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長距離ランナーの食習慣を男性と女性で比較検討 NURMI研究ステップ2の解析結果

男性長距離ランナーと女性長距離ランナーとで、食習慣を比較した研究結果が昨年報告されている。全体として男性ランナーよりも女性ランナーのほうが健康的といえる食生活を送っているとみられるという。「栄養とランニングハイマイレージ(Nutrition and Running High Mileage;NURMI)研究」のステップ2のデータを用いた解析結果として報告された。

長距離ランナーの食習慣を男性と女性で比較検討 NURMI研究ステップ2の解析結果

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長距離ランナーの食習慣の性差の実態は?

かつて生理学領域の研究対象が男性中心であったことの反省にたち、今日では実施されている大半の研究で性差が考慮されている。これまでの持久系スポーツ領域での性差に関するエビデンスとして、女性は男性よりも月経が関与して赤血球とヘモグロビンのレベルが低いことが多いために、酸素運搬能力が低く、この点は持久力パフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性があることが指摘されている。また疾患との関連では、女性は甲状腺疾患が多く、アスリートの場合それは易疲労性を介してパフォーマンスの制限につながる。反対に男性は心血管疾患が好発することが広く認識されており、また、薬物使用、つまりドーピングリスクが高く、そのこともスポーツ活動に関連する有害事象のリスクを高めている懸念が指摘されている。それに対して一般人口において、女性は男性に比較し健康的な生活を送っていることが多いとされる。

一般人口における身体的、生理学的、栄養学的な性差については十分明らかになっているが、持久系アスリートの食事摂取量については、必ずしも豊富な知見があるわけではなく、いまだ男性中心の研究結果が多くを占めている。そこで本論文の著者らは「栄養とランニングハイマイレージ(NURMI)研究」ステップ2のデータを用いて、長距離ランナーの食習慣の性差を検討した。なお、「NURMI研究」は、持久力と食事の関連についてさまざまなエビデンスを収集する目的の研究であり、おもにドイツ、オーストリア、スイスの研究者が中心になり行われている。

200人強の長距離ランナーを対象とする横断調査

研究対象者は、主として前記3カ国から、ソーシャルメディア、マラソンイベント主催者のウェブサイト、ランナー対象雑誌などを用いて募集され、2022年5月10日までにオンラインアンケートの回答を求められた。適格基準は、過去2年以内にハーフマラソン以上の距離のランニングイベントに参加して完走したことのある18歳以上のランナーであること。

317人が回答し、このうち106人は、摂取炭水化物エネルギー比が50%未満であり健康的な食事のための推奨を満たしていないこと、または回答に不自然な内容があったこと、およびBMIが30以上などの理由で除外され、211人(女性121人、男性90人)が解析対象として残された。なお、食習慣については、ドイツ人成人向けに開発された食物摂取頻度調査(food frequency questionnaire;FFQ)を用いて把握した。

女性長距離ランナーのほうが食習慣が健康的

解析対象ランナーは中央値38歳(四分位範囲〈IQR〉18)で、参加種目と食事スタイルは以下のとおりだった。

女性は10km以下が55人、ハーフマラソンが46人、マラソン/ウルトラマラソンが20人で、雑食が44人、ベジタリアンが26人、ビーガンが51人。男性は10km以下が19人、ハーフマラソンが37人、マラソン/ウルトラマラソンが34人で、雑食が51人、ベジタリアンが14人、ビーガンが25人。なお、ウルトラマラソンの距離は、最短が50km、最長が160kmだった。

性別で比較すると、男性のほうが高齢で(中央値37〈IQR15〉vs 42歳〈IQR17〉,p=0.023)、BMIは男性のほうが高値であり(20.94〈IQR3.05〉vs 22.91〈IQR2.86〉,p<0.001)、学歴や婚姻状況に有意差はなかった。レース距離は女性のほうが短く、前述のように10kmとハーフマラソンは女性が多く、マラソンとウルトラマラソンは男性が多かった。

女性ランナーは菜食主義が有意に多い

食事スタイルについては、ベジタリアンやビーガンは女性に多く、男性は雑食が多いという有意差があった(p=0.013)。食事スタイルを遵守している理由について尋ねると、「健康と幸福」が85%と多く挙げられた。

食物摂取頻度調査(FFQ)で把握された食品群17のクラスターのうち、以下の11項目に性別間の有意差が認められた。

女性ランナーの摂取量が有意に高い食品群

男性と比較して女性のランナーは、豆と種子(p=0.008)、果物と野菜(p<0.001)、乳製品の代替品(p=0.012)、および水(p=0.002)という四つの食品クラスターの摂取量が多かった。

男性ランナーの摂取量が有意に高い食品群

反対に、女性と比較して男性のランナーは、穀物(p<0.001)、肉(p<0.001)、魚(p=0.033)、卵(p=0.041)、油(p=0.033)、アルコール(p<0.001)、加工食品(p=0.001)の摂取量が多かった。

乳製品(p=0.159)、代替肉(p=0.488)、スナック(p=0.086)、飲料(p=0.350)、タンパク質(p=0.599)、および遊離糖/添加糖(p=0.212)の摂取量は有意差がなかった。

また、穀物(精製・全粒穀物とも)、肉(未加工・加工肉とも)、動物性タンパク質、加工食品などは男性と女性の摂取量の差が5%以上あり男性のほうが多く、果物と野菜、水と無糖の茶は5%以上の差で女性のほうが多かった。

以上を総括して、論文の結論には、「女性と男性の長距離ランナーの食事摂取量に、顕著な違いがあることが示され、女性ランナーはより健康的な食品を摂取している傾向が認められた。この結果は、持久系アスリートの食事選択における性差に関する新たな知見であり、スポーツ栄養士やコーチによる、よりパーソナライズされたアスリートへの推奨の根拠として活用できる」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Female Endurance Runners Have a Healthier Diet than Males—Results from the NURMI Study (Step 2)」。〔Nutrients. 2022 Jun 22;14(13):2590〕
原文はこちら(MDPI)

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