日本人の食品の摂取頻度・嗜好と生活習慣病関連の一部に性差があることが判明 藤田医科大学
日本人において、男性と女性の食品の摂取頻度・嗜好の違いがみられ、男性は肉、魚、清涼飲料水、アルコールを、女性は大豆、乳製品、野菜、果物、スナック菓子を摂取する傾向が強いこと、また、HbA1c、eGFR、non-HDL-Cについては、性別によって食品の摂取頻度・嗜好との関連が異なることが明らかになった。藤田医科大学の研究グループの研究成果であり、「Nutrients」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが発表された。
研究の概要:個別化した栄養指導の必要性を表すエビデンス
この研究では、同大学職員の健康診断で聴取した食事頻度調査の結果を男女別に分け解析した。男女ともに肉や野菜に比べて、魚、海藻、果物、芋類は食べる頻度が低いことがわかった。細かくみると、男性は肉、魚、清涼飲料水、アルコールを摂取する傾向が強く、女性は大豆、乳製品、野菜、果物、スナック菓子を摂取する傾向が強いことがわかった。
臨床検査値との関係について、性別に関係なく関連がみられるものは、アルコールと尿酸、アルコールとHDL-C、睡眠時間とHbA1c、芋類とトリグリセライドだった。グルコースから脂肪酸やトリグリセライドが作られること、ビールなどの醸造酒に含まれるプリン体から尿酸が作られることから、原料と代謝物との間に関連性が存在する場合は、性別に関係なく、食品の嗜好と臨床検査値が関連することがわかる。
一方、性別ごとに影響が異なるものとして、男性は、肉の摂取頻度がHbA1cと正の相関、eGFRと負の相関を示したのに対し、女性は、魚の摂取頻度がeGFRと正の相関を示した。卵と大豆の摂取頻度は、女性においてのみ非HDL-Cと、それぞれ正および負の関連を示した。
食事の摂取頻度・嗜好が代謝パラメータに及ぼす影響は年齢や性別によって異なると明らかになったことから、食事指導の重点を性別や年齢層によって変えることが効果的であると予想される。今後、性差を考慮した生活習慣病の栄養指導が有効か、前向き研究で証明することが必要。
研究の背景:健康経営のためにも食事の嗜好と代謝の関連の検討が必要
食事の嗜好は、年齢、性別、住んでいる環境(文化)の影響を受ける。食事の嗜好の違いは代謝パラメータに影響を与えると考えられるが、日本人の特徴はあまり調べられていなかった。さらに、代謝疾患の治療ガイドラインにも、あまり性別ごとの食事の嗜好性は反映されていない。
近年、健康経営の観点から、従業員の健康管理は人的資本の強化に重要であり、食事環境の調査はその基本になるとの考え方がスタンダードになってきた。そこで研究グループでは、同大学の職員を対象に、性別ごとの食品摂取頻度を調べ、次にそれぞれの食品摂取頻度が代謝マーカー(血糖、腎機能、脂質、尿酸)に及ぼす影響を調べた。
研究手法・研究成果:代謝マーカーと食品摂取量との関連性が性別で部分的に異なる
藤田学園の職員健診を受けた人のうち食事頻度調査に参加した3,147人(平均年齢35歳、男性968人、女性2,179人)を対象に10品目(肉、魚、卵、乳製品、大豆、緑黄色野菜、芋類、海藻、果物、脂類)の摂取頻度、スナック類などおやつの摂取頻度、砂糖を入れたコーヒー・紅茶の摂取頻度、清涼飲料水の摂取頻度、アルコール摂取頻度を性別ごとに調査した。さらに性別ごとに、HbA1c、eGFR(腎機能)、尿酸、脂質(トリグリセライド、HDL-C、non-HDL-C)などの代謝マーカーとの関連を、年齢、BMIで調整し、検討した。
その結果、男性は肉、魚、清涼飲料水、アルコールを摂取する傾向が強かったのに対し、女性は大豆、乳製品、野菜、果物、スナック菓子を摂取する傾向が強くみられた。
年齢とBMIで調整した多変量線形回帰モデルでは、男性は、肉の摂取頻度がHbA1cと正の相関(β=0.007、p=0.03)、eGFRと負の相関(β=-0.3、p=0.01)を示したのに対し、女性は、魚の摂取頻度がeGFRと正の相関(β=0.4、p=0.005)を示した。卵と大豆の摂取頻度は、女性においてのみ非HDL-Cと正および負の関連を示した(卵はβ=0.6、p=0.02、大豆はβ=-0.3、p=0.03)。アルコール摂取頻度は、男女ともに尿酸(男性β=0.06、p<0.001、女性β=0.06、p<0.001)、およびHDL-C(男性β=1.0、p<0.001、女性β=1.3、p<0.001)と関連していた。
今後の展開
本研究により、日本人においても男女の食事の嗜好性が異なることが示された。また、男女に共通して野菜や肉は摂取しているが、魚、大豆、果物、芋、海藻の摂取は少ないこともわかった。研究グループでは、「今回の研究データを基に、不足する食品群(魚、大豆、果物など)を補うレシピに基づき、職場での料理教室を行うことで、職場での食事に対する啓発活動(食育)に活用し、健康経営にも役立てたいと考えている」としている。
また、食事摂取の頻度と血糖、脂質、腎機能への影響に性差が観察されたことは、生活習慣病における栄養治療を行う際に、性別による食事嗜好性の違いを考慮する必要があることを示している。卵の摂取頻度は男性と女性で同じでも、女性でのみnon-HDL-Cと正の相関が見られたことから、「卵の調理法にも注目する必要があるかもしれない」とのことだ。
その一方で、アルコール摂取と尿酸、芋摂取とトリグリセライドの関連は性別にかかわらず認められた。アルコール飲料に含まれるプリン体と芋(デンプン)はそれぞれ体内で直接尿酸とトリグリセライドに変換されることを考えると、原料と代謝物とに関係にあるものは、性別によらず食事制限が有効と考えられるという。
なお、今回の研究は因果関係を証明するものではないため、「性別とその食事嗜好性の違いに基づいた栄養指導が、生活習慣病の予防や治療に有効かを確かめる必要がある」と付け加えられている。
プレスリリース
食品の摂取頻度・嗜好と生活習慣病の関連に 一部性差が見られることを明らかに(藤田医科大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Sex and Age Differences in the Effects of Food Frequency on Metabolic Parameters in Japanese Adults」。〔Nutrients 2024, 16(17), 2931〕
原文はこちら(MDPI)