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やせは短命、肥満は介護や支援が必要な期間が長い 健康寿命延伸に最適な体格の研究

フレイル※1およびフレイルでない高齢者どちらにおいても、BMI※2が22.5~23.5の場合に、最も介護認定※3を受けるリスクが低いことが示された。BMIが18.5未満のやせの場合は介護認定を受ける前に死亡する可能性が高く、一方でBMIが27.5以上の場合は障害生存期間※4が長く、またフレイルを有するBMI27.5以上の高齢者はフレイルを持たないBMI27.5以上の高齢者よりも、障害生存期間が大幅に長いという。

やせは短命、肥満は介護や支援が必要な期間が長い 健康寿命延伸に最適な体格の研究

早稲田大学スポーツ科学学術院、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所、びわこ成蹊スポーツ大学、東北大学、京都先端科学大学の研究グループの研究成果であり、「International Journal of Obesity」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにリリースが掲載された。

※1 フレイル:ストレス反応に対する恒常性の低下によって複数の生理学的予備能力が低下した状態と定義されており、将来の早期死亡や介護認定のリスクが高い状態。
※2 BMI(Body Mass Index):体重(kg)を身長(m)の二乗で割った数値。BMIは国際的に認められているやせ・肥満の指標。日本ではBMIが18.5未満は「やせ」、18.5~24.9は「普通体重」、25.0以上は「肥満」と判定される。
※3 介護認定:65歳以上の高齢者の場合、疾病や事故などのあらゆる原因で介護や支援が必要な人は介護保険制度に基づいて、被保険者として市区町村(保険者)から介護サービスを受けることができる。
※4 障害生存期間:全寿命と健康寿命の差の期間のことであり、介護や支援が必要な状態で生存している期間。

これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

フレイルとは身体的機能、精神的および社会的な活力などの心身の予備能力の低下がみられる状態であり、健康な状態と要介護状態の中間に位置する。フレイルは年齢とともに該当者が増加するため、日本を含む高齢社会を迎える国々が抱える健康問題の一つ。フレイルには「適切な介入により再び健康な状態に戻る」という可逆性が包含されているため、フレイルの状態を改善し得る生活習慣等が世界中で研究されている。

一方、BMIはエネルギー摂取量(食べた量)と消費量(使用した量)によるエネルギー出納を簡易的に評価することができる指標であり、専門的な技術やスキルを必要とせずに計算することができるため、自身の体格を容易に知ることができる。高齢者は中年者よりもBMIが高いことで死亡リスクが低くなると考えられている。従って、寿命を延ばすために高齢者の最適な体格を評価することが重要だが、フレイルの有無や高齢者のBMIが、全生存率や介護認定を考慮した障害生存期間と、どのように関係するかは不明だった。

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

この研究では、2011年から京都府亀岡市で行われている介護予防の推進と検証を目的とした前向きコホート研究※5である京都亀岡スタディに参加した1万232人のデータが使用された。BMIは質問票の回答による身長と体重から算出し、18.5未満、18.5~21.4、21.5~24.9、25.0~27.4、27.5以上という5グループに分けた。フレイルは、厚生労働省が作成した基本チェックリスト※6を用いて評価した。

※5 前向きコホート研究:疫学研究手法の一つ。疫学とは、集団を対象として疾病の発生原因や流行状態、予防法などを研究する学問のこと。前向きコホート研究は、調査時点で仮説として考えられる要因を評価し、その対象者が保持する要因によってその後の疾病や死亡イベントの発症を比較することで、どのような要因を持つ者が予後不良なのかを評価する方法。
※6 基本チェックリスト:要介護状態にない高齢者を対象に、近い将来介護が必要になる高齢者を抽出するスクリーニング法として、厚生労働省によって開発された質問票。この質問票は手段的日常生活関連動作、身体機能、栄養状態、口腔機能、社会的状態、認知機能、およびうつ状態を含む、七つのサブドメインにより構成される。基本チェックリストの得点範囲は0点(フレイルではない)から25点(重度のフレイル)の範囲。

本研究ではBMIを評価してから中央値で5.3年間追跡調査を行い、介護認定と死亡の発生状況を確認した。追跡期間中に、2,348人が新規で介護認定を受け、1,084人が死亡していた。本研究の高齢者全体のフレイル該当割合は40.1%だった。

普通体重であるBMI21.5~24.9の人と比較して、BMI18.5未満または27.5以上の人は、介護認定を受けるリスクが有意に高いことが示された。

本研究ではさらに、BMIと介護認定イベントの量反応関係をフレイルの有無によって層別分析を行った。フレイル(図1A)およびフレイルでない高齢者(図1B)どちらにおいても、BMIが22.5~23.5で最も介護認定を受けるリスクが低い値になることがわかった。

これらのことから、フレイルの有無にかかわらず、高齢者の最適なBMIはやせでも肥満でもない普通の体格であり、これらの結果は健康寿命延伸のために重要な知見となる可能性がある。

図1 フレイルの有無に応じた体格指数(BMI)と介護認定リスク間の制限付き3次スプライン回帰モデル※7

フレイルの有無に応じた体格指数(BMI)と介護認定リスク間の制限付き3次スプライン回帰モデル

実線はハザード比を表し、破線は95%信頼区間を表している。棒グラフはBMIの分布。ハザード比はBMI23.0を基準として算出した。
※7 スプライン回帰モデル:ある決められた値で算出した結果を曲線によって滑らかに繋ぎ合わせ、値全体の量反応関係をわかりやすく表したモデル。
(出典:早稲田大学)

本研究ではさらに、BMIと障害生存期間の関係を評価した(図2)。BMI18.5の人(やせ)は、介護認定を受ける前に死亡する可能性が高く、一方でBMI27.5の人は障害生存期間が長いことが示された。

フレイルの有無による層別分析では、BMIに関係なくフレイルの人は非フレイルの人よりも無障害生存期間が短いことが示された。

フレイルを有するBMI27.5以上の人は、フレイルを持たないBMI27.5以上の人よりも障害生存期間が大幅に長いことが示された。例えば、フレイルを持たないBMI21.5~24.9の人と比較して、障害生存期間はフレイルを持たないBMI27.5以上の人では6.2カ月長いが、フレイルを有するBMI27.5以上の人では27.2カ月長かった。従って、単にフレイルを有する高齢者のBMIを増加させただけでは障害生存期間が長くなるため、フレイル度の改善を優先する必要がある。

図2 全体およびフレイルの有無に応じたBMIと全生存、無障害生存および障害生存期間の関係

全体およびフレイルの有無に応じたBMIと全生存、無障害生存および障害生存期間の関係

BMI21.5~24.9のフレイルでない人を基準(Ref)として、全生存期間、無障害生存期間、障害生存期間を計算している。黒点は全生存および無障害生存期間の50パーセンタイル差(50th percentile difference;PD)※8を表し、エラーバーは95%信頼区間を表す。95%信頼区間が0をまたがない場合、有意な差と見なす。棒グラフは障害生存期間を表し、「全生存期間 - 無障害生存期間」によって算出した。障害生存期間が0より大きい(値が+)場合は障害生存期間が長く、0より小さい場合は介護認定(障害)発生前に死亡する可能性が高いことを意味している。
※8 50パーセンタイル差(50th percentile difference):あるイベント発生の中央値の差。この研究ではフレイルを持たないBMI21.5~24.9の人と比較して、ある群の死亡や介護認定の発生による生存および無障害生存期間の中央値の差。
(出典:早稲田大学)

研究の波及効果や社会的影響

これまでの研究では、中高年成人のBMIと全死亡率の間にU字型の関係が示されており、BMIが低くても高くても死亡リスクが高いことが示されている。一方、高齢者では中高年者よりも、死亡リスクが最も低い最適なBMIが高いことが報告されている。このような肥満者の方が普通の体格の者よりも生存期間が長いという“obesity paradox(肥満のパラドックス)”は、フレイルである人や心疾患患者でも報告されている。

しかし今回の研究結果は、フレイルを有する肥満者では最も障害生存期間が長いことを示しており、介護認定も考慮した健康寿命では、肥満パラドックスは存在しない可能性を示唆している。従って、最適なBMIを維持し、フレイル度を改善することは、平均余命の延長だけでなく、高齢者の障害を伴う生存期間の短縮にも貢献する可能性がある。

今後の課題

本研究では高齢者のフレイルの有無による一時点でのみ評価したBMIと死亡・介護認定リスクの関係を検討した。本研究や以前の研究において、フレイルの人ではフレイルでない人に比べて、BMIが高いことで死亡リスクの低下による恩恵を受ける“肥満のパラドックス”が存在する可能性が示唆されている。

この肥満パラドックスは日本だけでなく世界中の研究者から報告されているが、一時点での評価などいくつかの研究の限界点が原因で引き起こされる可能性が指摘されている。この限界点を克服するためには、フレイルの状態やBMIを一時点でのみ評価するのではなく、同一個人の繰り返し測定によるBMIやフレイル状態の軌跡と死亡・介護認定を受けるリスクとの関連も検討する必要がある。

研究者のコメント

論文の筆頭著者である早稲田大学スポーツ科学学術院の渡邉大輝氏は、「BMIは厚生労働省の食事ガイドラインである『日本人の食事摂取基準』※9でも使用されているエネルギー出納を示す指標の一つ。『日本人の食事摂取基準 2020年版』からフレイルの発症および重症化予防の観点が考慮されており、フレイルの有無によるBMIと予後の関係は、よりきめ細かい食事・栄養指導や健康政策の立案に役立つエビデンスだと思う。また我々が行ったフレイルの有無による層別分析の結果は、フレイルを有する高齢者では最適なBMIを達成することよりも、フレイル度を改善することを優先する必要があることを示唆している」と述べている。

※9 日本人の食事摂取基準:日本人の1日に必要なエネルギーおよび栄養素摂取量を示した基準。2005年に初版が作成され、5年に一度改訂されている。

関連情報

高齢者の健康寿命延伸に最適な体格は?(早稲田大学)
高齢者の死亡リスクが最も低くなる最適な体格が明らかに 65歳以上・1万912人のデータ解析

文献情報

原題のタイトルは、「Is a higher body mass index associated with longer duration of survival with disability in frail than in non-frail older adults?」。〔Int J Obes (Lond). 2024 Nov 15〕
原文はこちら(Springer Nature)

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