日本の「地方」と「都市部」の健康格差を全国調査 所得や雇用だけでは説明できない死亡率の差 東北大学
国内の地方と都市部の死亡率が、所得や雇用などの社会経済的要因の影響を除外しても差があることが明らかになった。東北大学の研究グループの研究によるもので、論文が「BMJ Public Health」に掲載されるとともに、同大学からプレスリリースが発行された。心疾患や交通事故、自殺は地方、結核や肺炎は都市部に多いという。

発表のポイント
- 全国の市区町村ごとに約408万件の死亡データを分析した結果、所得や雇用などの社会経済的な地域格差を考慮しても、地方・都市部と死亡率との関連は死因によって異なることを明らかにした。
- 心疾患や交通事故、自殺による死亡は地方でより多く、一方で結核や肺炎による死亡は都市部でより多いなど、地域の死亡率の違いは社会経済的な不利だけでは説明できないことが示された。
- 研究成果より、地域ごとの健康課題を把握し、地域特性に応じた保健医療政策を検討するための基礎資料となることが期待される。
研究の概要:地方と都市部の健康格差の実態を明らかにする
地方と都市部の健康格差は、交通の不便さなど地理的条件によるものなのか、それとも所得や雇用などの社会経済的格差によるものなのか、これまで十分に明らかにされてなかった。
東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野の研究グループは、2017〜2019年の全国408万件の死亡データを市区町村ごとに分析。地理的条件を示す「へき地度」と地域の社会経済的な不利を示す指標を同時に考慮した結果、所得や雇用などの社会経済的な不利の影響を取り除いても、地方と都市部の死亡率の差はなお残り、どちらで死亡が多いかは死因によって異なることを明らかにした。心疾患や交通事故、自殺は地方でより多く、結核や肺炎は都市部で死亡率比※1が高いなど、死因によって傾向が異なることがわかった。
本研究結果は、地域の健康格差が死因ごとに異なる傾向を示すことを全国規模で明らかにしたもので、地域特性に応じた保健医療政策を検討するための基礎資料となることが期待される。
※1 死亡率比(mortality rate ratio):全国共通の年齢・性別ごとの死亡率をもとに市区町村ごとに算出した「期待される死亡数」に対し、実際の死亡数が何倍だったか(標準化死亡比)を表す統計量を、へき地度指標が1標準偏差高い地域と低い地域で比較したもの。
詳細な説明:地方で有意に多い14の死因と都市部で有意に多い11の死因
研究の背景:健康格差の地理的要因と社会経済的要因をそれぞれ評価する必要性
地方と都市の健康格差について、その理由が病院までのアクセスなどの地理的な要因によるものなのか、所得や雇用などの社会経済的な要因によるものなのかは、これまで十分に明らかになっていなかった。両者は重なり合って存在することが多く、どちらか一方だけをみた分析では、格差の実際の要因を正確に捉えられない可能性がある。
これまで、日本でも人口密度や医師数を用いた研究はあったが、山地や離島、豪雪地帯などの日本特有の地理的条件を反映した「へき地度」の指標と、地域の社会経済的な不利を示す指標をあわせて、幅広い死因との関連を全国規模で検討した研究はなかった。
そこで本研究は、この二つの指標を同時に測定し、影響を切り分けたうえで、死因ごとの格差を調べた。
今回の取り組み:全国1,890市区町村の約408万件の死亡データを分析
研究グループでは、厚生労働省の人口動態統計(2017〜2019年)や国勢調査などを用い、全国1,890市区町村の約408万件の死亡データを分析した。
地理的な「へき地度」を示す指標(日本版へき地度指標:RIJ※2)と、地域の社会経済的な不利を示す指標(地域剥奪指標:ADI※3)を同時に用い、統計モデル(空間ベイズポアソンモデル)で、全死因および34の死因別死亡率、あわせて35種類との関連を推定した(図1)。二つの指標を同じ統計モデルで同時に扱うことで、社会経済的な不利の影響を取り除いたうえでなお残る、へき地度(地理的条件)に伴う死亡率の差を死因ごとに取り出せる。
※2 日本版へき地度指標(Rurality Index for Japan;RIJ):人口密度、二次・三次医療機関までの距離、離島、豪雪地帯指定を組み込んだ、日本の地理的特性に合わせた市区町村のへき地度の指標(1–100、高いほどへき地度が高い)。厚生労働省の医師確保計画の議論でも参照されている。
※3 地域剥奪指標(Area Deprivation Index;ADI):世帯構成・住宅・就労状況に関する国勢調査の8変数から算出される、地域の社会経済的不利の指標。
図1 研究デザインの概要

ここでいう死亡率比とは、全国共通の年齢・性別ごとの死亡率から見込まれる死亡数(期待死亡数)に対し、実際の死亡数が何倍だったかを、へき地度が高い地域と低い地域で比べた値。なお、ここでは、へき地度が高い地域を「地方」、へき地度が低い地域を「都市部」と表現している。
その結果、社会経済的な不利の影響を取り除いても、なお地方と都市部の死亡率の差は残り、どちらで死亡が多いかは死因によって異なることが明らかになった。つまり、「地理的条件か、社会経済的格差か」という冒頭の問いに対する本研究の答えは、「社会経済的な格差だけでは説明できない、地理的条件に伴う格差が、死因ごとに異なる形で存在する」というものであった。
具体的には、交通事故、老衰、急性心筋梗塞をはじめとする14の死因で、地方ほど死亡率比が高いことがわかった(図2)。一方、結核、喘息をはじめとする11の死因では、都市部の死亡率比のほうが高いことがわかった(図3)。全死因でみると、地方でわずかに死亡率比が高い結果であった。
図2 地方で死亡率比が高かった死因

図3 都市部で死亡率比が高かった死因

今後の展開:地域特性に応じた保健医療政策の立案に期待
この結果は、地方と都市部の健康格差を一律に捉えるのではなく、死因ごとの特徴を踏まえて理解する必要があることを示している。そのうえで、論文の考察では、急性心筋梗塞や脳梗塞のように治療までの時間が生死を分ける疾患では、救急搬送体制や医療機関の連携強化が課題となり得、結核や肺炎など都市部で死亡率比が高い死因では、感染症対策や生活環境への対応が課題になり得ると論じている。今後、死因ごとに異なる地域差が生じる背景要因を明らかにすることで、地域特性に応じた保健医療政策の検討につながることが期待される。
学術的な観点からは、へき地度と地域の社会経済的な不利を同時に考慮したうえで、幅広い死因を全国規模で検討した研究は国内外でも少なく、本研究は地域と健康の関連を調べる今後の研究の土台となる成果と言える。社会的な観点からは、自治体が地域の実情に応じた保健医療政策を立てる際の基礎資料となることが期待される。
なお、本研究は市区町村単位のデータを用いた生態学的研究※4であり、個人レベルの因果関係を直接示すものでない。
※4 生態学的研究:個人ではなく地域(本研究では市区町村)を単位として、曝露と健康状態との関連を分析する研究デザイン。
プレスリリース
地方と都市の健康格差は疾患によって異なる -全国408万人データから地理的要因と社会経済的要因の関連を解明-(東北大学)
文献情報
原典論文のタイトルは、「Association of municipal rurality and area deprivation with cause-specific mortality in Japan: a nationwide ecological study」。〔BMJ Public Health. 2026 Jul 1;4(3):e004913〕
原文はこちら(BMJ Publishing Group)







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