持久系アスリートの超高炭水化物摂取を検証 エネルギー補給(Fuelled)効果か、思い込み(Fooled)か?
持久系アスリートの間で採用されることが増えてきた、90g/時を超えるような超高炭水化物(U-HC)摂取について、その根拠とメカニズムを改めて検証したレビュー論文を紹介する。論文のタイトルには「Fuelled or Fooled?」とあり、「エネルギー補給の効果か、思い込みに過ぎないのか?」と疑問を投げかけたうえで、U-HCにはまだ十分なエビデンスがなくすべてのアスリートに推奨することは正当化されないが、一部のアスリートは恩恵を受ける可能性があるとし、慎重な個別化アプローチを強く推奨している。

イントロダクション
持久系競技における超高炭水化物(ultra-high carbohydrate;U-HC)摂取への関心が高まっており、120g/時を摂取するという研究も報告されている。例えば2009年には、国際アイアンマンレースで炭水化物摂取量が完走タイムと関連しており、最大120g/時摂取されていたと報告された。また、60g/時と120g/時を比較して、運動誘発性筋損傷の軽減など、回復に関する有意な効果が認められるという報告もある。これらによって、「U-HC革命」とも呼ばれる変化の基礎が築かれた。
U-HCが有効とする理論的な背景としては、エネルギー可用性の増大、筋グリコーゲンの温存、低血糖の抑止、外因性炭水化物の酸化促進などが挙げられる。しかし、本論文の著者らはこれらの理論を、「精査には耐えられないのではないか」と述べている。
著者らがそのように述べる根拠として、炭水化物摂取による筋グリコーゲン温存効果は用量依存的ではないことが示されていて、U-HCは脂質酸化を抑制するだけのようであり、パフォーマンスへの影響は運動誘発性低血糖の抑止によるものであるという研究報告を挙げ、全身の代謝上のメリットはないと考えられるとしている。そして、U-HC介入がパフォーマンスを向上させてとするエビデンスは十分でなく、主として回復に関する指標のみに有意な影響が報告されてきているという。
これらを背景として、本論文は、(1)運動中の炭水化物摂取と代謝およびパフォーマンスとの関連をレビューしたうえで、(2)低血糖予防やグリコーゲン貯蔵量の維持以外で、U-Hが有効であることを証明できる可能性のあるメカニズムを探り、(3)アスリート対象のガイドラインとしてU-HC摂取を推奨する十分な根拠があるかを検討する――という流れで書かれている。それぞれ要旨のみを紹介する。なお、本論文ではU-HCを、現在推奨されることの多い90g/時を超える摂取率と定義している。
先行研究のレビュー
超高炭水化物(U-HC)摂取は内因性グリコーゲンを、より温存するとは言えない
超高炭水化物(U-HC)摂取のメリットの根拠に関する重要な疑問は、炭水化物を90g/時を超えて摂取することが、内因性炭水化物酸化のさらなる抑制につながるのかどうかである。入手可能なエビデンスは、そうではないことを示唆している。90g/時を超えて増やすと、外因性炭水化物の酸化速度が上昇しても、酸化効率、つまり摂取した炭水化物のうち酸化される割合は低下する。では、摂取した炭水化物がすべて酸化されない場合、それはどうなるのだろうか? ある研究では、その多くが消化管内で吸収されないことが示唆されている。これは、消化器系の問題が懸念事項となる可能性を意味している。
U-HCの摂取は外因性炭水化物の酸化を増加させ、脂質の酸化を減少させるが、内因性炭水化物の酸化をさらに減少させることにはつながらないことが示唆される。
U-HC摂取によるパフォーマンス向上のエビデンスは十分でない
介入研究では、炭水化物摂取量とパフォーマンスの間に用量反応関係は認められていない。炭水化物の摂取は、プラセボと比較した場合においては一貫してパフォーマンスを向上させるが、控えめな摂取量(約30~90g/時)を超える量を摂取した場合の用量反応関係のエビデンスは不足している。複数の研究において、これらのレベルを超えて炭水化物の摂取量を増やしても、外因性炭水化物の酸化速度が上昇するにもかかわらず、パフォーマンス上のメリットは一貫して示されていない。
U-HC摂取と腸のトレーニング
歴史的に、炭水化物摂取量を増やすことに関連して、消化管耐性の向上(腸トレーニング)が重要とされてきた。これは、運動中に高炭水化物負荷を繰り返すことで、胃排出と腸吸収を促進し、競技中に発生する消化器症状のリスクを軽減することを目的としている。これがパフォーマンス上有効とする報告もあるが、外因性炭水化物の酸化能の向上を支持するエビデンスは限られている。
可能性のあるメカニズム
基質シフトによる酸化効率の向上?
炭水化物の酸化は、同じ量の酸素を消費した場合、脂質の酸化よりも多くのエネルギーを生み出す。酸素1Lあたりのエネルギー産生量は、炭水化物では約5.05kcal、脂肪では約4.69kcalである。
運動中に外因性炭水化物の摂取量を増やすと、一般的に脂質酸化が抑制される。これらのデータは、U-HC摂取が成功したとする逸話的な報告に対する、もっともらしい説明となる可能性がある。外因性炭水化物の摂取量が多いと、酸化が炭水化物にシフトし、酸素消費量が減少する。この見解は、脂質酸化を促進して炭水化物の枯渇を遅らせることの利点を強調する近年のパラダイムに異議を唱えるものでもある。
ただし、酸化効率の向上や基質利用の変化が必ずしもパフォーマンス向上につながるわけではないことに留意が求められる。さらに、この考え方の一部は依然として推測の域を出ていない。
炭水化物と乳酸の相互作用?
考えられる二つ目のメカニズムは、乳酸産生を介するものだ。グルコースとフルクトースの混合物中のフルクトース摂取率が高いと、全身の乳酸利用可能性が高まる。フルクトースはグルコースと乳酸に急速に変換され、酸化に利用できる循環乳酸プールが増加する。
かつては単なる代謝副産物と見なされていた乳酸は、現在では酸化可能な基質として認識されている。U-HC摂取時には、外因性炭水化物酸化速度の上昇がもたらされる可能性がある。しかし、これも推測の域を出ない。
脳の関与の可能性?
U-HC摂取率が持久力パフォーマンスを向上させる三つ目のメカニズムは、脳を介するものだ。炭水化物マウスリンスの研究は、口腔内に炭水化物が存在するだけでパフォーマンスが向上することを示唆しており、基質としての可用性とは無関係な脳由来のメカニズムの存在が想定されてる。
炭水化物の利用可能性の高さが、中枢性疲労や知覚反応を調節し、ペース配分やモチベーションに影響を与える可能性がある。ただし、摂取量を増やすことにより、中枢性疲労がより軽減されたり、自覚的運動強度がより低下するという、用量反応関係はまだ確立されていない。
ガイドラインとして推奨可能か
上述の三つのメカニズムは、U-HC摂取のメリットの説明としてもっともらしいものであるが、まだ推測の域を出ず検証されていない。しかし、もし正しければ、これらのメカニズムは相互に排他的なものではなく、相乗的に作用する可能性があり、全体的にパフォーマンスの優位性に貢献し得る。とはいえU-HCの有用性は逸話的な報告に大きく支えられており、大半の研究は90g/時を超えるとパフォーマンス上の上乗せ効果が減弱し、ほとんどの個人で明確な用量反応効果がないことが示されている。
重要なこととして、外因性炭水化物の酸化能力には個人差が明確にあり、一部のエリートアスリートは、非常に高い炭水化物酸化の生理学的能力を持っている。よって、理想的には、個々のアスリートの炭水化物酸化能力に合わせて摂取量を調整すべきである。実際、個々のグルコース酸化率に基づいて摂取量を調整することで、炭水化物の利用率を減らしながらも同等の効果を得られ、自覚的運動強度と消化器症状の軽減につながるという結果が最近報告された。
しかしながら、アスリート個々の炭水化物酸化能力を評価するには、実験環境が必要であり現実的でなく、さらに実験環境で得られるデータは競技でみられるような急速に変化する代謝要求ではなく、安定した強度での運動に解釈が限定される可能性がある。よってガイドラインとして標準的な指針を示す場合、一般的な酸化能力に基づいて、幅広いアスリートの消化器症状を最小限に抑える可能性が最も高い値とする必要がある。
さらに、アスリートが腸を鍛えるために炭水化物の摂取量を持続的に増やす場合には、長期的な健康への影響を見過ごしてはならない。運動中のU-HC摂取による急性代謝反応は慢性的な食事性の炭水化物摂取とは異なるが、実際にはこの二つを区別することは難しい。そして、中程度の慢性的な炭水化物摂取量の増加でさえ、31日間で約30%のアスリートが糖尿病前症に相当する空腹時血糖を示したという報告がある。
本研究の要点
最後に、論文に「Key Points」としてまとめられている3項目を紹介する。
- 持久運動中の超高炭水化物(U-HC)摂取(90g/時超)については、まだ十分なエビデンスが得られておらず、裏付けとなるデータは管理された研究ではなく、逸話的な報告やエリートアスリートの実践から得られたものがほとんど。
- 炭水化物摂取量と外因性酸化速度の間には確立された関係があるにもかかわらず、90g/時を超える用量依存的なパフォーマンス向上効果は一貫して裏付けられていない。また、外因性炭水化物摂取量の増加が内因性炭水化物の利用を温存するようにもみえない。潜在的なパフォーマンス向上に関する三つの代替的なメカニズムの説明が提案されている。
- 現時点では、すべてのアスリートに対して超高炭水化物食を一律に推奨することは正当化されない。一部のエリートアスリートは恩恵を受ける可能性があるが、慎重かつ個別的なアプローチを強く推奨する。
文献情報
原典論文のタイトルは、「Fuelled or Fooled? Examining the Evidence and Mechanisms Behind Ultra-High Carbohydrate Intake in Endurance Athletes」。〔Sports Med. 2026 Jun 8〕
原文はこちら(Springer Nature)







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