の薬剤については31%の研究はデータを示していなかった。また、23%の患者は常用している薬剤はなかった。41%の患者は低ナトリウム血症を助長する可能性のある薬剤を常用していた。その大部分は、抗精神病薬(68%)であり、その他に利尿薬(13%)、抗うつ薬(5%)などがあった。

水分摂取量が過剰になる理由

過剰な水分摂取の理由の過半数(55%)は、主として統合失調症スペクトラム障害に関連する心因性多飲症だった。次に多い理由は、医原性多飲症が13%を占めた。具体的には、超音波検査のために水分摂取が推奨された場合に生じていた。

過剰な水分摂取の理由の3番目は、運動に関するもので12%を占めていた。その他、7%は習慣性多飲症、2%は複数の理由の重複だった。他の11%には、尿路感染症、胃腸炎、気道感染症などの自己療法目的、薬物乱用者が尿中薬物検査を陰性にする意図での摂取などが含まれていた。

運動による過剰な水分摂取での低ナトリウム血症は軽症が多い

低ナトリウム血症の重症度別に過剰な水分摂取の理由をみると、重症(125mmol/L未満)の低ナトリウム血症の59%は心因性多飲症が占めていた。心因性多飲症は絶対数が多いため、中等症(125~129mmol/L)でも33.3%を占め、やはり原因として第一位だった。

その一方で、軽症(130~134mmol/L)の低ナトリウム血症の場合は、その原因の半数(50%)を運動に伴う水分摂取で占めており、心因性(40%)を抑えて原因のトップだった。ただし、中等症低ナトリウム血症の29.6%、重症の8%も、運動に伴う水分摂取によるものが占めており、エクササイズ関連低ナトリウム血症がすべて軽症で済むというわけではなかった。

転帰は13%が死亡

このほか、本研究からは、水分摂取量は中央値で8.0L/日であること、臨床症状として、めまい、悪心、嗜眠、意識障害、錯乱、嘔吐、呼吸困難、興奮、振戦、けいれん、昏睡などが報告されていた。

転帰は、9%の報告では記されていなかった。転帰が示されていた報告ではその78%が回復していたが、13%は死亡していた。死亡症例の死因は、低ナトリウム血症に関連する合併症(例えば、脳および肺水腫など)が49%、その他の基礎疾患等(癌、肺炎、自殺など)が41%で、10%は不明とされていた。

医学的な理由がない場合の水中毒には、運動の関与が大きい

著者らは、本研究の解釈に際しては、抽出された研究の多くが症例報告であり、研究の質が低く、バイアスリスクが高い点に留意が必要であると述べている。

そのうえで、身体疾患または精神障害や医学的理由のない人では、運動に伴う水分摂取が水中毒の原因として最多であることに焦点を当てている。ロンドンマラソンの参加者の12.5%が無症候性低ナトリウム血症を呈していたとの報告があるほか、ハワイやニュージーランドのトライアスロンでのその発生率はそれぞれ27%、18%と報告されているという。

そして、ウルトラマラソンのような長距離走イベントに参加する場合の、長時間の発汗と運動による過度のナトリウム損失、低レベルの電解質溶液を含む液体の積極的な摂取、水分の習慣的な摂取などがリスク因子となる可能性に言及している。

文献情報

原題のタイトルは、「Implementing the 2020–2025 Dietary Guidelines for Americans: Recommendations for a path forward」。〔BMJ Open. 2021 Dec 9;11(12):e046539〕
原文はこちら(BMJ Publishing)

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