男子体操選手の多くが利用可能エネルギー不足(LEA)か? 米大学で栄養とパフォーマンスの関連を調査
米国の男子大学体操選手の栄養素摂取量とパフォーマンス指標との関連を検討した結果、調査対象の大半が利用可能エネルギー不足(LEA)であり、炭水化物摂取量が少ないことが明らかになった。LEAによるパフォーマンスへの影響は観察されなかったものの、著者らは、男子体操選手のLEAリスクに注意を喚起している。
学生体操選手の食事・栄養課題
体操競技は、床、あん馬、吊り輪、跳馬、平行棒、鉄棒という6種目で構成され、跳馬はは約5秒で終了し、床では70~90秒に及ぶという変化があり、それぞれの種目に特異的で複雑な動作を正確かつコントロールする必要があって、筋力や筋持久力、柔軟性、協調性などが要求される。体操選手は一般的に子どもの頃に競技をスタートし、年間を通して長時間のトレーニングを続けることになり、この間の体重管理は大きな課題となる。
体操では通常、体脂肪率が低く除脂肪体重が高いことが有利と考えられ、エリートレベルの体脂肪率は、女子では13~16%、男子では8~12%に維持されている。ただし、BMIとパフォーマンスとの関連を検討した場合に、U字型の関連があることが示唆されており、BMIが高すぎることだけでなく、低すぎることもパフォーマンス上、不利となる可能性もある。
いずれにしても、体操選手は幼少期から長年にわたり、体重・体組成の維持のための食事管理が要求される。体重増加を避けることに主眼を置いたアスリートの厳格な食事管理では、しばしば利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)のリスクが高まり、それに伴う健康やパフォーマンスへの悪影響の懸念が生じる。ただ、アスリートのLEAは女性選手での研究報告が近年増加しているものの、男性選手での知見は少ない。体操においても男性選手のLEAの有病率やパフォーマンスへの影響は不明点が多く残されている。
男子学生体操選手の85.7%がLEA
この研究は、全米大学体育協会(National Collegiate Athletic Association;NCAA)のディビジョンIIIの男子体操選手14人を対象に、年度の変わり目でシーズン前にあたる8月に実施された。対象者の主な特徴は、年齢21.0±1.2歳、身長1.66±4.68m(原典論文どおり)、体重67.6±5.1kg、体脂肪率9.2±3.5%、除脂肪体重(fat free mass;FFM)61.3±5.7kgだった。
食事に関しては、3日間の食事モニタリングを基に摂取エネルギー量と主要栄養素摂取量を把握し、パフォーマンスに関してはカウンタームーブメントジャンプ(countermovement jump;CMJ)とプライオメトリックプッシュアップ(plyometric push-up;PP)を基に、上半身と下半身のピークパワーと反応強度指数(modified reactive strength index;RSI)を評価した。また、消費エネルギー量については、食事調査を行った3日間のウェアラブルデバイスのデータから算出した。
LEAでない選手もカットオフ値ぎりぎりのEAで、炭水化物摂取量の少なさが一因
3日間の消費エネルギー量と摂取エネルギー量の平均は、それぞれ685.8±170.4kcal/日、(30.5±4.5kcal/kg/日)、2,051.8±300.8kcal/日だった。
摂取エネルギー量と消費エネルギー量の差を「利用可能エネルギー(energy availability;EA)」として、その値を除脂肪体重(FFM)で除し、FFM1kgあたりのEAが30kcal未満の場合を「利用可能エネルギー不足(LEA)」と定義すると、14人の85.7%にあたる12人がこれに該当し、その平均EAは20.98±5.2kcal/kgFFMと低値だった。また、LEAではない2人もEAは30.58±0.2kcal/kgFFMであって、カットオフ値をわずかに上回る程度の低さだった。なお、EAの全体平均は22.3±65.9kcal/kgFFMだった。
栄養素摂取量をみると、炭水化物が3.7±1.1g/kg/日と少なく、これがEAが低いことの一因となっていると考えられた。タンパク質摂取量は1.6±0.4g/kg、脂質摂取量は0.9±0.3g/kgだった。
LEAか否かでパフォーマンス指標には有意差なし
次に、パフォーマンス指標に着目すると、カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)とプライオメトリックプッシュアップ(PP)の実測値、およびそれらに基づくピークパワーと反応強度指数(RSI)は、LEAか否かで有意差は認められなかった。
評価したパラメーター同士の相関を検討すると、CMJの実測値は体脂肪率(r=-0.647)や体脂肪量(r=-0.675)と負の相関があり、CMJに基づくRSIも体脂肪率(r=-0.547)や体脂肪量(r=-0.561)と負の相関が認められた。CMJに基づくピークパワーは体組成関連指標との有意な相関がなかった。
PPの実測値やそれに基づくRSIおよびピークパワーは、どの体組成関連パラメーターとも有意な相関がなかった。
持久系競技に比較し体操ではLEAの研究が不足している
著者らは、本研究で明らかになった特質すべき点として、男子学生体操選手の平均EAが22.3±65.9kcal/kgFFMであり、過去に報告されていた女子学生体操選手の平均を下回るほどの低値であることを指摘している。男子学生選手のEAが女子よりも低いことの理由の一部は、男子のほうがFFMが高値であることで説明できるとは言え、若年男子体操選手のLEAの潜在的なリスクの高さが示されたとしている。
一方、本研究からは、LEAのパフォーマンス指標への影響は否定された。この点は過去の研究報告と異なる結果であり、サンプル数が少なかったことなどの影響が考えられるという。
結論では、「男子大学体操選手のEAは低く、とくに炭水化物摂取量の不足が示唆された。LEAに対処しない場合、将来的なパフォーマンスに影響を与える可能性がある。EAとパフォーマンスの関係は、持久系競技では知見が蓄積されてきているが、体操でのデータは少なく、今後のさらなる研究が必要とされる」と述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Dietary intake, energy availability, and power in men collegiate gymnasts」。〔Front Sports Act Living. 2024 Sep 18:6:1448197〕
原文はこちら(Frontiers Media)