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緊張からくる腹痛や下痢などの消化器症状はパラプロバイオティクスで予防できる

緊張した時に生じる腹痛などの消化器症状が、パラプロバイオティクスの摂取により抑制されるとする、東京農工大学などの研究グループによる研究結果が報告された。この効果は、腸内細菌叢の代謝を変えることによって発揮されるものだという。「Beneficial Microbes」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。

緊張からくる腹痛や下痢など消化器症状はパラプロバイオティクスで予防できる

研究の概要:緊張でおなかが痛くなる場面の多い人に、新たな対策の期待

この研究は、東京農工大学大学院農学研究院、摂南大学、コンビ(株)の共同研究として行われた。緊張するとおなかが痛くなる学生を対象としたヒト試験において、定期試験前の1週間にパラプロバイオティクス※1を配合した食品を毎日摂取することで、試験の緊張に伴う消化器症状の不調を予防することがわかった。この効果は腸内細菌叢の代謝を変えることによって発揮されることも明らかになり、パラプロバイオティクスは「腸内細菌叢-脳軸」を通して精神的ストレスに伴う消化器症状の不調を予防することが示された。

この成果により、パラプロバイオティクス配合食品の利用は、緊張するとおなかが痛くなる状況に置かれる人々のWell-beingを向上させる手段になることが期待される。

※1 パラプロバイオティクス:加熱処理などにより殺菌した死菌体、もしくは菌体成分であり、生体機能を改善する機能があるもの。

研究の背景:ストレスによる消化器症状を何とかできないか

ストレスは精神衛生と胃腸の健康の両方に影響を及ぼし、公衆衛生上の大きな懸念事項となっている。うつ病、不安、心的外傷後ストレス障害などの精神障害や、過敏性腸症候群、胃食道逆流症、炎症性腸疾患などの胃腸疾患は、ストレスと密接に関連している。腸内細菌叢と脳の間の双方向のコミュニケーションは「腸内細菌叢-脳軸」として知られ、さまざまな研究により、腸内細菌叢が宿主の精神的健康を維持するために重要であることが実証されている。

一方、食品に使用されている乳酸菌やビフィズス菌は、うつ病や不安を軽減するプロバイオティクスとしてよく知られている。最近の研究では、生菌以外のプロバイオティクス(パラプロバイオティクス)も健康上の利点を提供できることがわかっている。

本研究では、先行研究によりマウスの不安様行動を抑制することが明らかになった乳酸菌Enterococcus faecalis EC-12株(EC-12)※2の加熱殺菌菌体を使用し、学生の学業試験期間中の主観的胃腸症状、ならびにストレス感への効果と、腸内生態系の影響を調査することを目的とした。

※2 Enterococcus faecalis EC-12株:ヒト由来の乳酸菌。免疫刺激効果、腸内細菌叢改善効果をもつほかに、脳腸相関の仕組みを介して脳の遺伝子発現調節や不安行動を抑制する。

研究の成果:対プラセボで消化器症状が有意に改善。トリプトファン代謝物との関連も

本研究では、緊張するとおなかが痛くなるという自覚症状を持つ学生27名を対象に、プラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較試験を行った。

被験者には、大学の前期試験の1週間前から試験当日まで被験食品(EC-12 1.0 × 1012個 配合顆粒サプリメント)1g、もしくは当量のプラセボ顆粒サプリメントを摂取してもらい、食品摂取前と摂取後に、消化器/精神症状の主観的評価、糞便・唾液の採取をしてもらった。

EC-12を摂取した被験者14名のうち、消化器症状(腹痛および腹鳴)が改善した被験者は全体の93%に上った。プラセボを摂取した被験者13名と比較して、EC-12を摂取した被験者の消化器症状の改善率は有意に高く、消化器症状の改善はEC-12の効果であると考えられた。

そこで、そのメカニズムを検証するために、糞便を用いた腸内細菌叢の構造解析と機能解析、網羅的な成分分析であるメタボローム解析をそれぞれ行った。腸内細菌叢の構成や多様性に大きな変化はなく、EC-12を摂取した被験者でその主成分であるEnterococcus faecalisの相対存在量が有意に増加したのみだった。

一方で、糞便のメタボローム解析の結果、EC-12を摂取した被験者では、プラセボ食品を摂取した被験者と比較して、胃腸運動や粘液分泌を促進するトリプタミンが有意に増加していた。トリプタミンは腸内細菌によって生成されるトリプトファン代謝物で、大腸細胞の5-HT4受容体と相互作用して胃腸運動や粘液分泌を促進する。

また、本試験において、糞便中のトリプタミン濃度は消化器症状との関連が認められた。糞便中トリプタミン濃度が増加した被験者は27名中16名で、そのうち腹鳴が改善した被験者は94%、腹痛が改善した被験者は75%、下痢が改善した被験者は56%だった。このことから、EC-12の摂取により改善した消化器症状は、トリプタミンの増加と関連があると示唆された。

他方、EC-12の摂取は精神症状や唾液中コルチゾール濃度に影響を及ぼさなかった。この点については、本研究のように学生が経験する定期試験のようなストレスは、精神的健康に大きな影響を与えて重篤な精神症状の悪化を引き起こすことはないが、代わりに主に胃腸の不快感として現れたためであると考えられた。

今後の展開:手軽に利用できるというメリットに期待

本研究では、パラプロバイオティクスの摂取が腸内細菌の代謝経路を変化させることで宿主の消化管運動を調節し、腹部不快感を軽減することが明らかになった。パラプロバイオティクスは温度管理が不要で賞味期限も長いので、産業面のみならず、消費者が気軽に持ち歩くことができて生活に取り入れやすいという利点がある食品。著者らは、「パラプロバイオティクス食品の普及が拡大することで、緊張や不安によっておなかの調子が悪くなる人々の生活の質を改善し、Well-beingを向上させることが期待される」としている。

プレスリリース

パラプロバイオティクス(殺菌乳酸菌EC-12)の摂取により緊張に伴う消化器症状の不調を予防(東京農工大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Oral supplementation of heat-killed Enterococcus faecalis strain EC-12 relieves gastrointestinal discomfort and alters the gut microecology in academically stressed students」。〔Benef Microbes. 2024 Oct 29:1-13〕
原文はこちら(Brill)

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