スポーツをしやすい街づくりで医療費が約11%減少 中国「スポーツ消費都市」の効果を検証
住民がスポーツを行いやすい環境を整備する都市政策が、医療費の削減につながるとする研究結果が報告された。中国が2020年にスタートさせた「スポーツ消費都市」のプログラムの対象となった都市とそれ以外の都市の医療費の推移を、差分の差分法で検討した結果であり、住民医療費は10%以上削減されているという。著者らは「運動は薬である」という仮説の説得力のあるエビデンスだとしている。

「運動は薬(exercise as medicine)」を都市政策で立証
人口の高齢化を主因として、世界各国で医療費が急速に拡大し重大な社会的課題となっている。中国でも1人あたり医療費が、年平均9.2%という速度で拡大しているという。中国政府は身体活動の潜在的な効果に着目し、国民の積極的なスポーツ参加を推進すべく、2020年にスポーツ消費都市(sports consumption city)のパイロットプログラムをスタートさせた。
この計画では、スポーツを核とする都市開発と公衆衛生施策が好循環を生むことを想定している。既に、この計画の対象とされた都市の住民は、スポーツ参加率が上昇してきていることが報告されている。ただし、スポーツ消費都市計画そのものは依然として探索的な段階にあり、意図した複合的な効果が生まれているのかは、これまで十分検討されていない。
今回取り上げる論文の研究では、この点について、計画の対象とされていない都市と比較する、差分の差分法(difference-in-differences;DID)による検討が行われている。
住民のスポーツ参加推進で医療費が1割削減
研究では、2012~22年に実施された5回の中国家庭追跡調査(China Family Panel Studies;CFPS)のデータが使われた。CFPSは、北京大学が主体となり実施している長期縦断調査で、世帯単位と個人単位の社会経済的特性、健康状態、行動パターンが把握されている。本研究では6,484人のデータを解析対象とした。
スポーツ消費都市計画は、医療機関の整備とは正反対の影響
DIDによる検討の結果、スポーツ消費都市では世帯単位の医療費が10.86%、有意に減少していることが示された(β=-0.115、p<0.05)。
この結果について著者らは、「従来行われてきた、医療機関の拡張などの医療供給を増やす改革後に観察される医療費の上昇という典型的なパターンとは、著しく対照的である。むしろ、グロスマンの『健康資本理論』(健康資本への投資が将来の医療需要を抑制する)に則し、スポーツ消費都市の構築は医療サービスの必要性を発生源で減らすという仮説を裏付けている」と述べている。
医療費の削減は、健康行動とメンタルヘルスの最適化によってもたらされている
媒介効果の検討からは、スポーツ消費都市推進による医療費削減効果は主に、健康行動と心理的幸福の最適化によってもたらされていることがわかった。
具体的には、スポーツ消費都市では、スポーツ消費量の増加(β=0.211、p<0.01)、身体活動頻度の増加(β=0.124、p<0.05)が認められた。また、主観的な健康状態の改善傾向(β=0.034、p<0.1)、抑うつレベルの低下傾向(β=-0.026、p<0.1)も観察された。
この点について著者らは、「先行研究では、単一の生理学的アウトカムに焦点を当ててきているが、我々の分析では、医療コスト削減効果は行動的側面と心理的側面にわたる、四つの異なる並行経路によって引き起こされていることが明らかになった」と解説。スポーツ消費都市の建設がスポーツの消費を刺激し、各世帯がスポーツへの参加により多くの家計を割り当てるにつれて医療サービスへの依存度が低下したと考察。さらに、身体活動頻度の増加が生理的回復力を直接的に高め、これは「運動は薬である」という共通認識と一致するものであるとしている。また、習慣的な健康状態の改善によって、必要性の高くない受領行動が抑制され、とくにメンタルヘルス関連での医療需要を抑制されるとのことだ。
スポーツ消費都市計画は、治療効果より予防効果に優れる
異質性分析からは、60歳以上(β=-0.134、p<0.05)、住宅ローンがないこと(β=-0.208、p<0.01)、中心都市での居住(β=-0.315、p<0.01)は、医療費のより顕著な減少と関連していた。また、慢性疾患がないこと(β=-0.098、p<0.1)、医療資源が比較的少ない地域での居住(β=-0.245、p<0.1)も、医療費の減少効果が強い傾向があった。
この点については、「政策効果の構造的な限界を明らかにするものであり、既存の理論を支持する結果と否定する結果が同時に混在している」と述べている。例えば、60歳以上で医療費削減効果がより顕著という点については、「高齢者は既に生活習慣が強固となっていることが多く介入効果が低いとする以前の仮説に則していない」という。一方で、「高齢世代は若年世代よりも資金的な余裕があり、アクセス可能なスポーツインフラからより大きな効用を得ていると考えられる」としている。また、重要な点として、慢性疾患のない個人の医療費削減効果ほうが高いことは、「スポーツ消費都市の構築が『治療的介入』としてではなく、『一次予防』のツールとして機能することを示唆している」と述べている。
スポーツ消費都市を全住民の健康につなげるために必要な改善ポイント
これらの結果に基づき著者らは、「スポーツ消費都市の構築は、都市ガバナンスレベルで『運動は薬である』という仮説を強力に支持しており、医療需要発生原因のより上流への介入を通じて医療負担を軽減するという、汎用性のあるモデルと言える。しかし、全体的なコスト抑制のメリットは大きいものの、本研究では構造的な異質性が明らかになった。政策の恩恵は、経済的に安定していて健康な個人に偏っており、健康格差の拡大リスクが浮き彫りになった。従って今後の政策では、「包括的であり、かつ精密なガバナンス」という新しいパラダイムを取り入れる必要がある」と総括。
より具体的には、政策立案者に以下の2点を提言している。一つは、スポーツ参加が制約されている世帯を対象とするスポーツ補助金などの制度を導入して参加障壁を下げること、二つ目は、慢性疾患の管理プロトコルに「運動処方」を正式に組み込むなど、「統合された医療とスポーツケア」を制度化すること。
論文は、「これらの措置によって、あらゆる社会経済階層にスポーツ参加の機会が公平に分配され、最終的に『すべての人に健康を』というビジョンが実現される」と結論づけられている。
文献情報
原典論文のタイトルは、「Can sports consumption cities reduce residents' medical expenditures? Evidence from China」。〔Front Public Health. 2026 Apr 13:14:1822237〕
原文はこちら(Frontiers Media)







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