糖尿病アスリートのケアに関するステートメント、米国スポーツ医学会議(AMSSM)が公表
米国スポーツ医学会議(American Medical Society for Sports Medicine;AMSSM)から、糖尿病アスリートのケアに関するステートメントが発表された。糖尿病患者がスポーツを行うメリットとデメリット、運動前のスクリーニング、血糖値への運動の影響などの従来から研究されているテーマのブラッシュアップだけでなく、ケトジェニックダイエットとトレーニング、マスターアスリート、アスリートにおける糖尿病有病率などの新しい情報も盛り込まれている。栄養関連のパートを中心としつつ、全体から比較的最近のトピックを抜粋して紹介する。
アスリートの糖尿病有病率
米国の19歳以下の糖尿病患者数は19万2,000人で、このうち1型が16万7,000人、2型が2万人、その他が5,000人と推定されている。一方、40歳未満の一般集団の1型糖尿病有病率は、1,000人あたり3.4(95%CI;2.7~4.3)であり、18~64歳の1,370万人が糖尿病を患っており、その90%が2型糖尿病と推定されている。
19歳以下の1型糖尿病有病率は、1,000人あたり3.22(同3.11~3.34)、2型糖尿病有病率は0.46(0.43~0.49)。これに対して大学生アスリートの糖尿病有病率は1,000人あたり3.42というデータが報告されている。
これらのデータから、若年アスリートにおける1型糖尿病の有病率は、一般人口と同等と考えられる。
栄養の実践とパフォーマンス
アスリート個人の目標は、時に血糖管理よりも重要であることがある。しかしそれは、糖尿病の合併症を予防するという医師の目指すものと、直接的に相反する。また、炭水化物の摂取制限や低GI食品の利用は、血糖管理とスポーツパフォーマンスに影響を与える可能性がある。
グリセミックインデックス(GI)と糖尿病
低グリセミックインデックス(Glycemic Index;GI)の有用性については議論の余地が残されているものの、高GI食に比較してHbA1cが0.43%低下するというメタ解析の結果が報告されている。糖尿病のあるアスリートのケアに際しては、糖尿病治療における低GI食品の潜在的メリットを考慮すべき。
ケトジェニックダイエットとトレーニング
ケトジェニックダイエットは、炭水化物摂取量が非常に少量であることを特徴とする。その結果、「生理学的ケトーシス」の状態が惹起される。生理学的ケトーシスでは血中pHを変化させることなく、ケトン体レベルを一定程度上昇させ得る。この点で、ケトン体レベルが高値となり、血中pHが低値となる「糖尿病性ケトアシドーシス」とは異なる状態と言える。
生理学的ケトーシスの状態では、脂質代謝や酸化が亢進すると考えられ、その状態に適応後のアスリートには、高強度の好気性運動(例えばウルトラマラソンなど)のパフォーマンスを後押しする可能性がある。
また、インスリン抵抗性と2型糖尿病を管理するためのケトーシスの利用が検討されており、初期の研究からは、体重減少効果や血糖降下薬の必要性が低下することが示されている。一部の1型糖尿病アスリートは、運動誘発性低血糖を予防する目的で、脂質利用を強化する戦略を試みている。
安全でない減量の慣行
アスレティックトレーナーと医師は、アスリートが安全でない食習慣を実践していないか、または有効性が確立していない、もしくは有害の可能性がある栄養補助食品を使用してないかを確認することで、アスリートの潜在的な栄養上の問題を認識する必要がある。
体重階級制のある競技(ウェイトリフティングやレスリング、ボクシングなどの格闘技に多い)に参加するインスリン治療中のアスリートでは、インスリン投与の差し控えが行われやすい。インスリン投与を控えることにより体重が低下し、試合前の計量をパスしやすくなる。しかしこれは、高血糖や糖尿病性ケトアシドーシスのリスクにつながる。
運動時の血糖目標
アスリートとアスレティックトレーナー、およびチームドクターは、アスリートが運動を控えるべき血糖値を事前に決定し合意しておく必要がある。
運動前に30分間隔で2~3回採血することが推奨される。血糖値が90mg/dLを超えていれば運動を開始でき、100~250mg/dLの範囲であれば一般的に安全と言える。250mg/dLを超えると、浸透圧利尿が顕著になり、脱水やケトーシスのリスクが高まる。
糖尿病治療薬と運動
治療薬と運動の関係について、論文中ではほぼすべてのタイプの血糖降下薬について言及しているが、ここでは比較的新しいSGLT2阻害薬についてのみ、その記述を紹介する。SGLT2阻害薬は、インスリンまたはスルホニル尿素薬と併用した場合には低血糖リスクが高まる可能性があるが、単独で使用した場合はそうでない。一般的に安全であり、運動のための用量調節は必要ない。
高地トレーニング
標高の高い場所では、血糖恒常性という点では拮抗ホルモンの分泌が変化しやすくなる可能性に留意が必要。また、高地であることから誘発される食欲不振や消費エネルギー消費の増加も、血糖変動リスクとなる。
さらに、血糖モニタリングのための機器(Continuous Glucose Monitoring〈CGM〉等)は、高高度や低温環境では正確に機能しなくなる可能性があることもあり、入念な準備が求められる。
マスターアスリート
平均年齢60歳のマスターアスリートは、20代半ばのアスリートと同様の血糖値とインスリンレベルを示すと報告されている。また、持久力トレーニングを行っているアスリートは、加齢に伴うミトコンドリア機能の低下が認められないという。ただし、マスターアスリートには、運動中および運動後の血糖値をより詳細にモニタリングすることを推奨する。また、緊急事態が発生した場合のケアのために、医療アラートIDを着用することも薦められる。栄養素需要は加齢とともに変化し、一般に若いアスリートよりも少なくなる。
論文では、これらのほかに、合併症がある場合の運動、学生アスリートの場合など、さまざまなトピックを取り上げ、現在の推奨を述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「American Medical Society for Sports Medicine Position Statement on the Care of the Athlete and Athletic Person With Diabetes」。〔Clin J Sport Med. 2022 Jan 1;32(1):8-20〕
原文はこちら(Wolters Kluwer Health)