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ラケットスポーツのエルゴジェニックエイド 系統的レビューからのエビデンス

エリートアスリートは非エリートアスリートに比較し、エルゴジェニックエイド(スポーツパフォーマンスの向上を目的とした栄養補助食品)の利用率が高いことが報告されている。エルゴジェニックエイドの効果を一般的運動適性の点から検討した報告も少なくないが、アスリートの関心は、自分が行っている競技種目において、それを摂取することでどの程度スキル向上が見込まれ、競技成績アップにつながる可能性があるのかという点であろう。この観点から、本研究の著者らは、ラケットスポーツに限定し、エルゴジェニックエイドの効果に関する報告のシステマティックレビューを実施した。

ラケットスポーツのエルゴジェニックエイド 系統的レビューからのエビデンス

文献検索で21件の報告を抽出

この検討の対象とした競技種目は、テニス、バドミントン、スカッシュ、卓球、パドルテニスの5種目。Medline、Scopus、EBSCOを用いて2020年2月20日までに公開された論文から、サプリメント、カフェイン、クレアチン、βアラニンなどのキーワードで検索した結果、438件がヒット。これらから、重複や論文の本文を入手不能なものを除外した377件について適格基準を満たすかを2名のレビュアーが検討した。

適格基準は、世界アンチドーピング機構(World Anti-Doping Agency;WADA)が指定しているドーピング物質を用いていないこと、無作為化比較試験であることなどとした。

抽出された研究の特性

最終的に21件の論文が抽出された。研究対象の競技種目は、テニスが15件、バドミントン3件、スカッシュ2件、パドルテニス1件で、卓球は該当の論文がなかった。これらの研究の被験者は16.4~51.0歳で、ジュニアからマスター選手にわたっていた。性別は女性が27名、男性が266名で男性が多く、競技レベルは学生からプロレベルに分布していた。最も研究されていたエルゴジェニックエイドはカフェインで10件、次にクレアチン一水和物4件のほか、血漿緩衝成分、一酸化窒素前駆体など。

文献からの考察

カフェイン

カフェインに関する研究の多くは、トライアルの30~60分前に3~6mg/kgを摂取するという条件で施行されていた。2.3~5mg/kgの範囲で、パフォーマンスの向上と筋肉痛の抑制の効果が報告されていた。6mg/kgでも同様の効果が報告されていたが、無作為化と盲検化の点で若干バイアスのリスクが認められた。

テニスにおいては、バックハンドストローク、サーブ速度、握力、スプリントの数と速度、サーブの正確さや成功したショット数などの向上がみられた。ある研究では、カフェイン摂取の有無にかかわらず炭水化物飲料の使用が、プラセボと比較してスプリントとサーブの質を改善したと報告していた。

一方、ジュニア選手を対象とした研究では、3mg/kgのカフェイン摂取による発汗量の増加が報告されている。また、複数の研究報告が脱水症のリスクについて言及していた。

クレアチン一水和物

クレアチン一水和物補給は筋肉量や筋力、嫌気性能力の向上作用が報告されている。既に、テニスランキングのトップ100選手の約75%がクレアチンを摂取しているとされ、ラケットスポーツにおいては非常に注目されている。ただし、ラケットスポーツでのエビデンスは必ずしも十分でない。

本検討においては、スカッシュに関する研究で、0.3g/kgのクレアチンを5日間摂取した結果、スプリントタイムが向上したとの報告がみられた。ただしプロトコルの不均一性が認められ、その他の情報が不足しており、エビデンスレベルは高くない。また、クレアチン1gとガラナ1.5g、カフェイン133mgの摂取によりスカッシュ選手のいくつかのパフォーマンス指標が向上したとの報告もあるが、ガラナまたはカフェインの効果が除外されておらず、解釈が困難。なお、プレシーズン中のクレアチン摂取は、除脂肪体重の維持または増加に有益である可能性が示された。

エビデンス強化のため、さらなる研究が求められる

本検討では上記のほか、血漿緩衝成分、一酸化窒素前駆体、グリセロールについて、抽出された研究報告からの検討を加えている。結論としては、「カフェインは、ラケットスポーツ選手にとって比較的明確なエビデンスがあるエルゴジェニックエイドであり、試合の30~60分前の摂取は、特定のスキルと正確さを向上させる可能性がある。クレアチン、重炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ビート根ジュース、シトルリン、グリセロールなどの他のエルゴジェニックエイドも、パフォーマンスの改善に関する興味深い可能性が報告されているが、エビデンスの強化にさらなる研究が必要」とまとめている。

なお、論文の末尾で各エルゴジェニックエイドの評価と使用法に関して、以下の情報が表形式で掲載されている。

研究の数と質が高く、効果が認められ、推奨レベルが高いもの

  • カフェイン:特定のラケットスポーツのスキル、スプリントとジャンプ力、メンタルパフォーマンスを向上し、またプレーの精度を恐らく向上する。競技の30~60分前に3~6mg/kg摂取。

研究の数と質が低く、効果が期待されるが、推奨レベルは低いもの

  • クレアチン:スプリント力を向上する可能性がある。0.3g/kgを5日。
  • 重炭酸ナトリウム:特定のラケットスポーツを向上する可能性があり、疲労を軽減する可能性がある。競技70~90分前に0.3g/kg摂取。

研究の数と質が低く、報告により結果が矛盾している、または効果がないもの

  • クエン酸ナトリウム:特定のラケットスポーツのパフォーマンスを向上する可能性があり、疲労を軽減する可能性がある。競技90~120分前に0.3~0.5g/kg摂取。
  • ビート根ジュース:影響なし。競技3時間前に6.4mmol摂取。
  • シトルリン-リンゴ酸:握力やピークパワーを向上させる可能性がある。競技60分前に8g摂取。
  • グリセロール:影響なし。競技150分前に1g/kg、15分前に0.5g/kg摂取。

文献情報

原題のタイトルは、「「Nutritional Ergogenic Aids in Racquet Sports: A Systematic Review」。〔Nutrients. 2020 Sep 17;12(9):E2842〕
原文はこちら(MDPI)

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