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グリコーゲン枯渇後の低炭水化物食と高炭水化物食を比較 1500mタイムトライアルで差があるのか?

グリコーゲンを枯渇させた状態から高炭水化物食としてグリコーゲン貯蓄量の増大を図る「グリコーゲン超回復」を行った場合と、低炭水化物食を続けた場合とで、1500mタイムトライアルのパフォーマンスや体重などに、どのような差が生じるかを検討した結果が報告された。高炭水化物食にすることで体重が有意に重くなるものの、タイムトライアルは有意に向上するという。

グリコーゲン枯渇後の低炭水化物食と高炭水化物食を、1500mタイムトライアルで比較

グリコーゲン枯渇後の炭水化物摂取量の多寡の影響を検討

高強度運動時の主要なエネルギー基質は炭水化物であり、肝臓や筋肉のグリコーゲンの可用性の高さがパフォーマンスの重要な決定要因とされる。筋グリコーゲンの貯蓄を減らした後に炭水化物摂取量を増やすことで、ベースライン(グリコーゲン貯蓄を減らす前の段階)を上回る貯蓄を得る「グリコーゲン超回復」という現象の存在が知られるようになってから、これを競技前に行い成績向上を狙う試みがなされている。しかし今回取り上げる論文の著者によると、グリコーゲン超回復については実験的なレベルでのエビデンスは少なくないものの、よりリアルワールドに近い設定での有効性は必ずしも明らかになっていないという。

これを背景として著者らは、トレーニングを行っている中距離ランナーを対象とするクロスオーバー研究により、グリコーゲン枯渇後の炭水化物摂取量の多寡によってタイムトライアルの成績や体重、乳酸値、血糖値、心拍数、自覚的運動強度(rating of perceived exertion:RPE)などに差が生じるか否かを検討した。

ティア3の中距離ランナー11人を対象にクロスオーバー法で検討

研究の対象は、ハイレベルのトレーニングを行っている中距離ランナー11人。うち女性が4人で、年齢は21±4歳、BMI21±2、トレーニング歴は8(範囲3~13)年であり、ワールドアスレティックス(旧:国際陸上競技連盟)のIAAFスコアは自己ベスト平均が841±103であって、ティア3に相当する中級レベル。除外基準として、炭水化物制限などの食事操作を行っていること、疾患や怪我の存在などが設定されていた。

試験デザインはクロスオーバー法で、グリコーゲン枯渇を行った後の2日間を、高炭水化物食または低炭水化物食として、1500mタイムトライアル(TT)を実施した。各条件の試行には4週間のウォッシュアウト期間を設けた。より詳しくは以下のとおり。

グリコーゲン枯渇セッション

タイムトライアルの48時間前に、1500mTTの予測スピードの66%の速度での60分間のランニングに続き、200m×10回のスプリントを実施。さらに、スプリントで生じた乳酸からの糖新生の影響を抑えるため、15分間のジョギングを行った。

食事操作セッション

グリコーゲン枯渇セッションに続く48時間は、高炭水化物条件では炭水化物を確実に5g/kg/日以上とするために少なくとも約10g/kg/日を目指し、低炭水化物条件では確実に1.5g/kg/日未満とするために約1g/kg/日を目指すこととした。摂取エネルギー量の維持のために脂質摂取量をアレンジし、タンパク質摂取量はできるだけ変えないようにした。

なお、この期間中はカフェイン、アルコール、サプリメントの摂取を禁止し、トレーニング内容を変更しないように指示した。また、枯渇セッションの3日前から写真撮影等により食事記録をつけ、栄養素摂取量を評価した。

タイムトライアル

タイムトライアルでは、食後2~5時間後(通常の食事のタイミングで摂取後)、正午に屋内競技場で行った。環境温度は19.5~20.5℃、相対湿度は45~55%だった。最初の400mは各ランナーの記録に基づくペーシングランプを示し、できるだけそのペースに従うことが推奨された。またトライアル中、研究条件を盲検化されたスタッフが声掛けにより激励した。トライアル前後に心拍数、乳酸値、血糖値および酸化ストレスのマーカーであるマロンジアルデヒドを測定した。

食事操作の影響について

各条件において、食事操作セッションに入る前の体重、摂取エネルギー量、主要栄養素の摂取割合に有意差はなく、炭水化物は4.8±1.4g/kg/日(食物繊維を除いて4.4±1.5g/kg/日)摂取されており、エネルギー比率48%であって、タンパク質は36%、脂質は16%だった。

一方、TT前の体重は高炭水化物食条件の方が重く有意差が認められた(67.7 vs 68.4kg、p=0.048)。また、食事操作中の摂取エネルギー量は高炭水化物食条件のほうが有意に高かった(38.5 vs 59.0kcal/kg/日、p<0.001)。主要栄養素の摂取量にも以下のように有意差が認められた。炭水化物は1.0±0.4 vs 9.7±2.6g/kg/日(p<0.001)、脂質は3.0±0.8 vs 1.7±0.6g/kg/日(p<0.001)、タンパク質は2.1±0.7 vs 1.6±0.3g/kg/日(p=0.044)。水分摂取量にも有意差がみられた(41.5 vs 50.7mL/kg/日、p<0.001)。

高炭水化物食の好影響は体重増加を凌駕する

1500mTTの記録は低炭水化物食条件が279.9±16.9秒であるのに対して、高炭水化物食条件では275.4±18.7秒であって、後者のほうが有意に短かった(p=0.009)。200mごとのスプリットタイムを比較すると、後半になるに従い、条件間の差が拡大していた。なお、タイムトライアルの初回の平均は278.3±17.8秒、2回目は277.1±18.1秒であって有意差はなく、両条件の試行順序は結果に影響を及ぼしていないことが確認された(p=0.811)。

自覚的運動強度(RPE)は16.9±2.1 vs 15.7±2.0であり、高炭水化物食条件のほうが有意に低値だった(p<0.001)。トライアル中の歩幅や歩数、動作(フライトフェーズ、スタンスフェーズの時間)には有意差が認められなかった。ただし、歩幅については有意ではないものの、低炭水化物食条件で短い傾向があった(176.6 vs 178.5cm、p=0.086)。

乳酸値と血糖値については、TT前時点において低炭水化物食条件のほうが有意に低く、乳酸値のピークは高炭水化物食条件のほうが有意に高値だった。マロンジアルデヒドは両条件でTT後に15%増加し、条件間の差はなかった。

著者らは、「トレーニングを行っている中距離ランナーが、グリコーゲン枯渇セッション後に十分な炭水化物を摂取した場合、体重が増加するにもかかわらず1500mのパフォーマンスが向上した」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Effect of Low vs. High Carbohydrate Intake after Glycogen-Depleting Workout on Subsequent 1500 m Run Performance in High-Level Runners」。〔Nutrients. 2024 Aug 19;16(16):2763〕
原文はこちら(MDPI)

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