日本の食品ロス全体の約50%が家庭から発生、年齢が高くなるほど増加する傾向 立命館大学
どの世代のどんな食生活が、食品ロスと温室効果ガスを発生させているのかが明らかにされた。高齢の世代ほど一人あたり食品ロス量が増加傾向にあり、最も若い29歳以下と最も高齢な70歳以上の世帯を比べると、約2.8倍の差があるという。立命館大学などの研究グループによる論文が「Nature Communications」に掲載されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが掲載された。
研究の概要
立命館大学理工学部、長崎大学環境科学部、東京大学大学院工学系研究科、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所の研究チームは、これまでの各種国内統計と環境システム分析手法により、日本の家庭から発生する食品ロス(食べられるのに捨てられている食品廃棄物)と、それによって発生するCO2などの温室効果ガス排出量について解析した。
その結果、どの世代の、どんな食生活によって、潜在的にどれぐらいの食品ロスと温室効果ガスが発生しているのかを、世界で初めて明示することに成功した。このままの食生活とロスの割合が続いた場合、今後の少子高齢化による人口減少が起きても家庭系食品ロスは微減にとどまることから、「年代ごとの食生活の違いに着目した、より踏み込んだ対策」が重要と考えられた。
研究の背景:家庭で発生する食品ロスは全体の50%
国連によると、世界中で生産された食料の約3分の1は、消費されずに廃棄されていると報告されている。また、廃棄された食品が、それまでの過程で発生させた温室効果ガス排出量(CO2やメタンガス等の地球を温暖化させる物質)は、世界全体では日本の年間温室効果ガス排出量をはるかに上回ると見積もられており、食べ物の無駄をなくすことは、地球温暖化対策にも貢献すると考えられている。
日本では、まだ食べられるのに捨てられている食品廃棄物は「食品ロス」と呼ばれている。食品ロスは食品の生産時や輸送時、販売時など、さまざまな場所と段階で発生するが、家庭からの発生量は全体の50%近くを占めている。このような家庭系食品ロスの傾向は、日本も含む先進国で多くみられるものの、その詳細な構造や発生要因は世界でもほとんど明らかになっていなかった。
そこで本研究では、これまでに著者らが行ってきた先行研究とライフサイクル分析をもとに、日本の家庭を対象とした食品ロスとその食品の原料から卸売までの過程で発生した温室効果ガスの構造を、世帯主の年齢層別食生活の差異に着目して解析する手法を新たに開発した。
本研究の内容:食材では野菜と果物でロスの半数を占め、年齢では高齢世帯に課題
環境省や農林水産省、総務省、文部科学省、国立社会保障・人口問題研究所が公表している、人々の食生活、食品ロス、人口動態にかかわる各種統計、および産業総合研究所と国立環境研究所が公表しているライフサイクル環境負荷データベースにおいて、共通して取得し得る最新値を用いた結果、2015年の家庭系食品ロス構造とその温室効果ガス排出構造は、図1のように推計された。家庭系食品ロスとなった主な発生源は、キャベツを中心とする野菜やバナナなどの果物で、これらが全体の半数近くを占めた。関連する温室効果ガスの主な発生源は、野菜類に続いて調理食品、魚介類、肉類が入り、詳細を見ると惣菜類や牛肉、食パン以外のパンが目立った。
図1 日本の家庭系食品ロスと、その食品の原料から卸売までに発生した温室効果ガスの内訳(2015年値)
続いて世代(29歳以下、30歳代、40歳代、50歳代、60歳代、70歳以上)別の一人あたりの平均家庭系食品ロス発生量を解析すると、年齢が上の世代ほど多くなる傾向がみられた(図2)。最も食品ロス発生量の高い70歳以上と低い29歳以下は、それぞれ16.6kg/人と46.0kg/人と見積もられ、3倍弱の差となった。これは、高齢世帯のほうが比較的外食の頻度が少ないことだけでなく、傷みやすかったり過剰除去になりがちだったりして食品ロスとなりやすい食品群を購入していることが原因として考えられる。
図2 世代ごとの一人あたり平均食品ロス発生量と関連する温室効果ガス排出量(2015年値)
発生要因について調べると、高齢世帯は過剰除去によるロスが多く、若年世帯は食べ残しのロスが多い特徴がみられた。一人あたり平均温室効果ガスについても食品ロスと同様の傾向がみられたが、最大の排出世帯は60歳代だった(約90kg-CO2e/人※)。
さらに、これらの傾向と人口・世帯数の将来推計の統計から家庭系食品ロスと温室効果ガスを推測すると、少子高齢化を反映して、食品ロスは2020年以降2040年まで減少する傾向が推測されるものの、総人口の減少率ほどではなかった。これは、現時点で家庭からの食品ロスが多い高齢世帯が今後さらに増加していくことに起因し、政府が掲げている2030年までの削減目標値に達するためには、さらなるロス対策の必要性が示唆された。
以上のことから、家庭系食品ロスを効果的に減らすためには、世代ごとの食生活の違いに注目した対策を検討することの重要性が明らかとなった。とくに、この先も進行する少子高齢化は、人口減少による家庭系食品ロスの減少を鈍化させる可能性がある。これまでのように食べ物の大切さを伝える食育だけでなく、食品ロスを避けるための可食部や調理の工夫に関する情報提供、食品ロスの出にくい高齢世帯のニーズに合った調理食品の開発なども、あわせて推進することがSDGsの一環として強く望まれる。
プレスリリース
日本の世代別の家庭系食品ロス構造とその温室効果ガス排出構造を解明(立命館大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Curbing household food waste and associated climate change impacts in an ageing
society」。〔Nat Commun. 2024 Oct 21;15(1):8806〕
原文はこちら(Springer Nature)