試合当日の予期ストレスは、個人競技選手では上昇するが団体競技選手は低下する?
試合の1週間前から試合当日にかけて、アスリートのストレスレベルがどのように変化するかを検討した研究結果が報告された。全体解析では有意な変化がなかったものの、個人競技のアスリートと団体競技のアスリートに分けて解析すると、有意な違いが見つかったという。
アスリートの予期ストレスは競技によって異なるのか
ストレスはアスリートにとって、パフォーマンスを高めるか、もしくは低下させる要因と考えられている。主要なストレスホルモンであるコルチゾールは糖新生を刺激し、代謝基質の利用可能性を向上させるため、この点ではパフォーマンス上、有利に働く可能性がある。しかしコルチゾールは概日リズムを乱して睡眠に悪影響を与え、またストレスに伴う不安はパフォーマンスを制限するように働く可能性が強い。さらに慢性的な高ストレス状態は、身体的健康やメンタルヘルスに負の影響を及ぼす。
ストレスのトランザクションモデルでは、予測される将来の状況が、自分にプレッシャーを及ぼすかどうかを評価し、そのプレッシャーに対応し得る手段を検討して、十分な手段がないと判断した場合に、予期ストレス(anticipatory stress)が生じるとされる。アスリートにおいて、将来の予想されるプレッシャーとは通常、重要な試合であって、その試合を避けることはできず、試合日が近づくにつれて予期ストレスが増大すると考えられる。
このようなアスリートの予期ストレスに関する研究は既に行われているが、競技の種別によって予期ストレスが異なるのか否かは未だ明らかでない。
さまざまな競技・競技レベルのアスリートを対象に唾液コルチゾールレベルを比較
この研究では、英国全土から募集された、さまざまな競技および競技レベルの成人アスリート38人(平均年齢26.8±9.0歳)を対象に、試合前と試合日の唾液コルチゾールレベルにより予期ストレスの変化が検討された。コルチゾールレベルに影響を及ぼし得る薬剤(例えばコルチコステロイド)の使用または疾患(例えばクッシング症候群)を有するアスリートを除外したことで1人が減り、解析対象は37人となった。
解析対象者のトレーニング歴は11.6±7.4年で、トレーニング時間は12.7±5.9時間/週であり、女性は3人のみだった。競技は自転車が22人、サッカーが13人、柔道が2人だった。競技レベルは、柔道選手は国際大会レベル、自転車選手は全国レベル、サッカー選手は地域レベルが多くを占めていた。
唾液検体は試合や競技の当日とその1週間前の計2日、それぞれ起床直後、起床30分後、45分後に採取された。
結果の解析では、ベースライン(試合や競技会の1週間前)と試合・競技会当日の全体での比較、および、個人競技と団体競技での比較が行われた。
ベースラインと試合当日を比べると全体では有意な変化なしだが、競技別では有意差
まず、ベースラインと試合・競技会当日の唾液コルチゾールレベルを全体で比較した結果をみると、上昇曲線下面積(AUC)に有意差はみられなかった(p=0.43)。
次に個人競技と団体競技に二分して変化をみると、個人競技アスリートではベースラインに比較し試合日のコルチゾールが有意に上昇していた(起床直後はp<0.01、起床30分後はp<0.05、45分後はp<0.001)。一方、団体競技アスリートではベースラインに比較し試合日のコルチゾールが有意に低下していた(起床直後から45分後の3時点ともにp<0.05)。結果として、個人競技アスリートと団体競技アスリートの反応に、有意な交互作用が認められた(p<0.001)。
予期ストレスの程度や競技レベルの違いなどがコルチゾールレベルに影響か
著者らは本研究を、「アスリートの予期ストレスについて、個人競技と団体競技の双方を対象に検討した初の研究」だとしている。結論として、「対象全体では、試合日とその1週間前とでストレスレベルに違いはみられなかったが、個人競技のアスリートに関しては唾液コルチゾールの上昇が認められ、予期ストレスが上昇したことが示唆された。それに対して団体競技のアスリートでは、競技当日の朝に唾液コルチゾールレベルが低下していた」と総括している。
個人競技と団体競技でストレス反応に差が生じるメカニズムに関しては、団体競技ではチームへの帰属意識やサポート体制のために不安が生じにくいことの影響や、トレーニング内容の違いが影響を及ぼしている可能性のほかに、本研究において個人競技アスリートのほうがハイレベルで競技を行っていたことの影響を考察として述べている。即ち、個人競技アスリートは全国大会または国際大会に参加していたが、団体競技アスリートは地域大会レベルに参加しており、アスリートのキャリアにとってより重要と認識されやすい試合・競技会ほど唾液コルチゾールレベルが上昇することが先行研究で示されていて、今回の研究でもその差が現れた可能性があるとしている。
文献情報
原題のタイトルは、「Blunted anticipatory stress responses on competition day in team sports athletes compared to individual sports athletes」。〔Compr Psychoneuroendocrinol. 2024 Aug 5:20:100254.〕
原文はこちら(Elsevier)